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地獄の学校生活

あいつは一体何を隠しているんだろう。

おそらくさっきの女たちにやられたんだろうけど……。

本人も踏み込まれたくなさそうだったし。

ならば俺もあまり深くは踏み込まない。

あいつが隠していることは、俺の不調を察知できたのと関係あるのか。

それはわからない。

でも、あいつは俺と同じ何かを抱えている。


「あら?新井くん?どうしたの?」


保健室の先生が戻ってきたようだ。

加藤が閉めてくれたカーテンから顔を覗かせている。

俺は体を起こした。

先生はカーテンを開けて机の方へ向かった。


「またなの?」

「はい」

「それはまた……」


先生は机に置いてあるプリントを一枚手に取った。


「加藤さんが連れてきてくれたのね?」

「はい。……先生、あいつは何で誰め気付かない俺の不調に気づいたんですかね?」

「それは本人にしか分からないから、何とも言えないわ」


なぜか気になる。

あいつのことが。


「ただ、あの子を見た時思ったの。あの子もまた、新井くんと同じ子だって。だってあなたと同じ目をしているもの」

「……」

「そう、その目。何も信じてないし、信じることを拒絶している目」


それを俺に言ってどうしろって言うのか。

俺には先生の意図が一切分からなかった。


* * *


「戻ったぞ」


新井くんがそう言って部屋に入って来た。

気まずすぎる。

さっきあんなこと言っちゃったから。


「加藤」

「……」

「ゆっくりでいいからな」

「……ありがとう」


私には分からない。

どうしてみんながこんなに私に優しくしようとするのか。

優しくされたことなんて昔、お父さんとお母さんと結衣と幸せに暮らしていた時しかないのに。


「青衣?」

「あ、何でもない」

「そう。何があったのか分からないけど、いつでも話は聞くからね」


私はそんなの求めてないのにな。

誰もそんなこと考えてないんだ。

私がそれを欲しているかどうかなんて。

ただ、いい人になりたいだけだ。


◇◆◇


私たちは病院を出て、帰り道を並んで歩いた。


「お前はさ、どうしているもつまらなそうな顔してるんだ?」

「楽しくないもん。授業も、人間関係も。みんなが当たり前に楽しいと感じることが、私には分からない」

「そうか……」


そこから沈黙が続いた。

気まずい。


「じゃあさ、俺と仲良くなってみないか?」

「……は?何でそうなるの?」

「授業も、人間関係も、楽しくないんだろ?じゃあ、俺がお前の学校生活を楽しくしてやるよ」

「なっ……」


何言ってるの?

自分が男女問わず人気なこと分かってるのかな。


「自分が何言ってるか分かってる?」

「そりゃあ分かってるよ」

「じゃあ何で?私が冷ややかな目で見られること分かってるよね?新井くんと私じゃカーストが違うんだよ?」

「カーストが何?冷ややかな目で見られるから、楽しくないまま中学校生活を終わらせるのか?充実した学校生活を送りたいんじゃないのか?」


送りたいけど……。

駄目なんだよ。


――あんたは幸せになれない!!幸せになる権利なんかないのよ!!

――どっか行ってよ……!あんたの顔なんて見たくもない!


私には駄目なんだよ。

私だけが楽しく生きるなんて駄目なんだ。


「……人生は楽しむためにあるもんだろ?じゃあ楽しめよ」

「……分かった」


どれだけ言ってもこの人は聞いてくれないだろう。

じゃあ、私が楽しまなければいいんだ。

新井くんは私に手を差し出した。

私はその手を掴んだ。


◇◆◇


私はいつも通り学校に登校した。

いつも通りつまらない学校……。

のハズだった。


「加藤、放課後ヒマ?」

「加藤、移動教室行こうぜ!」

「加藤!」

「かーとう!」

「加藤ー!」


新井くんは事あるごとに私の元へやってきた。

そのたびに向けられる視線が痛い。

そして昼休み。

いつものように旧校舎でご飯を食べていると、息を切らした新井くんがやってきた。

ファンクラブに追いかけられていたのだろう。

珍しいな。

いつもは追いかけられることはないのに。


「加藤、飯食おうぜ!」


新井くんは笑顔で私に言った。


「いいよ」


最近はずっと新井くんとご飯を食べている。


「思ったんだけどさ、加藤は何部なんだ?」

「私は部活に入ってないよ。お母さんたちが部費を出してくれるとも思わないし」

「……言っちゃあれだけど、もしかして毒親?」


毒親……か。

正直分類分けしたらそうなるだろう。

お義父さんは違うかもだけど、お母さんがな……。


「お義父さんは違うかもしれないけど、お母さんがその筋にいるかも」

「そうか。まぁ、あの様子だとな」


初めて澤本さんに会った日の夜のお母さんを見たから言っているのだろう。

あの様子は誰から見てもそう見える。

昔はあんなじゃなかったのに。

放課終わり三分前の音楽が鳴った。


「先に帰るね」

「待て、俺も行く」

「一緒に戻るの?」

「当たり前だ」


正直ちょっと迷惑。

私は新井くんに向き合って言った。


「やっぱりいらない。楽しい学校生活なんていらない。だからもう私に関わらないで」

「何でだよ。俺たちは友達なんだから」


やっぱりそういう結論に至るんだ。

もういいや。

校舎に戻ると、誰もが私たちを凝視した。

今まで接点のなかったはずの私たちが一緒に戻って来たからだろう。

席についてすぐにチャイムが鳴ったから、誰も私に近づいて来なかった。


「と、言うことで、文化祭の出し物とクラス発表で何をするのか決めていこうと思います。意見がある人は手を挙げてください」


学級委員が言った。

出し物か。

うちの学校は中高一貫の高校だし、金持ち高校だから、毎年派手に文化祭を行なっている。

一般のお客さんも来るし、クラスによっては屋台も出す。

去年はメイド喫茶とかもあったけど、うちのクラスはまともな人が多かったから、たこ焼き屋になってたかな。

今年のクラスもそうだし、心配はいらないだろう。


「はーい、文化祭の出し物はメイド喫茶とかがいいと思いまーす」

「おー!いいじゃん!」

「賛成賛成!」


前言撤回、まともな奴いないわ。

ていうか男子はどうするんだよ。

メイド服着たいって人いないでしょ。


「男子はどうすんだよ男子は」

「えー……。うーん、じゃあ、男子もメイド服!」


うん、この女子今、新井くんの方見たよね?

絶対新井くんのメイド服見たいだけだよね?

私は新井くんをチラリと見た。

えぇぇえぇぇぇえ!?

何で目を輝かせてるの!?


「どうかな?男女どっちもメイド服を着るメイド喫茶!」

「賛成の人は手を挙げてください」


クラスの半数以上が手を挙げた。

三分の二は手を挙げてるよ。

終わった。


「クラス発表の方はどうしますか?」

「演劇!」


どんだけ活発なんだこのクラス。

まぁ、私はどうせ裏方だろうし別にいいけど。


「何をやるんですか?」

「ここはベタにロミジュリとか?」

「白雪姫〜!」

「人魚姫とか?」


学級委員はどんどん出た案を書いていく。

あーあ、こりゃとんでもない。


「ロミジュリがいい人」


まぁ、これが一番やりやすそうだし、手を挙げておこうかな。

十五人か。

他の候補が何人になるかが問題だな。

白雪姫は五人、人魚姫は十人。


「ということで、ロミジュリに決定しました。次は役を決めていきたいと思います」

「はーい!推薦!新井くんがロミオ役!」

「わー!絶対似合うじゃん!」


全員頭お花畑かな?

新井くんが引き受けるわけな――


「いいよ」

「えー!本当!?」


甘やかすからファンクラブに追われたりするんだぞ?

本人に言ったらなんか言われそうだから言わないけど。


「ただし、ジュリエット役は俺の推薦でいい?」

「え?いいけど……」


ほぼ全員の女子がドキドキしているだろう。

誰を選ぶのか私も気になる。


「じゃあ、加藤青衣で」

「は?」

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