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衝劇的なお隣さん

澤本さんがスマホで何かを打って送信した瞬間、私のスマホが静かに震えた。


「え?」


嘘だ……。

こんなタイミングよく……。

一体誰からメールが来たの……?

思い違いじゃなければ、澤本さんと七星うららは同一人物かもしれない。

一年生の時は学校に通ってた。

クラスメイトがお見舞いに来る。

七星うららが澤本愛奈……?

やっぱり状況が同じすぎる。

七星うららは澤本さんだ。


七星うらら『今、学校の子がお見舞いに来た〜!』

夕暮青衣『知ってるよ』

七星うらら『え?何で?』


澤本さんは不思議そうな顔でスマホを見ている。


「リアルでは初めてだよね?七星うらら」

「……え、えぇぇぇぇえ!」


澤本さんは大声で叫んだ。

おい、ここ病院だぞ。


「夕暮青衣?青衣なの?」

「そうだよ」

「こんな偶然あるんだ!」


澤本さんは嬉しそうな顔で、私の目を見ている。

さっきから笑っている澤本さんは、本当に楽しそうだ。

私は時計を見た。

そろそろ帰らないと母親がうるさい。


「私そろそろ帰らないと」

「マジ?」

「うん、それじゃあね」


私はドアの方に歩こうとした。

後ろからの謎の引力によって不可能となった。


「何?」

「あ、明日も来てくれるかなぁ……。なんて」

「……」


私はスマホを取り出して、メールのアプリを開いた。

メール交換のページに飛んで、澤本さんに差し出した。


「スマホ持ってるでしょ?リアルのも繋いでおく?」

「……うん!」

「それじゃあ私、帰るね」

「ありがとう!また来てね」


◇◆◇


私は病院から出て、家に帰った。

表札は、なんの変哲のないもの。

ただ加藤と書いてあるだけ。

家は赤色の屋根の一軒家。

ここが、私の家。


「帰りたくないな……」


口からそんな言葉が出てくるほどに、私は家が嫌いだった。

家の前で突っ立ってても仕方がないから、私は門を開けて家に入った。


「ただいま……」


返事はない。

いつものこと、今更悲しくなんてない。

私は階段を登って、部屋に行こうとした。


「青衣」

「……」


母親が階段の下で私を見ていた。


「テストは?」


私は鞄の中からテストを取り出して、母親に向かって投げた。

テストはひらひらと宙を舞い、母親の元へ落ちていった。

私はすぐに階段を駆け上がって部屋に飛び込んだ。

部屋の鍵をかけて、私は扉の前に座った。

階段から登ってくる音が聞こえる。

私の部屋の扉が強く叩かれた。


「青衣!何なのこれは!」

「何って?ただのテストだよ」

「何でこんな点数を取れるの!満点にしなさい!」


またこれ……。


「毎度毎度いい加減にしてよ……」

「何?言いたいことがあるなら言いなさいよ!」


不機嫌そうな声で、母親は言った。

うるさい。

私は扉の前から離れて、部屋の窓を開けてベランダに出て、屋根に登った。

心を落ちつかせるのにちょうどいいから、基本的にここにいる。

真っ暗な部屋よりも、空を見ながら過ごすほうが楽だ。

隣の家から、物音がした。

誰か屋根に登ってきたりしてね。

横を見ると、ベランダの柵の上に立っている人がいた。

目が合った。


「……」

「……か、加藤!?」

「新井くん、そこすっごく危ないから足元を……」


そういった時にはもう遅かった。

新井くんは足を滑らせてしまった。

柵を掴み、ベランダの柵にぶら下がっている。


「ほら言わんこっちゃない」

「先に言え!そして助けてくれ!」

「そっち行かないと無理」

「じゃあ来い!」


私は助走をつけてから、新井くんの家の屋根に飛び乗った。

そして、ベランダに降りて新井くんを引き上げた。


「た、助かった……」

「何してたの?あんな危ないところで」

「お前が言うな!……一回入れよ」

「あ、いいの?」

「別に。戻りたくなさそうだし」


私の部屋の方からは、母親の怒号が聞こえてくる。

新井くんは心配そうに私を見ている。


「じゃあ、お邪魔させてもらうね」


私は新井くんの部屋に上がらせてもらった。

男の子の部屋って感じがする部屋だ。


「お前の家って隣だったんだな」

「うん。新井くんって一昨年こっちに帰ってきたんだよね?」

「そうだけど……。何で知ってんの?」


この人、新学年が始まったときに自分で言ったことを忘れている。

自分で「小一になる前に日本の端の方に引っ越して、去年日本に戻ってきました」って言ってたのに。

多分全員が心の中で「どこだよ」ってツッコミを入れてただろうな。


「自己紹介で言ってたじゃん。忘れたの?」

「あ〜。言ったような言ってないような……」

「記憶力のキャパ少なっ」

「うるせ」


私は、なんとなく新井くんの部屋を見回した。

あれ?

クローゼットのドアが少しだけ開いている。

私は立ち上がって、クローゼットの方に行った。


「加藤?」


新井くんが私を見ながら言った。

私は思いっきりクローゼットのドアを閉めた。


――バァン!ガタガタガタッ!


中から何かが崩れ落ちる音がした。

や、やらかしたぁ……。


「お前……」

「あ……。善意だから許して」

「はぁ、片付ける。お前も手伝え」


私は頷いて、クローゼットを開けた。

the・箱まみれ。


「うっわぁ……。箱まみれじゃん……」


落ちた箱からは、大量の本やゲームカセット、ノートと問題集が入っていた。

勉強熱心なのか、ゲーム好きなのか分からない。


「こんなに溜まっているとは思わなかった。少しノートを減らすか……。紐を持ってくる。悪いけど、落ちたものをまとめてるれるか?」

「あー、いいよ」


新井くんはそう言って部屋を出ていった。

私はノートを拾い始めた。

ある程度拾い終えた時、クローゼットの奥の方にも一冊だけノートがあることに気がついた。


「まだあったんだ」


私は手を伸ばして、ノートを取り出した。

少し黄ばんでいて、古いことがわかる。

ノートを開くと、小さい子供の字が書いてあった。


「きょうはあおいとあそんだ。あおいすき」


あおい?

私と同じ名前の人なのかな。

一ページずつ読むのは面倒だから、一番最後に書き込まれているページを開いた。


「あおいがいないのさびしい」「あおいげんきかな」


そこまでは子供の字だ。

でも、一行だけ大人の字が書かれていた。


「あれから何年経ったのだろう。心の支えだったあいつは、もういない。一人で生きていかないといけないのに、まだ引きずっている。俺はあいつに、あおいに」

「加藤、飲み物持ってきた……ぞ」


新井くんの声が聞こえて、私は勢いよくノートを閉じた。

クソタイミングの悪いときに帰ってきたな。

まだ読み途中だってのに。


「新井くん……。随分とお早いお帰りで……」


私はノートを背中に隠した。

見られたと知られたら、恥ずかしくて死ぬかもしれないし。

新井くんの尊厳のためにも隠し通さねば。


「お前さ、何を隠してるんだよ」


さらば、新井くんの尊厳。


「どうぞ」


新井くんは、私からノートを受け取って開いた。

その瞬間、新井くんの顔が赤くなった。


「あ、安心して。私は何も見てないから」


私は親指を立てた。


「絶対見ただろお前」

「見てないよ?」

「目を泳がせて言うな!」


新井くんは顔を赤くしながら叫んだ。


「正直に言えよ?見たんだろ?」

「見ました。新井くん?顔が赤いよ〜?どうしたの〜?」


私は煽り全開の声で言った。


「殺す」

「うわっ、録音しとけばよかった。訴えれたのに……」

「不穏なことを言うな!」

「どっちが先に不穏なこと言ったんだか」

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