文化祭準備
おまたせしました!!遅くなってごめんなさい!!
「加藤さん!遅かったね〜。本当にごめんね〜!ウエスト計るの忘れてて……」
「大丈夫。図ってるときにいいのかなって思ったけど」
「え〜!じゃあ言ってよ!!」
衣装班代表の子が頬を膨らませて言った。
その子は私の腰にメジャーを持った手を回してウエストを測り始めた。
「てか加藤さんスタイルいいよね」
「そう?」
「うん。衣装作り甲斐がある。ね?」
「めっちゃ作り甲斐あるよ〜」
「そう言えば、本番メガネは取るの?」
メガネかぁ……。
髪の毛はほどけって言われてるけど、メガネは強制されてないんだよね。
「メガネはやめておく」
「そうだよね。見えないと大変だからね」
「確かに〜」
クラスの子たちは文化祭準備でよく話すようになった。
頭おかしい人も多いけど、みんな穏やかで優しい。
「でも、全員分のメイド服作らないとだから大変だよね〜」
そっか。
衣装班は私の衣装はもちろん、メイド喫茶のメイド服作成もしないといけないから絶対大変だ。
「その件はもう心配ないよ。他のクラスも手伝ってくれるみたいだし。それに舞台班も脚本班も、終わったら手伝ってくれるらしいから」
「助かる〜」
「そう言えば、新井くんは?」
今一番聞きたくない名前。
なんて答えるべきだろう。
「加藤さんと一緒に来ると思ってたんだけど……」
「しっ、知らない。私、このあと用事あるから帰るね」
ここで会ったら気まずくて耐えられないよ。
私は急いで荷物を持って理科室を出た。
「あっ、ちょっと!まだ話は終わってないのにぃ……」
◇◆◇
私は市民病院へ行った。
今では日課になっている。
病室を開けると、澤本さんがパッと笑顔になった。
「青衣!遅かったね!」
「文化祭の準備も案外忙しくてね」
私は澤本さんの横の席に座って、鞄の中を漁った。
「ジュリエット役だっけ?いいなぁ。私も文化祭とか出てみたいなぁ」
「出れるよ」
「え?」
私は鞄の奥底に埋まっていた台本を引っ張り出して澤本さんに渡した。
澤本さんは不思議そうに台本を見てる。
私は台本の一ページ目を開いた。
そこにはキャスト一覧があった。
「ナレーター役、空いてるよ?」
私が言うと、澤本さんは目を輝かせた。
本当は私が澤本さんを推薦しただけなんだけどね。
「ナレーターなら、電話でもできるでしょ?」
「青衣ぃ……!ありがとう!!」
柄にもないことをしたとは思うけど、少し可哀想だから。
「で、やるの?」
「もちろん!だって青衣が手を回してくれたんでしょ?やるに決まってるよ!」
目を輝かせて言う澤本さんは、病気とは思えない。
元気な女の子のようだ。
「あっ、そういえば、今日昔の幼馴染が転校して来たんだよ」
「え?そうなの?よかったね!」
澤本さんは笑顔で言った。
私からしたら全然良くないんだけどね。
正直縁を切りたい。
――ブーッ
澤本さんと私のスマホが震えた。
そこには「盛岡和真が「雑談&相談!」にメッセージを送信しました」と書いてある。
盛岡和真『よーっす!みんないるー?』
七星うらら『いるよ〜』
夕暮青衣『いる』
盛岡和真『おー!女子組全員いるー!聴いてくれよ!友達が真顔で「しりとり、りんごときたら何という?」って聞いてきたんだよな。で、俺はゴンドラって答えたんだわ。そしたら爆笑されてよぉ。俺なんか変なのかな?」
りんご、ゴリラ?
あぁ、しりとりか。
大体の人はゴリラかゴマだろう。
ゴンドラは少数派だと思うな。
七星うらら『うん、おかしい』
盛岡和真『即答!?じゃあ、うららは何でいうんだよ』
七星うらら『ゴジラ』
盛岡和真『お前の方がよっぽどおかしいわ。ありがとう、自信をつけさせてくれて』
七星うらら『やべぇ、ゴンドラに言われたくないわ』
私はそんな会話を見て、ふと澤本さんの方を見た。
私は驚いて目を見開いた。
澤本さんは微笑みながら文字を打っていたんだ。
本当に楽しそうに。
そうか、七星うららは……。
澤本愛梨は盛岡和真が好きなのか。
何とも不思議な光景だ。
盛岡和真『青衣は?』
夕暮青衣『うーん、ゴンゾーとかかな?』
盛岡和真『誰だよゴンゾー』
夕暮青衣『あんましりとりないから、ごから始まる言葉を思い浮かべたら真っ先に出てきた』
七星うらら『待って、ゴンゾーは草』
ゴンゾーが一番最初に思い浮かんだんだよね。
だって、ゴンゾーはお父さんとの思い出のキャラクターだから。
盛岡和真『俺この後用事あるからじゃあなー』
あ、用事があるんだ。
私は和真に返信して澤本さんを見た。
ちょっと落ち込んでる?
少しムッとした顔をしている澤本さんは、本当に和真が好きなんだろう。
「青衣、青衣はさ、誰かを好きになったことある?」
いきなり何を聞くんだ。
真剣な瞳に何も言えなくなった私は、考えた。
好き……か。
私には好きが何か分からない。
人を好きになるとか、人を愛するとか、よく分からないんだ。
だから答えられない。
「よく、わからない」
「……そっか」
「あっ、時間だ。それじゃあ、またね」
私は荷物を持って病室を出た。
「うん、また明日!…………あなたのお姉ちゃんはもうすっかり壊れてるみたいだね。結衣ちゃん」
◇◆◇
「そんなこんなで、澤本さんは快くナレーター役を引き受けてくれたよ」
私が言うと、クラスみんなが歓声を上げた。
「よかったぁ」
「ナレーター役を捩じ込んだ甲斐があったね!」
実は私がナレーターを澤本さんにやらせたらどうかと相談したんだけど、台本には元々ナレーターがなかったんだ。
だから、脚本製作部が無理矢理ナレーターをねじ込んでくれたんだ。
みんな澤本さんと話したり、一緒に劇をやりたかったみたい。
「じゃあ、はい!」
衣装を作っていた子が私に衣装を渡してきた。
「……着ろってこと?」
「あったりまえじゃん!私たちの力作だよ!」
「そ、そう」
「それに、もうすぐ夏休みじゃない?」
「私たち、用事で全員揃うこと少ないから、先に作ってたの」
「最終確認は済ませておこうと思ってね〜」
なるほど。
みんながみんな夏休み暇なわけじゃないもんね。
「ってことで、着てきてね〜」
「えぇ……」
私は更衣室に押し込まれた。
淡いピンク色のドレスは、綺麗なんだけど、メガネが似合うのか分からない。
と言うか、どうやって着るんだ?
詰んだかも