転移
私が歌舞伎町の、ううん、新宿の異変に気付いたのはこのときだった。私が、というよりはたぶんみんな気付いた。
最初は入り口に置かれた観葉植物が
その次にグラスに注がれた液体が
そしてシャンデリアがカランカランと音を立て始めて
大きく揺れはじめ、
私もユリさんも姿勢を崩した。
「キャーッ!?」
所々で上がる嬢達の悲鳴が耳をつんざき、みんなどうしていいか分からず、
私もユリさんもわけが分からなくて頭を抱え、ただ目を瞑ってそこに2人とも座り込んだ。
「地震…」
大きく揺れたのはほんの数十秒で、とくに何かが当たることもなく揺れが止まってほっと息を吐き、様子を伺いながら立ち上がる。
スマホに地震速報が出てないか確認するために立ち上げて、
アホみたいに五月蝿いいつもの警戒のアラートが鳴らなかったことに首を傾げた。
「ユリさん、だいじょうぶ?」
そう声をかけると同時に立ち上がった私は
何かに引っ掛かって再び地面に舞い戻った。
「え…?」
私が躓いたのは大きな木の根?だった。
「は…?」
見上げた空にはいつぶりだろうか、幾千もの星が煌めき瞬いていた。
▽▽▽
煌々と光り輝いていた成金バカでかシャンデリアはすっかり地面に落ち切ってホコリを被っている。
床をつたう木々の根は敷いてあった真っ赤なカーペットが乗っていたり、突き破っていたり。
革の立派なソファーも大理石のテーブルも
我◯◯◯万也!と鎮座していたボトルたちも
全部が見るも無惨な情景だった。そして誰もいない。さっき話してたユリさんも、こーきくんも。
「え、え、えええええええええええ」
ドア付近は鏡貼りだったので埃だらけのそれを手で払って覗き込んでみると綺麗な栗色の髪が呑気にるん♪と揺れて映った。私だ。全然私。
ゴールデン街の提灯が並ぶ路地に
「えっ、スマホスマホ、、」
圏外どころか電源が入らない。
周りを見回しても人っこ一人見当たらず、意味が分からない。全然理解できない。頭が追いつかない。泣きそう。
「あ、っあ!?」
とっておきの最強戦闘服なはずのピンヒールが木の根に躓いて、転んだので流石に泣いた。
▽▽▽
すっかり泣き疲れてなんとなーーく現状を把握しつつある私はすくっと立ち上がってとりあえず外に出た。
だってこれは夢だから!!
歌舞伎町の一等地、ゴールデン街の提灯が並ぶ路地、、だったはずの場所に降り立った私は変わり果てた街(?)を目に映し、それはもう困り果てた。
廃れた街。まちって言うか村みたいな。テレビで前に見た、震災が起こって風化した街並みだ。瓦礫と木々と全部がごちゃごちゃでその合間を縫って寂しい風が吹いていた。
(、、まじ?)
夢だとしても、さすがにスタート地点が最悪過ぎるでしょお〜。
なのははセーブポイントに戻るを選択した。
元のビルに戻ったところで私は得体の知れないソレ(・・)に遭遇した。
つるんプルルンとした透き通った水色。なんだかたぶんみんなどこかで見覚えがあるだろうソレ。
「す、スライム…?」
ニコニコと笑って見えるそれはプルプルとボディを揺らしながら私に向かって来た。、む、向かってきた!?
「え、え、ええええええええ」
ヤダヤダヤダやだ、きもいいいいいいい
意味わかんないいいいいいい
咄嗟にピンヒールを脱いでスライムに向かってがむしゃらに投げた。
脱いだ瞬間、体がずんと重くなったように感じたがそんなことに構っている暇はなかった。
ポコポコ!!
『クリティカルヒット!!』
二足とも綺麗にスライムに当たると変な機械音が喋り出し、パンっと弾けてスライムは消えていた。私は地面にぺたんと座り込み、腹の底からでっかい息を吐いた。
「っふはああああああ〜〜〜〜、、てかコントロール完璧すぎない?」
『スキル 投擲 を会得しました。
レベルが2に上がりました。経験値5、アイテムぷにぷに玉を入手しました。』
「え、え、え、だれ…?誰かいる?」
また聞こえた機械的な女性の声がして私は辺りを見回すがさっきからずっと人の気配は感じない。
ホーーーホーーーと鳥の鳴き声、ざわざわと木々が揺らめく音、私の息遣いだけがそこにあった。
夜も更け、お酒が入り、泣きわめき、スライムと戦った私は流石に心身ともに疲弊していたので、
お店の中でも比較的無事な革張りソファに
ロッカーで守られていたブランケット、ダンボールに詰められたお酒のメーカーさんから送られてきていたたくさんのクッションで自分を囲み、そこでパタリと眠りについた。
効くかは分からないがまた変な生き物が現れたら嫌なのでお店を囲うようにこーきくんの愛用の高めの香水を拝借し、ぶちまけた。私はオネーサマやオキャクサマがどんな香りでも動じない強靭な鼻を持っているので全くもって無問題である。が、野生動物的なのは?たぶん嗅覚が敏感であることだろう。
『スキル 嗅覚耐性、結界構築 を取得しまし
「うるさいっ!おやすみっ!」
目が覚めたらいつもの日常が戻ってることを祈りながら。
▽▽▽