明かされる真実
体育館、舞台裏、メガネを投げ捨てる私、目を見開くクラスメイト。
一体どうしてこうなった?
◇◆◇
「ロミジュリの劇に出る人〜!衣装はこっちだよ〜!」
「小道具はここ!」
「これの位置違うよ〜!」
「早く早く!始まっちゃうから!」
バタバタと音を立てながら舞台準備をする私たちは、かなり前からコツコツ準備していたため手の込んだ劇になってる。
ジュリエットの衣装を着た私は、舞台裏の入り口で観客の声を聞いていた。
「一の三はロミジュリだって」
「え?そうなの?ロミオ誰!?」
「やっぱロミオは新井くんだよ〜」
「さいっこう!ジュリエットは?」
「加藤青衣……?」
「え?誰それ」
「ほら、冴えないメガネの……」
そうなるよね。
全く、これだから上部だけで人を見るやつらは……。
まぁ、こうなることは承知で受けたんだから別にいいか。
「青衣〜!」
「あ、澤本さん。ちゃんと来れたんだ」
澤本さんが車椅子に座りながら観客席から手を振っている。
その車椅子は若い女性に押してもらっている。
「来れるよ〜!だってお母さんが車椅子を押してくれたんだもん!」
「そう」
私が舞台袖へ行こうとすると、私を目の敵にしていたクラスの女子たちが私の前に立ちはだかった。
学年のマドンナとも呼ばれているリーダー女子はおそらく自分で作ったであろうジュリエット衣装を身にまとっている。
似合ってるな。
「見なさいよ!奏音ちゃんの方がジュリエットの衣装よっぽど似合ってるわ!」
「冴えないメガネよりマシよ!」
「今すぐ役を変更すべきよ!」
幼稚なこった。
周りはそれを見て何も言わない。
「これより、一年三組の演劇、ロミオとジュリエットを公演します」
奏音……だったかな?
奏音さんは鼻を「フン」と鳴らして舞台に出て行こうとした。
私はその腕を引っ張った。
「いいよ。じゃあ、本当のことを教えてあげる」
私はメガネの耳にかけるところの近くを持った。
そして、勢いよく外した。
その様子にクラスメイト全員が目を見開いた。
「花崎青衣……」
先に舞台に出てアドリブで私たちのいざこざを誤魔化していた新井くんは微笑んだ。
私は奏音さんにウインクした。
さあ、花崎青衣を演じろ。
今は加藤青衣じゃない。
蓋をした感情を引きずり出せ。
私は舞台に踏み出した。
その瞬間、観客席から悲鳴が上がった。
「あれって花崎青衣じゃない!?」
「えぇ!?あの伝説のアイドルの!?」
「老若男女問わず大人気だったにも関わらず、いきなり消えた伝説のアイドル、花崎青衣!?」
笑えなくても、演技なら笑える。
さてと、久々に舞台の上で踊るかな。
◇◆◇
私たちは何とか公演を終えることができた。
何とかなって良かった。
いや、良くないけど。
私が幕が下がってから舞台袖に行くと、ほとんどのクラスメイトが目をまんまるにして私を見ていた。
まぁ、そうなるよね。
知ってた。
「加藤さんが……。花崎青衣なの……」
「まぁね。花崎っていうのは前の名字。お母さんたちが離婚して加藤になったから、別に隠してたわけでもないよ」
「まぁ、隠してるわけじゃなかったんだろうけど……。なんで言ってくれなかったんだよ」
言った方がよかったのか。
分からないな。
「言うべきだったの?」
「べきって言うか……。みんな憧れのアイドルだから知りたかったよね」
歯切れ悪く言うクラスメイトは私のことを推していたのだろうか。
あの時は趣味でやってたからな。
そこまで人気出てたんだ。
「てか、そこの二人はこのこと知ってたの!?」
「え?」
クラスメイトは新井くんとふゆくんを指を指した。
二人は静かに頷いた。
二人は幼馴染だから、私の活動を知っていた。
「なんで引退したの?」
結衣がいて、ゆっくんがいて、ふゆくんがいて、みんながいたから私はアイドルができていたんだ。
でも、みんながバラバラになったから私はアイドルをやめたんだ。
「……大切なものを失ったから」
「……」
「私がアイドルをしていたのは、幼馴染や妹、両親が応援してくれていたからだったんだ。その中の一つでも欠ければ、私はアイドルを続ける意味がなくなる」
みんなは少し俯いた。
私の言いたいことが分かったのかな。
でも、家族は私が壊したんだ。
私が壊さなければ……。
「三組さん!そろそろ次の公演あるので撤収してください!」
クラスメイトたちは渋々片付けを始めた。
私は着替えがてら話があると澤本さんに言われたから、車椅子を更衣室まで押して行った。
鍵をかけると澤本さんは真剣な顔で言った。
「新井くんと幼馴染だったんだ」
「まぁね」
「青衣は新井くんがいなくなったからアイドルをやめたの?」
「……」
「違うでしょ?」
澤本さんはズルいな。
こういう時だけ察しが良くて、真剣だ。
まぁ、そろそろ話すかな。
「……妹がいたの」
「妹?」
「結衣って言ってね、笑顔が素敵な子だった。幼い頃、新井くんが引っ越すことになって、引っ越す新井くんの前ではできるだけ笑って過ごしてたの。でも、本当に悲しかった」
私はスカートの裾を強く握りしめた。
泣きそうになるのを堪えて続けた。
「新井くんが車に乗って行った後、私は新井くんと良く遊んでた公園のブランコで泣いてたんだ。暗くなっても帰ることができなかった」
視界が揺れ出した。
「結衣は探しに来たの。公園の入り口の前には交通量が多い道路があって、結衣は私を慰めるために横断歩道がない道をよく見ずに走って私のところに来ようとしたの。結衣はトラックが来てることに気づかなかった。私は急いで結衣に危険を伝えようとしたけど、間に合わなかった」
一粒涙が目から落ちた。
あの光景は忘れられない。
「結衣は……。私の前でトラックに轢かれた……」