ここから始まる物語
『もう生きたくない。助けて、青衣』
始まりは、ネッ友からの一件のメールだった。
私はあの人のメールを見て、真夜中に家を飛び出した。
インターネットの授業で、小学校三年生と言っていても中身がおじさんの可能性があると教わった。
でも、あの人が私と同い年の高校一年生だと分かる。
明確な根拠もない。
それでも、あの人が同い年だとなぜか分かる。
絶対に死なせたくない。
あの人はきっと私の身近にいる。
あの人に会えたら、あの人を救えたら、それだけでいい。
私は真っ暗な街の坂道を息を切らしながら走った。
◇◆◇
「はぁ〜。やっと国語終わったぁ〜」
「山本話長いもんね〜」
「次の授業何だっけ?」
「数学。小テスト〜」
「え〜。だる〜」
女子生徒たちの会話を聞き流しながら、私は窓際の一番後ろの席で肘をつきながら外を眺めていた。
加藤青衣
それが私の名前だ。
私はこの通りボッチだ。
新しいクラスになったからとかではない。
入学してからずっとだ。
地味な見た目だからだろうか。
メガネにおさげ。
絵に書いたようなモブ役。
高校……。
学校はなんのためにあるのだろうか。
社会性を高めるため?
友情を深めるため?
学習力を高めるためというのは絶対だろう。
でも、私の学力は高いほうだ。
学校に来るまでもない。
家にいてもやることはないし、家にもいたくない。
居場所がないから、学校にことわり来ている。
「きれいな空……」
今日は快晴で、夏らしい雲がある。
吸い込まれてしまいそうなほど澄んだ空には、汚れなんてなさそう。
そんな事を考えていたら、制服のスカートのポケットに入れていたスマホが震えた。
スマホを取り出して画面を見ると、新着メッセージの欄に天気アプリからのメールがあった。
お母さんからのメッセージなんて期待してなかった。
「はぁ……」
ふとアプリストアのアイコンが目に映った。
私はアプリストアのアイコンをタップして、検索ページを開いた。
そして、「雑談」と調べた。
一回でも良いから、ネッ友を作ってみたい。
前々からそんな気持ちはあった。
調べた結果、沢山の雑談アプリが出てきた。
一番上にあったのが、「Let`s 雑談!」というアプリだ。
私はアプリをインストールした。
ホームに行く前に、名前を決めなければならないらしい。
右下に「苗字と名前の組み合わせにしてね!」と書いてある。
つまり、加藤青衣みたいな名前にしろってことか。
少し考えたけど、全く出てこない。
「青衣……。夕暮れが好き……」
私は名前を入力した。
夕暮青衣
私は次へのボタンをタップした。
アイコンまで変えられるらしく、私は好きな絵師さんのイラストを調べてアイコンにした。
ホームへ飛ばされたかと思ったら、説明やルール説明が出てきた。
ざっと読むと、あたり前のことしか書いていなかった。
下ネタや暴言は禁止。
他ユーザーの誹謗中傷はアカウントバン。
仲良く楽しく会話を楽しむ。
それがこのアプリのルールだ。
グループが複数個あり、自分の入りたいグループに申請を出す。
それがグループのリーダーのもとに行き、承諾されればそのグループの一員となれる。
自分でグループを作ることも可能。
他ユーザーと個人チャットを使うことも可能だ。
有能なアプリだ。
正直全国全員使ったほうがいいアプリだ。
私はグループを見た。
「一緒に宿題やろ〜」「相談ok!」「しょーもない雑談」などの色々なグループがある。
私は「雑談&相談!」というグループに申請を出した。
理由は人数が少なかったからだ。
スマホを閉じてポケットにしまおうとした時、スマホが震えた。
画面を見ると「七星うららさんがあなたのグループ申請を承諾しました」と書いてある。
意外と早いな。
私はグループのチャットスペースに入った。
七星うらら『新規さんよろしく!七星うららです!高校1年生!』
青空のアイコンのグループリーダーらしき人が挨拶をくれていた。
夕暮青衣『七星うららさんですね。夕暮青衣です。同じく高校1年生です。よろしくお願いします』
七星うらら『うららでいいよ〜。あと、このグルは軽〜いノリでいってるからタメでいいよ!』
すっごいいい人でよかった。
夕暮青衣『わかった』
七星うらら『青衣の学校はスマホオッケーなの?』
夕暮青衣『うん。うららは?』
七星うらら『オッケーだよ。現在病養でお休みしてるけどね〜』
夕暮青衣『お大事に』
私は久しぶりにちゃんと人と話した。
中学に入ってからは、中身のない会話ばかりで実感が湧かなかった。
それ以前に、人と必要以上に話さなかったからかもしれない。
盛岡和真『お、新規さんだ。盛岡和真どぇす!気軽に呼び捨てしてくれていいよッ!高校1年生どぇす!よろしく』
ここでははじめましての人は、新規さんって呼ばれるんだなぁ。
夕暮青衣『夕暮青衣です』
七星うらら『和真!最近いなかったから心配したよ〜』
盛岡和真『おう!死んでた!』
七星うらら『はいアウト〜。アプリ内ではその単語は禁止だよッ!』
盛岡和真『ごっめぇん!わっすれってた!消しゴムマジックで消しちゃうねッ!』
七星うらら『えっらぁい!』
「ぐふっ」
危ない。
思わず爆笑するところだった。
夏風優里『おい、ピコンピコンうるせぇよ』
あ、知らない人が来た。
七星うらら『じゃあ通知切れば〜。あ、優里。新規さんに自己紹介して』
夏風優里『夏風優里だ。優里でいい。よろしく』
夕暮青衣『夕暮青衣です。青衣でいいです』
優里って、私のクラスにもいた気がする。
新井優里
この学校のイケメン男子。
七星うらら『ねぇ青衣!個チャ繋いでいい?』
うららが私に聞いてきた。
勝手に繋いでくれて構わないんだけどな。
夕暮青衣『いいよ』
盛岡和真『じゃあ、俺も繋ぐ〜』
夏風優里『和真、お前いたのか』
盛岡和真『いたわ!そういえば、優里も最近いなかったな』
夏風優里『俺も暇じゃない』
このグループ、見てるだけで楽しいな。
会話が面白いっていうか、みんな生き生きしてるというか。
リアルではどんな感じなんだろう。
七星うらら『そういえば、みんな何県住まい〜?』
うららが聞いてきた。
私もどっかで聞こうかと思ってたやつだ。
夏風優里『急にどうしたんだよ。頭でもぶつけたか?』
七星うらら『失礼すぎるでしょ』
盛岡和真『さすが優里』
七星うらら『何が流石なんだよ。いや、なんか気になっちゃって』
なんか気になるか。
その気持ちはすごく分かる。
確かにどうでもいいことが、すごく気になることがある。
七星うらら『私は東京だよ〜』
盛岡和真『俺は千葉〜』
夏風優里『俺は東京』
伊吹とうららが住んでいる東京には、私も住んでいる。
夕暮青衣『私も東京住まい』
七星うらら『うわっ!すごい!私たち運命だ〜』
盛岡和真『俺だけ仲間はずれかよ〜』
七星うらら『隣だから大丈夫!』
確かに千葉と東京って隣接してるし、仲間はずれではないのかも。
盛岡和真『最近入ってきた優里も青衣も同じ県か……。付き合えば?』
和真がそう送ってきた。
冗談が過ぎるよ。
――ガタン
教室のどこかでそんな音がした。
なんだろう。
みなさんこんにちは春咲菜花です!さて、連載小説の現代物は「絶対に振り向かせたい私と絶対に振り向かない君」以来ですね!この小説は去年の前半に少しだけ書いていたもので、ノリと書き方が去年と同じです(笑)名前は「幸せを追う悪女達」と「絶対に振り向かせたい私と絶対に振り向かない君」にかぶっているものがあったので変更しました。たまに”伊吹”とか”野々原”とか”菜花”とかあっても気にしないでくだいさい。というか教えてください。よろしくお願いします。それでは「死にたいあなたに言葉の花束を」連載スタートです!