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ANGEL EATER  作者: 平藤夜虎
黒猫編
12/36

TEXT12:ツヴァイと朔

2XXX年、7月X日。うだるような真夏の日に、あの忌まわしい大戦は勃発した。


人間の脳を媒体に、まるで人間のようにかつ、代替品の効く機械として生み出された新たな人口破壊兵器。


そう、デウスロイドとマキナロイドの試作機はこの時、すでに極秘裏に実践投入されていたのである。


東京霞が関に当時立てられていた軍事施設。【中央人格統合実験群・第七区】。その忌まわしい場所で、朔は試験体NO45として誕生した。


当時の日本軍は感情アルゴリズムの習熱を試みるも、彼は感情の模倣ではなく、変質を見せる挙動が見られたため廃棄対象になっていたがしかし、戦術実行端末としての転用に成功したため廃棄処分を免れたのである。


この時、人格分岐時の際に【サク】と本人が初めて発声したログが残されており、これにより彼は試験体NО45から【SAK-013】と個体名を改められた。


戦術実行端末として転用後、朔はその実力と実績から日本軍の部隊長として動くことになった。


戦術演算、索敵処理や交渉。そして何よりも、命令違反をした兵士への厳罰などが主な仕事となった。



「怖かったんです。許してください」


銃声。


「家族に会いたかった。ただそれだけなんです」


銃声。



「少年兵だったんだ・・俺の息子と同じ年くらいで・・だから・・」


ーーーー また、銃声。


違反を犯した彼らは悲痛な表情で朔にそう言い残したが、デウスロイドである彼は命令を最優先としてただ、粛々と処理を済ませていった。


だが、そんなある日の事だった。


とある一人の若い兵士に出会ったのだ。


まだ年若く、人懐っこく兵士らしくない兵士。他の人間と合わずに追いやられた寄せ集めの・・使い捨てのような部隊には適さないような、そんな青年だった。


それは、朔に対しても例外ではなく、暇な時間を見つけては彼は朔に話しかけ多くの事を教えてくれた。


自分は実は将来は音楽教師を目指していたと言うこと。


しかしこの大戦がはじまりそれどころではなくなり、戦場に駆り出されたこと。


「仲間が死んでいくのはきつかったですよ・・でも、そんな時もこいつが俺を励ましてくれたんです。」


そう言って、彼が見せてきたのは小さなハーモニカ。古ぼけ、所々さび付いてはいたが、彼が奏でる優しくもどこか懐かしい音色は朔のデータに小さな衝撃を残した。


その音色と、機械兵器である自分を人間のように扱う彼に対して朔は疑問を持ち、どうして自分にそこまでするのかと尋ねてみた事があった。


「部隊長だって、人間みたいなモンでしょう?なのに物扱いするのは俺、気分が悪いんすよ」


そう、当たり前のように笑う彼に朔は興味を持ち、徐々に親睦を深めていった。


最初は下手くそだったハーモニカも、彼の教えにより少しづつ少しづつだが上達していった。


だが、それと同時に彼の中に【予期せぬバグ】が発生してしまう。



部下たちを死なせたくない。叶うならば、故郷に返してやりたい。


そんな、人間のような感情を朔が持つことを当時の日本軍・・政府は許しはしなかった。


ーー 部隊は解体。大戦終結後に朔は言われもない命令違反を犯したとして、プロメテウス社の実験施設へと収容された


地獄のような日々が続いた。非道な耐久実験などの日々の中で。


朔自身も、ツヴァイ同様【感情抑制実験】が実施されたのである


ーーー まさに、朔にとっては拷問のような時間だった。


あの兵士が、自分に音楽を教えてくれた彼が


目の前で電気椅子から流れる高圧電流により黒焦げにされ、生きたまま皮をはがされ


語るも悍ましいような光景が、朔の前に広がっていたのである


「ーーーーーー 。」


もう、限界だった。



血の池に浮かんだハーモニカを握りしめ、傷を負いながらもその施設を脱走


そして、当時日本独立活動と共にデウスロイドに人権を与えようと動いていた東雲龍樹氏と


その孫娘である、要に救われたのだ。



「・・・・・・・相変わらずだな。あのクソ共は」


朔の話を静かに聞いていたツヴァイはそう吐き捨てるとジャケットの裏からタバコを取り出しジッポーライターに火を付ける


「・・・地獄のような中で、龍樹と要は私に光を与えてくれたんです。」


そう話す朔にツヴァイは何も言わずだんだんと明るくなっていく空を眺めた



「・・・・他の人間は俺やアンタの中に生まれた感情をバグだと切り捨てるだろうな・・・」


「・・そうですね」


「俺からしたら奴等のほうが狂ってると思うぜ。」


吐き出された紫煙が空に消えていく。冷たい風が吹きすさぶ中でツヴァイがさらに話を続けた


「・・・・全てが終わったら、俺は美琴と一つになる。」


「は?」


「人間と機械もどきが融合なんざ無理だと言いたいんだろう?・・・けどな、【方法なら知ってる】」


煙草をくわえたまま穏やかに笑うツヴァイに朔は少しだけ身じろいだ。こちらを見つめてくるアイスブルーの瞳に狂気が混じっているのを感じたからである



「・・・何の、ために?」


朔がそう尋ねると、ツヴァイは穏やかな口調のまま答える



「俺と美琴のため。」


そう答えるとツヴァイはたばこを消して吸い殻を足で踏めば踵を返す



「さてと・・・そろそろウチの女王様がお目覚めになる頃だ・・戻ろうぜ。ハンサム。」


「・・最後に、聞いてもいいですか」


朔の言葉にツヴァイが立ち止まる。


「・・・もし、美琴さんを世界が消そうとしたら・・貴方は・・」


「世界を消す。」


「、・・・・・」


「あいにく、この狂った機械モドキにはあの寂しがりの病んだ女王様しか居ないんでね。」


朔の方に視線は移さずにツヴァイはそう答えると静かにアジトへと戻っていった



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