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岐阜城

 稲葉山城を落とした俺達であったがその戦火は凄まじいものであった。

 山の曲輪は俺たちの攻撃により焼かれ、壁も崩れ到底防備を成していない状況である。そのうえ城下の町もその余波で焼き払われた為、一から作り直す必要があった。


「これから本拠地を美濃に移すわよ。暫くは小牧山に居てもらうけど、すぐ動けるように準備しておきなさい」


 姉上の号令一下。城の稲葉山の再建が始まるのであった。濃尾中から大工人夫が集められ小牧山城の建設と比ではない速さで再建がなされていくのであった。

 そしてあっという間に時が経ち、稲葉山への移動が目前に迫った頃であった。


「これよりこの井ノ口一帯は岐阜と呼び変えることにするわ。稲葉山城は岐阜城ね」


 全く馴染みのない語感であった。


「岐阜、ですか?それはどういう意味なんでしょう?」

「よくぞ聞いてくれたわね三左。それはね――」


 曰く、古代の殷の紂王が悪政を敷き国が荒れていた。殷王朝をそのままにしては民心が疲弊してしまうからと、殷王朝を打倒した周王朝の本拠地が岐山に置かれていた。その岐山とこの稲葉山を重ねて見ることで、将軍候補の義昭様を奉じて三好が戴いた偽公方の天下を打倒すことになぞらえたらしい。

 また『仁義礼智信』の五徳を説いた孔子が曲阜の出身であるということにあやかった縁起のいい地名であるとして、この二つから取った名前にしたという。


「『周の文王岐山より起こり天下を定む』ってね。沢彦和尚が言ってたわ。ほかに岐陽だとか岐山そのままもあったけどこっちの方が良かったわ」

「確かに縁起は良いですねな。義昭様を推し仁義を尽くす努力をされている殿にとても合う言葉です」

「ありがとう。それともう一つあるの」

「ほう他にもですか!」

「ええ、これよ!」

 と印章を取り出した。しかし印章であるそれはけして大きいものではないので疑問の声が方々から上がる。

「『天下布武』と記した印よ」

「なんと天下とは!?」

「大きく出ましたな!」

「何度も言っている通り私たちはこれから義昭様を奉じて京を取り戻すのよ。畿内を私たちが押さえ七徳の武によって将軍様が泰平の世を生み出す。その為に私たちが天下に武を布くの」


 七徳の武。すなわち暴力を禁じ、戦を止め、国を保ち、功績を正しく評価し、民を安心させ、皆と和やかにし、商いを活発に生活を豊かにさせる。そういった国づくりをしていくことを目標とし、目に見える形にしたのだ。


 そのことを理解した諸将は気持ちを新たにするのであった。



 ※  ※


 美濃を落としたからと、すぐに上洛ができる訳はない。それは当然のことである。

 道中には美濃攻めに際して北近江の浅井氏が、元々斎藤氏と敵対していたこともあり織田に協力をしてくれてはいたが、彼らは朝倉に近く、南近江の六角氏と今まさに敵対の真っ最中である。

 浅井氏の力を借りれば間違いなく六角氏は俺たちに敵対し、京の三好と結びつくだろう。

 その為六角氏を追い払う必要があった。

 これに対し姉上はまず六角の影響力が強い、北伊勢を押さえることにした。これは時を置かずに成功した。六角家の重臣である蒲生氏の娘を嫁にしていた関と神戸が織田に服属していた。このため本拠の尾張に北伊勢という壁が出来上がり、上洛の際の支障が一つ減ったのであった。


 しかし上洛に際して二つ問題がある。

 その内の一つは浅井氏にあった。彼らの領地である。上洛の道中である東山道の一部伊吹山以西は浅井方が押さえていることもあり、万が一敵対などした場合に、織田の本拠である濃尾と将軍の京との連絡が寸断されてしまうこととなる。この問題の解消方法として選ばれたのが――


「市を浅井当主の嫁にするのですか!?」

「ええ、そうよ」

「今まで他家に嫁にはやらんと仰っていたあの姉上がですか!」

「ええ、そうよ」

「一体どういう風の吹き回しで・・・」

「私だってあの可愛い市を外に送りたくなんて無かったわよ!でも他に選択が無かったの。私の我儘で行き遅れにさせる訳にもいかないし、かといって京との道中を安全に確保しないといけない・・・」

「その通りではありますが」

「今までは金森や不破に浅井と交渉をさせていた。でも市を送ることが決まった今、私たち姉弟の誰かが浅井の人となりを見ずに市を送り出すことは許せない。だから喜六郎に見てきてもらうことにしたわ」

「はあ、左様で・・・」


 人となりと言っても噂であっても織田家中に彼の勇猛さや、美濃攻めの際に後方を侵し続けた義理堅さは聞こえてきている。


「良い御仁であることは何となく聞こえてきてはいるけど一分の粗でもあればすぐ知らせなさい。その時は嫁には送らないから」

「ははっ」


 まあ姉上ほどの気持ちではないが、兄である俺からしても市の嫁ぎ先をしっかり見極める必要があると思ってはいたのだ。渡りに船ではあるか。


「ああそれと喜六郎!」

「はい?」


 他にも何かあるのかな?


「アンタついでに竹中半兵衛を口説いてきなさい。他の人たちに出仕するように伝えに行ってもらったけど梨の礫なのよ。あの知恵を埋めてお国は勿体ないから引きずり出して来て」

「なんで俺なんですか!」


 確か彼は菩提山に引きこもっていたはずだ。


「どうせ近江への通り道でしょ、ついでよ、ついで。それにあんたも面識があるじゃない」

「それは、そうですが」

「兎に角決めたことだから。首に縄巻いてでも構わないから、連れてくるまで岐阜に戻ってくるんじゃないわよ」


 なんて横暴な姉なのだろうか。

 こうなっては本当に連れてくるまで戻ってこれない。諦めて俺は旅立つことにしたのだった。



 ※  ※


 菩提山に訪れた俺は半兵衛殿と対面していた。


「お願いします半兵衛殿!ぜひその力を姉上の下でふるってください!」

「久しぶりに会ったというのにいきなり仕官の話だなんて、私少し悲しくなりますよ。およよよ」


 うっ確かに性急すぎた。


「あいや、それは申し訳なかったです」

「ふふ流石に冗談です。とはいえ上総介殿に仕官するつもりはありません」

「・・・それはいったい何ゆえなのですか?」

「考え方の違いですかね。上総介殿はそこまで私を必要としてないと思いますよ」

「そんなことはありません!今回も姉上は半兵衛殿を引き連れてくるまで帰ってくるな、と俺に厳命するほどだったのです。そこまで言っているのに必要としていない訳ありません!俺達だって姉上の考えを抜きにしても半兵衛殿の知恵で戦ってみたいと思っていますよ」

「そういって頂けるのは嬉しいものですね。ですがこのままで良いかもしれないと思い始めていまして」

「半兵衛殿のその智謀を生かさずに、このまま山奥深くで埋めておくには勿体ない!雌伏の時などと仰るかもしれませんが、すでにあなたは難攻不落と謳われた稲葉山城を十数人で乗っ取るという偉業を成している。天下へ羽ばたいている御仁なのです!」


 俺は思っていることをそのままぶつけた。

 それに対し半兵衛殿はそうですか、と小さく呟いた後立ち上がった。

 気に障ることを言ってしまったのだろうか。


「新しいお茶を持ってきます。少しお待ちください」

「あ、ありがとうございます」


 半兵衛殿が戻ってきてからというもの、どちらも無言の時間が続いた。


「今日はもう暗くなりましたから泊っていってください」


 先に口を開いたのは半兵衛殿であった。

 それからの半兵衛殿は仕官の話しを避けるかのように、俺自身の話しや他の家臣の話しを聞いてくるのであった。

 その日はそうして夜が更けていった。


「そういえば喜六郎殿はこれからどちらへ行かれるのです?まさか本当に私を説得できるまでこちらにいるとは思いませんが」


 翌朝の事であった。


「そうですね、本来ならこのまま泊まり込んで、仕官してもらえるように説得をしたいところなのですが、近江の浅井殿に会いに行かなくてはならないのです」

「おや浅井に行かれるのですか。それはまたどうして?確か婚姻の話は纏まったと聞き及んでましたが」

「何でそのことを、と聞くのは無粋ですね・・・。今回浅井に行くのは当主の新九郎の人となりを見に行くのです。姉上は妹の市のことが大好きですから、新九郎はどんな奴か確かめて来いって申しつけられたのです」

「おや、それはそれは」


 半兵衛殿は楽しそうな顔を見せて言う。


「喜六郎殿、私も着いて行って構わないでしょうか?」

「え、それは・・・!」

「こう見えて斎藤から出奔した後に近江を巡っていたので簡単な案内くらいはできますよ。それとも織田に仕えてないから駄目なのでしょうか?」

「いえそんなことはありません。むしろ願ってもみなかったことを言われたので・・・逆に本当にいいのですか?」

「それでは決まりです。私も着いて行きますね」

「ありがとうございます!」


 突然の半兵衛殿の申し出は嬉しいものであった。地理を知っている人が居るのは心強い。

 それに旅の途中で仲を深めることができたら、織田に仕官してもらえるのではないか。そう思いこの旅は絶対に失敗できないものだと心を入れ替えるのであった。



戦極姫4クリア

5に突入したけど4と難易度が微妙に違う・・・

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