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体育祭

「連れてけよ」

「はぁ?」

「だからぁ、優里を連れてけって」

「え?やだけど」

「即答!?」


でも、ふゆくんが嫌なら新井くんを連れて行くしかないよね。

さっきうっかり"ゆっくん"って呼んじゃったから、ちょっと気まずいや。

まぁいいか。

私は新井くんの手を取った。


「行くよ」

「おう!」


さっきまでは少し寂しそうな顔をしてたけど、私が聞くと笑顔に戻った。

何でだろう。

私たちは走ってゴールまで行った。

もう一位は決まってるから、せめて二位になろう。

でも、私たちよりもゴールに近い地点にいる人たちがいる。

どうしよう。


「……青衣、ちょっと止まって」

「え?何?」


私が止まると、新井くんは私の肩のあたりに手を添えて、足を持ちかあげた。

そして新井くんは走り出した。

は?

これは……。


「おぉっと!学校一のイケメン男子に抱き抱えられているお姫様は一年三組の加藤青衣ちゃんでは!?」


あの実況マジ殺す!


「キャー!お姫様抱っこよー!」

「ぬう!羨ましい!」

「そこ変わりなさい!」


うん、一旦整理しよう。

なんで?

いや、分からん。

なぜこうなった?

私は足をばたつかせた。


「ちょっと!何してるの!?」

「何って、これが一番手っ取り早いだろ?」

「だからって公衆の面前で!」

「いいだろ?負けたくないんだろ?」

「……っ!死ねっ!」

「酷っ!」


何やかんやでゴールした私たち。

しばらくしてからお題確認の時間がやってきた。


「では、二位の方たちのお題を確認していきます。お題は何ですか?かれーー」

「違います」


私は食い気味に答えた。

ポケットに入っていたお題プリントを司会に渡した。


「幼馴染、幼馴染です!しかし、これだけでは証明できません。何かしら証明できるものはないですか?」


誰だこんなめんどくさいお題考えたやつ。

証明ってなんだよ証明って。


「では聞きましょう。相手の好きな食べ物は?」

「オムライス」

「わらび餅」


私と新井くんは交互に答えた。


「誕生日」

「六月八日」

「七月七日」

「好きな本」

「「キミセカ」」

「全問正解です!」


何で判断してんだよ。

私は司会が手に持っているプリントが少し透けていることに気がついた。

目を凝らして見ると、それは自己紹介カードだった。

なんでそんなもんあんだよ。

その後は滞りなく体育祭は終わった。

結果は一年生は三組が圧勝だった。


◇◆◇


「あっはははははは!何それ!おかし〜!」

「おのれ他人事だと思って」


私は体育祭後、病院に行って澤本さんにその詳細を話していた。

そしたら、案外共感されず、ただ笑われた。

楽しそうでなによりだけど。


「そうだ!来週は文化祭だよね?私、文化祭の日だけ病院から出る許可をもらったの!」

「え?そうなの?」

「うん!」


澤本さんは笑顔で答えた。

そんなことできるんだ。

でも、あれだけみんなに会いたがってたし、良かったと思う。


「良かったね」

「うん!」


その後はいつも通り私は澤本さんと話をして家に帰った。

家に入ると机の上に置いてある写真立てが倒れていた。

私は写真立てを手に取った。

お父さんとお母さんと結衣と私が笑顔で写った写真は、大切な思い出だ。

ずっとずっとこんな日が続いていれば。

私があのとき結衣を助けていれば。

そんなのは夢だ。

過去は変えられない。

失ったものは帰ってこない。

わかってる。

分かってるけど……。


「未来は見たくないよ……」


◇◆◇


「そっちは右より!」

「こっち手伝って!」


文化祭前日、学校は授業もやらずに文化祭準備で大忙しだ。

私と新井くんはロミジュリの衣装合わせ、舞台の立ち位置確認にリハーサル、メイド喫茶準備で大忙しだ。

ホと段落ついた頃には、私たちはヘトヘトで階段に座って燃え尽きていた。


「……疲れた」

「女子がうるせぇ……」


旧校舎の階段でまるで石像のように動かない私たち。

すっかり日は沈んで薄暗い。

新井くんはメイド服を着たことによる女子の悲鳴の過剰摂取による困憊だ。

うちのクラスは本当に陽キャが多い。

別に嫌な気はしないけど……。


「青衣……」

「何……?」

「死ぬ」

「死ね」

「マジかお前」


軽口を叩ける関係まで進展したのは誰かに褒めてほしいな。

それにしても……。

眠いな。

もうすぐ結衣の命日だからか、最近は寝るのが怖い。

毎年そうだ。

結衣の命日が近づくと悪夢を見る。


「ねぇ」

「ん?」

「もしも……。もしもさ、自分のせいで人が死んだら、君はどうする?」


言ってから私はハッとした。

こんなこと新井くんに聞いてもおかしく思われるだけだ。


「なんてね!友達がそう言う相談をしてきてさ、新井くんならどうするかなって思って」

「え……?お前に友達いたの?」


私は新井くんの胸ぐらを掴んだ。


「なんて?」

「…………なんでもないデス……」


目を逸らして新井くんが言う。

そんな顔するなら最初から言わなければいいのに。


「で、自分のせいで人が死んだら……か」

「……」

「俺なら確認するかな」


確認?

証拠集めってことかな。


「本当にそいつのせいで人が死んだのか。状況を確認する」

「そう……」


あの状況は私が作り出した。

だから私のせいだ。

私は立ち上がった。


「帰ろうか」


私の顔が、新井くんには見えているのだろうか。

大丈夫か。

どうせ、真っ暗闇の中だし。

バレてても問題ないか。

私が無意識に微笑んでいること。

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