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久しぶりの感覚

「お前……」


私は新井くんの脳天めがけて手を振り上げた。


「ここの動き硬いとおも――ブッ!」

「あっ」


何だ、ただの動きの打ち合わせか。

ジャンプしたからそれなりに威力は上がってるはず。

私は新井くんの顔を覗き込んだ。

新井くんは私を思い切り睨みつけていた。


「ごめん」

「ごめんじゃねぇよ!何すんだよ」

「……日頃の恨み?」

「なんで疑問形なんだよ!」

「日頃の行い?」

「だからなんで疑問形なんだよ!」


なんでって聞かれても困る。

なんとなくになんでって聞かれても困るっていうか。

私は新井くんの持っている台本のページを見た。


「ロミオとジュリエットがキスをするシーン……ね。フリで」

「りょ」

「てか、それだけのためにわざわざ待ち伏せしてたの?」

「ちょうど近くに来る用事があったから来ただけだ」


私と新井くんは家の方向へ歩き始めた。


「そういえば、青衣は体育祭は借り物競争に出るんだな」

「今更?」


明後日は体育祭がある。

文化祭は来週だ。

体育祭はたくさんの競技があり、クラス全員が必ず何かしらの競技に出なければならない。

その中の借り物競争に私は出ることになったのだ。


「新井くんはクラスリレーのアンカーと玉入れと大玉ころがしだよね?私の前に走る人」

「ああ、転んだりすんなよ?」

「バカにしてる?」

「してない」


絶対バカにしてるやつだ。

目に物見せてやる。


◇◆◇


と意気込んだことも、私にはありました。


――バァン!


大きな銃声とともにリレーが始まった。

そう言えば私そんなに足早くないんだよね。

しかも、中学や小学校は四分の一のコースで良かったのが、高校に入って半分のコースになった。


「始まりました!一年クラス対抗リレー!実況はわたくし三年二組の笹本大和が担当します!」


若干音割れ気味になる声の大きさでマイクに語りかける実況。

盛り上がりそうだね。


「おおっと!三組!第二走者にバトンが渡りました!一年三組!速いです!ぶっちぎりの一位です!」


やっぱり運動部が多いうちのクラスは一位だ。

三組が私のクラスだ。

かと言って油断すれば越される。

ちなみに私は二五人目に走る。

その後で新井くんだ。

私は後ろから二番目の走者になってしまったんだ。

次々と前の人が走っていく。

どうしよう。

失敗したら……。


――真面目にやらないからそうなるんだよ?


どうしよう、私の前の人が走って行ってしまった。

怖い怖い怖い怖い。

私にバトンを渡す人が走り始めた。

私のクラスは今、他のクラスに負けてきている。

ほぼ最下位だ。

私と新井くんで挽回できるはずがない。

私は受け取る姿勢を取った。

あ、平岡さんだ。


「あとは任せた!」


平岡さんはそう言った。

すぐに足がもつれて転んでしまった。


「おっと三組転びました!」


あいついつか殴る……。

私はすぐに立ち上がった。

メガネは取れてない。

さっきまで後ろにいた最下位のクラスの走者が横を通り過ぎた。

足が痛い。

もう駄目だ……。


「頑張れー!!」

「頑張れ加藤!」

「頑張って!」


クラスの子が私を応援し始めた。

中学校ではされなかった応援。

応援ってこんなに嬉しいものなんだ。

私は痛む足を全力で動かした。

三クラスを追い越して、あと二クラス抜けば……。

でも、もう新井くんにバトンパスするところまで来てる。

あとは新井くんに任せよう。


「ゆっくん!あとは任せたよ!!」

「……っ!おう!」


新井くんは驚いたように目を見開いてから言った。

新井くんは今日走るのは二回目だ。

さっきも見たけど、早い。


「がんばー!」

「頑張れ優里!!」

「新井くん!頑張れー!!」


みんな口々に応援してる。

この学校ではアンカーは半周ではなく一周走ることになってる。

新井くんには疲れが見え始めた。

他の生徒もそうだ。


「……頑張れ……。頑張れ!!新井くん!!」


私が大声でそう言うと、新井くんは少し笑って全力を出し始めた。

今まで全力で走ってなかったわけではない。

本当に全力を振り絞って走ってるんだ。


「一年三組の最終ランナーがどんどん前にいる人を追い抜いています!早い!早すぎる!」


実況うるせぇな。

アニメの実況か。

新井くんはゴールのテープを胸で切った。


「三組!まさかの大逆転!第一位です!おめでとうございます!」

「笹本ぉ!うるせぇ!」

「体育教師!すんません!」


怒られてるし。


「加藤さーん!!お疲れ様ー!」

「足大丈夫?保健室行こう?」

「加藤!頑張ったな!」


クラスメイトが私を気遣ってくれた。

人ってこんなにあったかいものだったんだ。

私は新井くんの方を見た。

新井くんは笑った。


◇◆◇


私は保健室に行って、足に絆創膏を貼って体育祭に戻った。

クラスの人は私をしつこいくらいに気にかけてくれた。

そして、ついにやってきた借り物競争。

私はコースのスタート地点に立った。

借り物は何があるんだろう。


「青衣ちゃんも借り物競争出るんだね」

「あ、莉緒ちゃん」


莉緒ちゃんは私の数少ない他のクラスの友達だ。


「借り物競争楽しみだね」

「莉緒〜!頑張れ〜!」


莉緒ちゃんに手を振る女の子に、莉緒ちゃんは手を振って私を見た。

誰なんだろう。


「あれは私の親友の舞菜。また今度紹介するね」


親友か。

莉緒ちゃんといい、遠目から見た舞菜ちゃんといい、やっぱ顔面偏差値高いな。

モデルとかなれそう。


「それでは!これより借り物競争を行います。選手はスタートラインに向かってください」


もういるんだよな。

莉緒ちゃんが私に微笑みかけた。


「お互い頑張ろうね」


そう言って莉緒ちゃんはスタートラインに行った。

あの子優しいよなぁ。


「それでは選手の皆さん!位置について!よーい!どん!」


私や他の人達は一斉に駆け出した。

そして、お題確認地点に着いた。

適当にばらまかれたお題を拾い上げて私は借り物を把握した。

思わず眉をひそめてしまうようなお題だ。

私はクラスの人たちのところへ行った。


「ふゆくん来て」

「え?俺?……あ、ごめぇん俺彼女いるから」

「そういうのじゃないから」

「へぇ、お題は?」

「…………幼馴染」

「はい」


ふゆくんは新井くんの背中を押して私の方に突き出してきた。


「……何?」

「連れてけよ」

「はぁ?」

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