表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/33

嫌いな言葉

私は更衣室に押し込まれた。

淡いピンク色のドレスは、綺麗なんだけど、メガネが似合うのか分からない。

と言うか、どうやって着るんだ?

私は手探りでファスナーを探した。

こういうドレスとかはファスナーがあるのがお決まりだ。


「あ、これか」


◇◆◇


「……」


こぉれは……。

想像以上に酷いな。

メガネに合わない。

だからと言って素顔を晒すのもなぁ……。


「加藤さん、着れた?」

「あ、うん」


私は更衣室から出た。

そこには衣装部隊の子たちがいて、私の着た衣装をまじまじと見ている。


「うん、サイズに問題はなさそうだね。微調整も必要なさそう」

「そうだね。加藤さん、きついところとかない?」

「ないよ。ありがとう」

「あっ、ごめん。一旦脱いで来てくれる?ほつれてるところがある」

「え?どこ?」

「ここだよ」


そんなところあるかな?

私は脱いでくれと言ってきた子が指さしたところを見た。

確かに少しほつれてる。

別に頬って置いてもいいと思うけどな。

私は更衣室に戻って衣装を脱いで衣装部隊の子に渡した。


「私たちはこれ直してから帰るね。加藤さんはもう帰っていいよ」

「分かった。頑張ってね」


◇◆◇


――3週間後


夏休みに入った。

けど、全然予定もないからいつも学校にいた。

文化祭の準備をしたり、旧校舎で過ごしたりしていた。

新井くんやふゆくんとはあれから会ってない。

その方が気楽だ。


「さてと、そろそろ病院に行くかな」


私はこもっていた旧校舎から外に出た。


「うおっ!」


うわっ、この声……。

最悪だ。

できれば会いたくなかったのに。


「「青衣!!」」


新井くんだけじゃなくて、ふゆくんもいる。


「本当にいた!」


ふゆくんがそう言った。

私を探してたのかな?

それともここにいることが多いよって話でもしてたのかな?

どっちでもいいや。


「退いて」

「待てよ。俺たち、お前と話がしたくて……」

「話すことなんて何もないよ。早く退いて」

「でも!」

「私、急いでるの。ほっといてくれる?」

「あのなぁ、青衣。優里はお前のことを気遣ってくれてるんだぞ?」


やめて。


「それを無下にするのはどうなんだよ」


私の気持ちはどうなるの?


「もっと向き合った方がいいよ」


私の心に土足で踏み込んでこないで。


「ほら、話し合って。な?」


勝手なことしないで。

知ろうとしないで。

ふゆくんは新井くんの背中を押して私の方に寄せた。

新井くんはバツが悪そうな顔をして私を見ている。


「なんだ……。その……。青衣、お前は……」


やだ。

やだやだやだやだやだ!

聞かれたくない!


――ブーッ


スマホが鳴った。

私は急いで通知を確認した。


「……っ!」

「あっ!青衣!」


私はその場から猛ダッシュで病院に向かった。


◇◆◇


――ガラガラガラ


息を切らしながら、私は勢いよく病室のドアを開けた。

そこにはいつも通り横たわる澤本さんがいた。


「青衣?どうしたの?」


私は澤本さんの近くに歩み寄った。


「良かった……。倒れたって言ってたから……」

「平気だよ。ちょっと貧血気味だっただけ。ほら、元気!」


澤本さんは笑って両腕を上げて見せた。

ほっとした。

私もそう思ってるよ。

らしくないって。

澤本さんと過ごす時間は私にとってかけがえのないもの。

澤本さんがいないのは嫌だ。


「ねぇ青衣。もう夏休みが始まってから3週間も経ってるよ。時間の流れは早いものだね」

「いきなりどうしたの?」

「いや、近づいてるなって思って」

「何が?」


澤本さんは窓に映る空を見上げて言った。


「なんでもないよ」

「……」


その時の私は、悲しそうに笑う澤本さんの心の中なんて考えてなかった。

それを近い未来で後悔することも、考えてなかった。

違和感に気づいてはいたんだ。

でも、どうしても口に出せない。

それがあんな後悔に繋がるなんて思わなかった。

私が人のために何かしようって思うなんて、考えもしなかった。


◇◆◇


「おはよー」

「おっはよ〜!」


早くも新学期が始まった。

文化祭の準備とかのおかげで、今までの夏休みよりも早かった気がする。

お母さんとも顔を合わすことも、あんまりなかったし。


「あーおーいー?」

「うわっ」


新井くんとふゆくんが笑ってない笑顔で私の方へやってきた。

思わず声を出してしまった。


「うわって何だうわって!……こないだはよくも逃げてくれたな」

「急用ができたの。というか、新井くんの方こそよくも毎日のようにベランダに侵入してくれたね」


そう、新井くんは私が病院に走って行った後、何度もベランダに侵入しては私の様子を覗いていたのだ。

怖すぎるよね。

私はドン引きしてたんだけどね。


「え?優里マジ?ストーカーの領域にいるじゃん。キモ」

「おい、やめろ。その目やめろ」


ふゆくんは新井くんを心の底から軽蔑したような目を向けている。

それが新井くんのお豆腐メンタルをぐっちゃぐちゃにしたのだろう。

最高だ。


「そう言えば青衣。さっき先生が探してたぞ?」

「先生が?何だろう」


何もしてないと思うけど……。


「あ、通知表」

「は?」


そう言えば、お母さんに通知表出してない。

電話されたのかも。

ささっと話を済ませてくるか。


「ふゆくん、ありがとう。行ってくる」


私は教室を出て職員室に向かった。

お母さんに夏休みに入ってから会ってないんだよね。

私は基本、お母さんたちが出かけるのにもついていかないし、大体は部屋にいる。

外に出る時も、音を立てないようにしてるし、ご飯はお母さんたちが寝てから。

だから会わなかったんだ。


――コンコンコン


「失礼します」

「あ、加藤さん。こっちに来てください」


先生は私を見てすぐに手招きをした。

普段は優しい先生だが、怒ると怖いらしい。


「加藤さん、通知表をお母さんに見せていないって本当?」

「忘れちゃってましたね。会う機会も特になかったですし」

「お怒りの状態でさっき電話をかけていらしたけど、あまり仲は良くないの?」


仲良し……とは言えないだろう。

だってお母さんからすると私は邪魔な存在だから。

あの日以来、お母さんは私を雑に扱うようになった。

成績には特に敏感で、少しでも点や成績を落とすと逆上して怒鳴りつけてくる。

義姉ちゃんはそうでもないんだけどな。


「仲は良くないですね。嫌われているようでしたし」

「そう……。大変そうね。何かあったらいつでも相談聞くからね」

「……はい」


相談を聞く。

それは私が一番嫌いな言葉。

どうせ何ともできないくせに、自分は何とかできるって思い込んでる。

そんなのであの人を止めれるわけないじゃん。


「でも、通知表はちゃんと見せるようにね」

「……」


ほらみろ。

何も知らない、何も分からないからそうやって言う。

私はもう、誰にも助けを求めない

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ