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柏崎美波の英雄譚  作者: 湊
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0.始まりは0から

凍えそうな体を何とか動かし、街を歩く。

札幌市すすきのでは、今日も様々な人が楽しそうな顔で歩いている。

お酒に酔っぱらっている人、腕を組んで歩くカップル、複数の女性を侍らせている人に、ギターを抱えた人

いずれもわたしとすれ違うと嫌な顔をしてくる。


当然である。なぜならわたしはもう1週間はお風呂に入れていない。


ああ、目を瞑れば思い出す。仕事での散々な日々、今となってはそこに戻りたいと思ってしまう今日この頃。


こんなくだらないことを考えながら、ゴミ箱の缶を集めて何とか生きています。


背景母へ、助けてください。


「おい、そこの薄汚い奴」


めちゃくちゃ失礼な発言には目を瞑り、声をしてきたほうを向くと、いかにもーな占いのおばあちゃんが、カードを並べながら話しかけてきました。


「あんた、空洞だね。初めて見たよ空洞」


「はじめて言われましたよ。そんなこと」


確かーにわたしは今、一文無しに職なし、家無しにまだ22歳だからって理由で生活保護すら通らないまさしくなんもない人ですけど。空洞はひどいんじゃないかなー...事実か


「わぁたしはね、人のカードの形が見えるんだよ。人のカードの形」


「はぁ」


一人称の癖が強い


「人はね、カードを持っているんだ。一枚ね、それは本質、人の本質なんだよ」


何を言ってるんでしょうこのおばあさん。ちょっとおかしい人なんでしょうね。


「たとえばそこ見てみ」


おばあさんがあるカップルを指さす。


「あの男のほうはね、ペンタクルの4番、相当束縛激しいタイプだろうね、だけどね。女のほうもカップの4番だからね。あの二人はお似合いだよ」


「はぁ」


どうしましょう。何もわかりません。


「わぁたしね、あんたのことソードの10だと思ったんだよ。だけどね、違ったの」


「どう違ったんですか」


「あんたカードの裏面なんだよ、わぁたし初めて見たよ。このカードに裏面なんてあったんだって驚愕したよ」


「...一時的に裏返ってるとか、そんな感じなんじゃないですか」


「違うわよ。あぁんたね、あれは人の本質なんだよ。人の本質は変わらない。束縛強い奴は束縛強いままだし、悲観的な奴はずっと悲観的なんだよ。人の本質は決まっているんだ。ところがどうだいあぁんた、あぁんたはね。本質を持っていないんだよ。バケモンだよバケモン」


「さっきからひどいんですけど」


「カードを誰かに奪われたか、自分で放棄したか、どっちにしてもあんた、悲惨になってるんだよ」


さっきから何言っているのかさっぱりわかりません...やっぱり立ち止まるべきじゃなかったですね


「だからね、あぁんたにこれ上げる。お守りだよ」


「ええ...?いらないんですけど、ってこれカード?」


「それはね、あんたにとって空白であり、すべてを失いすべての始まりを示唆するカード

 空白のあんたなら使えるはずだよ」


多分タロットカードでしょうか。表面は...


「だけどね、そのカードにはほんとは意味なんてない。空白だからね。だけどすべては0から始まる。

人は始めたくなくても、運命は勝手に始まるし、勝手に再開するんだ。それを忘れんじゃないよ」


「って、これ表面も柄おんなじじゃないですか、どうなってるんですか...ってあれ?」


目の前にいたおばあさんがいません。あんたに堂々と机を出してたのにその机すら...というか


「誰も...いない?」


_________________


2023年2月1日0時00分00秒

札幌市から2,209,201人の消滅を確認、また札幌市外にて脱出できる手段を閉鎖

札幌市内の生存者、121名

これより全ての終わりであり、始まり、『all ending』を開始します。

作戦の第一段階に全22枚のカードを集め、『Z』のカード、『ラストオーダー』を起動させてください。


「わかっている」


タバコをふかしながら、淡々と流れる残酷な放送を聞く。

外では今日は雪が降らなかったらしい。空に光輝く月がよく見えたそうだ。


「始まってしまうのか」


机に並べてあるカードを見る。ここには敵の手に渡っている5枚のカードを除いた17枚のカードがそろっている。


「うち一枚を警察が所持、うち2枚はアカシア教団、うち2枚が個人が所持か、カードの現在地を見せてくれ」


「はい、ただいま表示します」


AIの音声がこの薄暗い地下室の中に響き渡る。5秒程度の読み込み時間の後、モニターに地図が表示された。


「やはり警察署に保管されていたか、いや微かに移動しているな。あの女、もしかして使う気か?アカシア教団のカードは変わらず教会の中か。個人組は揃ってさっぽろ駅にいるな...まて」


...ありえない、6つ目の点がある。『魔術師』か『女司祭長』のどっちかか?だがあの二人は警戒心が強く、いつも一緒にいるはずだ。教会にも警察にもカードはある。


「私が知らないカードがあるのか?」


いやそれはないはずだ。タロットカードは全部で22枚、それ以上も以下もあり得ない。ならこいつは何だ?


「俺が確かめてきてやろうか?」


地下室の天井に届きそうな大柄な男が私に話しかける。


「...いや、正体がわからない分危険だ。お前は先に孤立している2人組からカードを奪ってこい」


「その間、あんたはどうすんだい」


「この6人目のことを調べる。事は慎重に進めたい。こいつはイレギュラーだ」


「はっ、ラストオーダーのカードを作り、『絶望大君』を復活させるためにか」


「ああ、機械の故障ならいいが」


「故障はねぇだろ、だってそいつは」


「無駄口をたたかずにさっさと行け」


「...へいへーい」


男は『力』のカードを手に取り、地下室から出て行った。


「クソ...こんなイレギュラーが起きるなんて、なんとしても奴の正体と突き止めないと」


そう言って画面を見たとき、私の頭を悩ませていたイレギュラーは狸小路商店街へと移動していた。



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