戦闘
▽▽▽
「で・す・よ・ね〜〜!」
なんも戻ってなかった。スマホは充電したら電源は付いたが、もちろん圏外。緑のアイコンもWi-FiもSafariもなんにも繋がらない。時刻は午前10時5分。普通に寝ちゃった。えへ。スッキリぱちぱち。
東京の、しかもここ新宿歌舞伎町は魑魅魍魎が溢れる世界なのよ。繊細なんて言葉は多分お母さんのお腹の中にそもそも置いてきちゃってるし、心臓には毛がわっさわっさ生えちゃっていると思う。でも剛毛だと嫌だからプードルみたいにもこもこかわいい毛がいいな。
起きて歯でも磨こうと靴を履いたところで私は昨日微かに感じた違和感の正体にここで気がついた。
このピンヒール、私の装備品として認識されているらしい。履いていないと素早さってやつが下がる。って昨日からよく聞こえる声が教えてくれた。なんか何か起こっている現場の音がおっきいとそっちを優先して機械音声のボリュームが下がるらしく、昨日は気づかなかったっぽい。
素早く動くにはピンヒールで動いていたほうがいいってことかあ。いや、いいんだけどね、足くさくなっちゃうんだけどお〜。
ロッカーから消臭スプレーを取り出して靴に振りかけたり、汗拭きシートで体を拭いたりしていると最早聞き慣れたその声が
『スキル 浄化 を取得しました』
あれ、そういえばスキルってなに??
“装備”はなんか分かる。アイテムでしょ。身に付けたら能力値が上がるとか効果出るとか〜?スキルって資格的な?使おうと思ったら使えるのかな?
「浄化〜!…なんちゃって」
てへってしようとしたところでふわっと身体を軽い風が攫うような感覚がして、エッ?となった。
うそお、、出来ちゃった?
くんくんと体の匂いを嗅いでみると、汗拭きシートの香りではなくいつも使っているお気に入りのボディーソープの香りがした。
ええええ〜機能性良すぎぃ…
ていうかご都合主義すぎるスキル…。取得まで安易で安直、容易ぅ
これ勇者か聖女になっちゃうアレ?アレなの?
さすがに野晒しのお店やロッカールームでただうろうろするだけで時間を消耗するのもいただけないので、なんか使えそうなものを準備して周りのパトロールに向かうことにしよう。
なんも入らないちっちゃなカバンはお留守番〜。
なんか代わりのやつ代わりのやつ…
「リュックとかあるわけないよね。いっか、この高そうなショッパーで。みきさんのかな〜、あの人おねだりうますぎるんだよな」
独り言が多いのは一人暮らしの末路である。
靴箱のあたりに大量にあったショッパーからがっしりとした紐が持ち手のボルドーの紙袋に狙いを定めた。
一時期お店の辺りでストーカーが多発していた時期に女の子たちの間で流行ってたキックボクシングジム。すっかりブームは通り過ぎていたがグローブはここぞとばかりに置いてあったので持っていく。一応2、3ヶ月ぐらいは言ってたよ?私だっで
あとなんか結界構築用のこーきくんの香水、
うーーーーーーん、なにサバイバル?だよね、なんだろ
厨房からナイフ、あフルーツ盛り用のフルーツいっぱいあるじゃん!お腹空いてたんだあ
お店の名前が入ったライターと、あ!救急箱セットある!絆創膏、消毒液、正露丸、頭痛薬
結構必要な物多いなあ、無人島に一つだけ持っていくならとかもう無理難題な質問だよね、どう考えてもスマホ
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ここが歌舞伎町っぽいところなら駅の東口に向かうかな?とりあえず
なんかやっぱり元の街の面影がありありあり過ぎる。
建物のあった場所にはちゃんと家というか小屋とか住む場所があって、道路は塗装がされてない田舎道。
ただ数は少なくて空き地になってたり、畑だったりする。ただ明らかに私の知っている歌舞伎町、ううん、日本と全然違う景色がある。天高くそびえ立つ大木。
ねがここまで伸び伸びと張っている。私、引きこもり体質夜型人間地下しか歩かないから土地勘とか全くないけど多分あっちは東京駅とかの方かなあ。ていうか大きい建物大きい建物なさすぎ。まぶし
あとただただ住民がいない。人はみんなどこに行ってしまったのだろうか。
ものの数分、新宿駅にはすぐついた。駅は掘っ建て小屋とは比べ物にならないくらい大きい。木造建築の雑多な作りだが、吹けば飛ぶようなさっきの家々とはまるで違う。し、めっちゃでかい。
「お、お邪魔します〜」
ここにも人の気配はなかったが恐る恐るそう声をかけてドアを開けた。
幾多ものテーブルと椅子、転がった酒瓶、散らかった羊皮紙、ごちゃっと荒れている印象はあるが、カウンターもあり、ご飯屋さん?みたいだ。
何か書かれている紙を拾って読み上げてみる。
「うんん?す、スタンピード発生、今すぐ、、今すぐ避難を、!?」
スタンピードってなんかあれだよね、突進とか暴走、、動物とか人の大移動みたいな
「ってやばいじゃん!だから人いないのね、みんな避難してるってこと!?」
これいつの話、、って思った時には遅かった。
何だか地鳴りがする。ご、ご、ご、
高架下にいる時みたいな感じだ。何となく、もう何が何だか分からないことだらけだけど、ここに来て初めて、っていうか人生で初めて感じた“死の恐怖”
殺気を当てられたみたいな、背筋に汗がつたって、ぶるると悪寒が走った。
寒くないのに鳥肌がぶわっと立つ。