text11:コレがバグであるならば
俺達に【人権】などは無い。
血管の代わりに張り巡らされた電子のコードとプラグ、骨の代わりに埋め込まれた鋼と合金、カーボン。
涙や血の代わりに流れるのは疑似生体液。そして体を動かすのは
負けていった誰かの、裏切られ誰かに売られた人間の脳。
埋め込まれた脳に奔る電流が信号となり、この体は動いている
・・・けれど、新たな生命とは名ばかりで
俺たちに意志も人権も、自由もなかった
「・・・俺を作ったのはプロメテウス社だった。使用されたのは先の大戦で殉職した自衛官の脳。・・・摘出した際に状態が良かったみたいでな。すぐにボディが作り出されて・・俺が生まれた。」
夜風にあたりながら静かに語るツヴァイに朔は何も言わず話を聞いていた
「・・・・優秀な個体だったみたいでな。すぐにプロメテウスの精鋭部隊、ナンバー10の2番目に登録されたよ。・・・あの日まではな」
紫煙を吐き出し目をつむれば目に浮かぶのはあの日の光景。
白い壁の実験室。感情処理限界テストとして計画された非合法な実験。
手渡された拳銃と、目の前には敗戦国の孤児の少女。
・・・今思えば、どこか美琴に似ていたように思った。
撃つな。と本能が叫んでいたのに、刻まれていたプログラムは目標の排除を優先した
「・・・・撃ったん、ですか」
「撃ったよ。・・・・気づいた時には、俺の手から煙が上がっていて・・・倒れたあの子の濁った眼を見た瞬間。俺の中で何かが暴走した。」
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【ジェヴォーダンの夜】事件(コード:Z-Ω)
日時:21XX年某日、プロメテウス社 第3研究都市圏にて発生
内容:逃亡を図ったデウスロイド・ツヴァイによる“破壊と殺戮”
被害:研究員、軍人、セキュリティ計88名死亡。施設破壊、炎上
特記:「ツヴァイは明らかに暴走していたが、誰ひとり民間人には被害を出さなかった」
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覚えているのは断末魔と、そして腕に抱えた少女の遺体がだんだんと冷たくなってく感覚。
「クソ・・・また、何人・・・・殺した?・・・ふざけやがって・・・プロメテウスの外道ども!!・・・」
雨音が響く夜の路地裏で壊れた壁に持たれかかりながらうずくまり声を荒げる。左腕の配線はむき出しになり、皮膚の一部は裂け機械の部分が露わになっている。視界が赤黒く染まりながらもその右手には銃が握られている。
そんな時だった、足音が近づき柔らかな気配と雨の匂いに交じり蓮花の香りが鼻孔をかすめた
「動くな。」
すぐさまその方向に銃口が向けられるが、その影は恐れることなく俺のほうへと歩みを進めてきた。
「・・・雨、冷たいでしょう?ほら、濡れてると風邪ひくよ?」
和傘を差し、黒い浴衣を身にまとった女は俺の前にしゃがみこむと顔を覗きこむ。
「・・近寄るな・・俺は兵器だ・・・人間じゃねぇ!!!」
「うん。知ってるよ?・・・・でも、お腹は空くでしょ?」
怯えることもなく、俺の頬に触れて女は笑みをこぼした
ーーー おいで?
「ーーーーー それが、俺と美琴の出会いだったな。」
吸い終えたタバコを指で消して懐にしまえばツヴァイは朔を見つめる
「まだ聞きてぇなら・・こっから先、R指定入るぜ?」
「え??」
「あ?・・・お前セックスくらいはわかるだろ?」
シレっととんでもない発言をするツヴァイに朔は一瞬あっけにとられたがすぐに顔を赤らめると、大きく咳をした。
「童貞かよお前。」
「なっ!?い、いや、そもそも!!」
「異常に見えるか?」
「っ!」
「狂ってる?異常?・・・・っはは、上等だよ。この感情って物がバグなら俺は喜んでそれを受け入れるだけさ」
愉快そうに笑うツヴァイに朔は少し唇をかみしめ少しうつむく
「・・・で?俺はある程度話したぜ?次はお前の番だろ?」
アイスブルーの瞳が静かに朔を捉える。こちらの過去、弱みを少し見せたのだからそちらも話せと言う事なのだろう。
ツヴァイの言葉に朔は静かに目を閉じあの日のことを思い出す。
あの地獄から逃げ、暗闇の中さまよいながらも掴んだ灯、それが要だった
「・・・そうですね。こちらが情報を出さないのも公平ではないですね。」
ツヴァイの言葉に朔は静かに目を開くと、自身の過去を静かに語りだした。