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近江浅井氏

 竹中半兵衛殿の案内のもと近江の地へ踏み入った。

 俺自身ですでに浅井新九郎殿に挨拶に伺う旨を伝えていたが、新九郎殿から朝倉に呼ばれた為、急遽日にちを後ろ倒しにしてほしいとの回答が送られてきた。それが菩提山をすでに発った後であったので一旦引き返そうかと考えたのだが、半兵衛殿が近江鎌刃城の堀氏の家老樋口三郎兵衛直房殿と旧知の仲であるとのことで、半兵衛殿自身が久しぶりに挨拶するのを兼ねて、ついでに顔合わせをしてはどうかと勧めてくれた。

 断る理由もなかったのでその案に乗らせてもらい、暫く鎌刃城に逗留していた。

 その間半兵衛殿や樋口殿手ずからの案内で淡海を見せてもらったり、近隣を散策したりと時間を潰すのに付き合ってくれた。

 そして約束の期日が近くなってきたため、世話になった礼を言い浅井の本拠である小谷城へとやって来たのであった。



 ※  ※


「これが小谷城か、ここまで来る間も思ったが尾張と違い山深い国ですね半兵衛殿」

「そうですね。私は見慣れたものではありますが喜六郎殿にとっては新鮮かもしれませんね」

「ええ。それにこの小谷城の堅牢さ。仮に敵となり攻めることとなったらどのような手を遣えば良いのか見当も尽きません。こういう時に知者が居ればまた違ってくるのでしょうが」


 半兵衛殿を見やる。


「おや喜六郎殿、それは私を口説いていらっしゃるのですか。そのように褒めていただいても上総介殿に仕える予定は今のところありませんよ」


 やはりだめか。この旅の間それとなく何度も仕えてもらえないか聞いていたりしているのだが、全てふいにされている。


「左様ですか、残念です。ま、それはそれとして言ったことは本心でもありますよ。我ら織田家には圧倒的に城攻めの経験が足りません」

「ほう、ならば織田殿の為に我らは小谷に籠ってやろうではないか。義昭様の上洛は浅井朝倉で成し遂げてやるゆえな」

「え?」


 突如大柄な男が会話に加わってきた。


「貴殿は・・・?」

「・・・」


 しかし彼は答えてくれない。

 ただ一言着いてこいとだけ言い、先へ行ってしまった。


「半兵衛殿・・・?」


 半兵衛殿も半笑いになり答えてくれなかった。城に上って行ったので浅井の将の誰かだと当たりをつけ、取り合えず着いて行くことにした。


「新九郎様。織田の者をお連れいたしました」

「おうご苦労であった、入ってくれ喜右衛門、使者殿!」


 入った部屋には一人の男が座っていた。やり取りからして彼が浅井家当主、浅井新九郎殿であろう。

 そしてここまで案内したのが浅井家重臣の遠藤喜右衛門尉直経、予想外の大物だ。


「この度はお会いいただき誠にありがとうございまする。某、織田上総介信長が弟、織田喜六郎秀孝と申します」

「おお、ではこの度妻となるお市殿が兄君になるのか!であれば喜六郎殿は私の義兄となる、楽に会話してくれて構わんぞ!」

「新九郎様!」

「見逃せ喜右衛門。義兄殿と話すのに堅っ苦しいのでは私の息が詰まる。・・・すまんな、義兄殿。喜右衛門のことは気にせずに普通に話してくれ。私からの頼みだ」

「わかりました。新九郎殿が仰るように」


 窘める遠藤殿を気にせずに普段通りにと話してくる新九郎殿。こうして距離を詰めてくるとは、なかなかに好感の持てる男だ。


「うむ。それで此度はどのような用件来られたのだ?書状にはお市殿の輿入れ前に挨拶がしたいとのことであったが?」

「そのままですが?妹が嫁ぐのですから、兄として挨拶をと思い伺ったのです」

「ほ、本当にこの通りなのか!?」


 なにか可笑しかったのだろうか。


「義昭様の様子を伺って来いとか、本当に朝倉様が義昭様を奉戴するのか、六角と繋がってないかとか調べに来たのではないのか!」


 と遠藤殿が声を荒げた。


「喜右衛門!」

「いえ、挨拶がてら新九郎殿が市に相応しいのか確かめに来たのです」

「なっ!?」


 遠藤殿が面食らって固まってしまった。


「ハハハ喜右衛門。どうやらお前の考えは全く違ったようだな!これは傑作だ。やはりお前の考え過ぎであったぞ!」

「くっ」


 一体何なのだろうか。


「いやすまなんだ義兄殿許してくれ。皆が輿入れ前にわざわざ来るのは朝倉のことを探りに来たに違いないと言って聞かなくてな」

「朝倉ですか?」

「ああ、喜右衛門はそうでもないが年寄り共は朝倉贔屓が多くてな、未だに金吾殿の幻に怖がっておる。それに義昭様の上洛は織田でなく、義昭様が滞在している朝倉様が成し遂げるモノだと信じきっておりしょうがない。だからそれを妬んだ織田が我ら浅井を使い、義昭様をかすめ取るに違いないなどと考える始末だったんだ。だがそれがまさか、本当にお市殿の事だけであったとは、ふふ、あやつらの顔を考えるだけで笑えて来る」

「はあ・・・」


 どうしてそうなるのか見当もつかない。確かに義昭様は未だに越前の朝倉左衛門督の下に居るが、義昭様の号令があり次第共に上洛すれば良いだけの話しではないか。


「まあそっちは私が何とかしておく。お市殿や上総介殿にはよろしく伝えてくだされ。『この新九郎、一日も早く夫婦になれることを心待ちにしている』とな」

「かしこまりました」

「もう何日か小谷に泊っていくと良い。ゆるりと落ち着け、この近江の良さをお市殿にも伝えてくだされ。案内は頼んだぞ喜右衛門」

「し、新九郎様ぁ!」


 遠藤殿は何か言いたげな顔で新九郎殿を見ていたが、相手にされないと分かると不承不承俺たちをもてなしてくれた。


 この訪問は悪いものではなかった。しかし、浅井と朝倉との関係は注意しないといけない。そう思わせるには十分な旅でもあった。


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