幼馴染の本当
「あいつ、本当に青衣か?」
「何?まだ疑ってんの?」
俺は青衣が職員室に向かった後、ゆっきーと話してた。
ゆっきーも昔の青衣のことはよく知っているはずだ。
「おかしいと思わないか?昔はあんなに笑顔だった青衣が、笑わないんだぞ?」
「まぁ、人は変わるからな」
「変わるって言っても、あの変わりようは普通じゃねぇだろ」
「確かにね」
なぜこいつはこんなにも平然としているんだ?
こいつも青衣のことが好きだったはずなのに。
青衣が心配じゃないのか?
「俺は青衣が好きだったはず、とか考えてる?」
「なっ!」
「相変わらず分かりやすいね」
そうだった。
こいつは人をからかうのが好きなんだった。
「俺、彼女いるんだよね」
「は!?」
「前の学校で付き合ったんだー。遠距離なの悲し〜。あーあ、優里が羨ましいなぁ〜」
こいつ、分かってやってやがる。
俺は昔の青衣も好きだけど、今の青衣も好きだ。
本当に。
「にしても……。青衣に何があったのか気になるな……」
「本人に無理やり聞くのはやめておけよ?」
「何で?」
「分からないのか?青衣は踏み込まれたくないんだよ。何があったのか知られたくないんだよ」
――新井くんには関係ない。
病院で青衣がボロボロで来た時に言われた言葉。
俺は青衣が再会して初めて表情を動かした時にいたやつら。
恐らく昔の同級生とかだろう。
青衣は俺が女子に囲まれるのを嫌がっていることを知っていて俺を庇ったのだろうか。
「あの女たちか……」
「……諦めが悪いところも変わってないね。いいよ。俺も付き合うから」
ゆっきーが呆れたように俺に手を差し出した。
共犯になってくれるらしい。
俺はその手を強く握った。
「で、どいつなの?俺たちの大切な幼馴染を苦しめてるのは」
◇◆◇
俺たちは急いで青衣をボコボコにしたと思われる女たちを探した。
そしたら案外すぐにあいつらは見つかった。
「あれぇ〜?この間青衣ちゃんのせいで話せなかった人だ〜」
「やだ!イケメンが増えてる!」
「この後暇〜?」
すぐに言い寄ってくるこいつには嫌気が刺すわ。
俺は体に触れようとした女の手を乱暴に振り払った。
驚いたように目を見開いた女はそのグループのリーダー的存在なのだろう。
「この間はよくも青衣をボコボコにしてくれたな」
「え……?」
明らかに顔色を悪くした女子たち。
やっぱりか。
「決めろ。俺たちに同じ痛みを感じさせられるか、俺たちの質問に全て正直に答えるか」
「うわぁ……。怖ぇ……」
ゆっきーが小声で言った。
圧力をかけたほうがいいだろう。
リーダー枠の女子は黙ったままだ。
後ろでオドオドしていた女は迷ったような仕草をしてから口を開いた。
「…………分かった。質問に答える」
◇◆◇
俺たちは一回ファミレスに入ることにした。
オドオドしてた女にしか用はなかったから、他の女には帰ってもらった。
そういえば、この女は前はいなかったな。
「私は奏。中学生の時の青衣ちゃんのクラスメイト」
やっぱりクラスメイトだったのか。
「青衣の中学生の時の様子を聞いていいか?」
「……」
ゆっきーから「お前マジか」とでも言わんばかりの顔で見られているが、気にしないでおこう。
女はため息をついてから躊躇しつつも話し始めた。
「青衣ちゃんは中学一年生の新学期が始まってしばらくしてから転校してきたの。私たちは最初わ青衣ちゃんと仲良くしようとしてた」
仲良くしようとしてた?
ぶん殴ったりするのが仲良くすると言うことなのか?
俺はゆっきーを見た。
ゆっきーは首を振った。
何も言うなと言うことだろう。
「青衣ちゃんは最初、とても楽しそうに私たちと絡んでいた。でも、徐々に青衣ちゃんから表情が消えて行ったの。そして、私たちは青衣に拒絶された」
「拒絶?」
「『話しかけないで』とか、私たちの会話に『くだらない』と言うようになったの。私は最初戸惑ったわ。でも、他のみんなは違ったの。みんなは青衣が自分たちを下に見るようになったって勘違いしたの。それからみんなは人が変わったように青衣ちゃんをいじめるようになったの」
「……お前はそれを黙って見てたのか?」
奏は目を逸らした。
つまりはそういうことだ。
俺は我慢できずに机を両手で叩いて立ち上がった。
「ざけんな!お前が庇っていれば青衣は笑顔のままで過ごせたかもしれないんだぞ!お前らのせいで……!」
「優里!一回落ち着け。この子に怒鳴っても過去は変わらない。それに……」
ゆっきーは奏に視線を移した。
「話には続きがあるんだろ?」
奏は頷いた。
そして、涙目になりながら言った。
「……青衣ちゃんは私たちを拒絶する前から、私以外のメンバーにいじめを受けてたの」
「……っ」
そういうことか。
だからコイツは止められなかったのか。
「どうしてか聞いてもあの子たちは答えなかった。ただ、青衣ちゃんが嫌いだからって……。悪びれもせずに……」
奏は涙を流した。
コイツもまた被害者だ。
腐ってる。
誰も彼もが弱いものをいじめる。
動機なんて誰も持たない。
ただ人をストレス発散とかに使ってるだけだ。
そうやって人から笑顔がなくなっていく。
――ゆっくーん!!ふゆくーん!!
「……」
お前が抱えるものはこれだったのか。
俺は何気なくスマホを見た。
さっき鳴った気がするんだ。
「……」
なるほどな。
俺は荷物を持って立ち上がった。
「用事ができた」
「あぁ!?まさかさっきのやつら追う気じゃないよね!?」
「んな無駄なことしねえよ。じゃあな」
「無責任だぁぁぁぁあああああ!」
冬樹は叫び声を上げた。
よくもまぁ飲食店でそんな声出せるわ。
* * *
――ブーブーブー
「あー、うるさいなぁ」
私はスマホの音を切った。
ほんとにうるさい。
「どうしたの?」
「お母さんがしつこくて」
「何したの?」
「何もしてない。さて、そろそろ帰るかな」
もう外はすっかり夕方の空が広がっていた
「それじゃあね」
「うん!」
澤本さんは笑顔で言った。
私が病院から出るとそこには待ち伏せしていたのか、新井くんがいた。
流石に待ち伏せなんてストーカーじみたことするわけ……。
「遅かったな」
待ってやがった。
きしょすぎ。
「何の用?」
「いや、単純だろ?」
私の過去にこれ以上踏み込むようなら殴る。
「お前……」