大空への船出
「本当にいいのか?エアハーバーは、お前の体には刺激が強すぎる場所だぞ」
ルーカスは、飛行船の整備をしながら、アレックスに言った。巨大な格納庫は、整備士たちの活気と、轟轟と音を立てる機械仕掛けで満ち溢れていた。
「大丈夫だ。それに、あのコアを探すには、エアハーバーの情報網が必要だ」
アレックスは、機械の指で顎をなぞった。ルーンテンプルへの手がかりを探すには、世界中から情報が集まるエアハーバーが最適だった。
「…そうだな。それに、お前が街に閉じこもっているのは、俺も心配だったんだ」
ルーカスはニヤリと笑った。アレックスは、事故以来、機械都市カレドニアから出ることを避けていた。
「…分かったよ。お前にはかなわないな」
アレックスは苦笑した。ルーカスの明るさは、いつも彼を前向きな気持ちにさせてくれる。
「よし、それじゃあ、この船で行くぞ!」
ルーカスは誇らしげに、整備中の飛行船を指差した。それは、真鍮と革で装飾された、優美なフォルムを持つ船だった。
「…これは、お前の船なのか?」
アレックスは目を丸くした。ルーカスはいつも、他のパイロットの船を借りていたはずだ。
「ああ、そうなんだ!この前の航海で、大儲けしたからな!自分の船が欲しくて、思い切って買ってしまったんだ!」
ルーカスは、少年のように目を輝かせた。彼の冒険心と行動力は、いつもアレックスを驚かせる。
「…相変わらず、行動派だな」
アレックスは感心しながら言った。
「よし、準備ができたら出発だ!お前を、最高の景色に連れて行ってやる!」
ルーカスは、高らかに宣言した。
数時間後、飛行船は、轟轟と音を立てながら、エアハーバーから大空へと飛び立った。アレックスは、甲板から見下ろす景色に、息を呑んだ。
眼下に広がるのは、どこまでも続く青い空と、白い雲の絨毯。その中に、緑豊かな森や、きらきらと輝く湖が点在している。
「…すごい…」
アレックスは、思わず呟いた。機械の体になってから、世界をこんな風に見たのは初めてだった。
「だろ?最高だろ?」
ルーカスは、誇らしげに胸を張った。
アレックスは、風を切って進む飛行船の甲板に立ち、深呼吸をした。カレドニアの喧騒から離れ、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。
「…ありがとう、ルーカス」
アレックスは、心から感謝の気持ちを込めて言った。
「なんだよ、急に」
ルーカスは照れくさそうに笑った。
「…お前と旅に出られて、本当に良かった」
アレックスは、ルーカスの顔を見て、改めてそう思った。
彼の隣には、リリアが立っていた。彼女は、アレックスの機械の腕に触れ、優しく微笑んだ。
「…私も、一緒に行けて嬉しいわ」
リリアの言葉に、アレックスの胸は、温かいもので満たされた。
彼らの冒険は、まだ始まったばかりだった。