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家族の事情

私は家の玄関を開けた。

その瞬間、リビングからドタドタと足音が聞こえて、お母さんが出てきた。

そのまま私の方向に一直線に向かってきて私の頬を引っ叩いた。


「青衣!!」


和真が勢いで倒れた私を支えてくれた。

ああ、やっぱりね。

息を乱しているお母さんの顔は怖い。

明らかに怒ってる。


「学校から電話があった。先生方に迷惑をかけて……!お母さんにも迷惑をかけたのよ!知らない男の子まで連れてきて……!何のつもり!?」

「何のつもりかなんて言う必要ないでしょ?なんでそこまで怒ってるのか知らないけど、お母さんには関係ないことだよ」

「そんな子に育てた覚えはないわよ!」


リビングの入口に腕を組んでもたれかかっているお義姉さんがいることに気がついた。

ほらね、何もしてくれないじゃん。


「あんたみたいな子、産まなきゃ良かった!」

「……でないよ」

「何よ!言いたいことがあるならハッキリいいなさいよ!」

「頼んでないよ!生まれてこなきゃよかったって思ってるよ!もうほっといてよ!私に興味もないくせに!」


私が叫ぶと、時間が止まったかのように静かになった。

私はすぐに立ち上がって、和真の手を引いて自分の部屋へ向かった。

鍵を閉めて中にいる和真を見た。

複雑そう。


「青衣、平気か?」

「言ったでしょ?いつものことだって」

「……」


電気をつけると、私の部屋があらわになった。

トロフィーなどが置かれた棚や本棚がある。

それだけ。

クローゼットは備え付けのものだし。


「改めて自己紹介するね。私の名前は加藤青衣。高校1年生」

「あ、俺は西川和樹。高1」

「知り合いなのに初対面みたいだね」

「そうだな」


和真と和樹。

なんか似てるな。

和樹は部屋をぐるりと見回して、「いい部屋だな」と言った。

そして、カレンダーに近づいた。


「この印は何だ?」


来週の水曜日は大きな丸で囲まれている。


「その日は大事な予定があるんだ。お母さんたちにも内緒のね」

「あの人ならどこへ行くって言っても反対してきそうだな」

「そうだね」


私達が会話をしていると、窓が叩かれた。

カーテンを開けると、そこには新井くんがいた。


「うわぁああああああ!!」


和樹が声を上げた。

私的にはまたかという感じだ。

私は窓を開けた。


「青衣ぃ……。誰だぁ……その男ぉ……」

「新井くんやめて。軽くホラーだから。ほら、入るなら入って」

「いいのか?」


新井くんは妙に目を輝かせて言った。

まぁ、話があるのかもだし。


「で、誰だよコイツ」

「指を指さない。折るよ?」

「うわっ、怖っ」

「怖いのはこっちだよ。毎度のようにベランダに来てさ」

「最近はやってない!」


新井くんとそんな会話をしている中、ふと和樹に目を向けると、和樹は心からの軽蔑を含んだ目で新井くんを見ている。

言いたいことは分かる。


「「女子の部屋のベランダに侵入するとかどうかしてる」」


私と和樹の声がハモった。


「ブフッ……。アハハハハ!」


和樹は私の方を見て笑った。

楽しそうで良かった。

涙目になるほど笑った和樹は、片手で涙を拭ってから新井くんを見た。


「俺は西川和樹。青衣の友達だ。君は?」

「新井優里。青衣の幼馴染だが?」

「幼馴染……。そっかそっか、へぇ、君も大変だね」


何が大変なのか。

新井くんはそれを見て少し頷いた。

え?

通じたの?

今ので?


「そう言えばさ、青衣」

「何?」

「君、加藤青衣って言ったけど、花崎青衣だね?」


おぉっとぉ?

え?

いきなり?

てか、何で分かるんだよ。


「前髪で隠してるつもりかもだけど、俺には分かりやすかったね」

「ああ、前髪。切ろうか迷ってるんだよね」

「切るな!!」

「うわ、びっくりした。急に大声出すのやめてよ。お母さんが殴り込みにくるじゃん」


本当に来るかもしれないからやめてほしい。

そもそも、さっきまで一人だった男の人が二人に増えてんのは怖すぎるわ。


「前髪は切るな」

「え?何で?だって学校の人たちにはもうバレてるし……」

「だからだよ!あぁもう!」


ヤケクソになったかのように頭を掻く新井くんは学校一のイケメンとは思えない。

和樹は立ち上がって新井くんの肩を叩いた。

そして、首を振った。

何やってるんだろう。


「そうだ新井くん。聞きたいんだけど、私が学校抜け出した後、何があったの?」

「何がって……。授業のない先生がお前のこと探しに行ったよ。数学教師は股間を労わりながら授業してたし、かなりカオスだった。普段取り乱さないお前のしたことだから、学校側にも何か事情があるのではないかと踏んでるらしいぞ」


それはそれは迷惑をかけたな。

良かったぁ、日頃の行いが良くて。


「良くはないだろ」

「え?心読んだ?」

「なんとなくだ」

「キモッ」


和樹はなぜか笑いをこらえている。

え?

なんで?


「お前ら仲良いな」


仲良いのか?


「……ないない」

「どつくぞ」


私は新井くんを無視してベッドに座った。

メガネを外して三つ編みもほどいた。

やっぱりメガネも三つ編みも邪魔なんだよね。


「本当に顔面整ってるよね、青衣は」

「そう?」

「うん。さすがアイドルって感じ」

「アイドルは趣味だから、別に……」


開けていた窓から、強い風が入ってきた。

机においてある紙が飛び、写真立てが倒れた。


「あー、プリントがぁ……」

「拾うの手伝うよ」

「あ、俺も」

「ありがとう」


私たちは部屋中に散らばったプリント類を集めた。

かなりの量があったらしく、ちょっと時間かかっちゃった。


「はい、これで最後」

「ん?何か本が落ちてるぞ?」


新井くんが落ちていた本を手に取って、表紙を見た。

真新しいその本の名前は「自殺未遂」。


「まぁた独特な本を読んでんな」

「面白い小説だよ」


私は手を出して、本を返せと新井くんに促した。

新井くんは眉をひそめて私の手に本を渡した。

私はそれを受け取って、本棚に戻した。


「あ!!『キミセカ』じゃん!!」

「え?」


本棚を見た和樹が言った。

やっぱ「キミセカ」って人気なんだな。

「キミセカ」は私達が幼い頃からある大作だ。

アニメ化もゲーム化もコミカライズ化も果たしている。

それだけ話題になる理由は分からないが最終巻発売前に一気に有名になったらしい。

確か、原作小説の挿絵を担当していた楓夏菜さんが亡くなったニュースがきっかけだとか。

元々ネットなどで、人気かつ有名だった楓夏菜さんが小説の挿絵を担当したことにより、オファーは増えたものの、検討すると返事された作家が多かったらしい。

楓夏菜さんが挿絵を担当しないなら小説を書籍化しないと言う作家さんが出るほどに。

けど、それほど人気な楓夏菜さんは通り魔に刺されて死んだらしい。

日本中が大騒ぎし、憎まれた犯人。

だが、小説が出版されてその憎しみは少しおさまったと言う人もいたらしい。

楓夏菜さんの救われたような挿絵に感銘を受けたからだろう。


「すげぇ、最終巻の挿絵。……ん?番外編?」

「ああ、それ?」


和樹は番外編を本棚から出して開こうとした。

そしてあることに気がついたのだろう。


「これ……。挿絵がない……」

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