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雨降る空に祈る頃  作者: ふう
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不審者

土田琴乃・・・仕事に疲れ、恋愛にトラウマを持つ主人公。動物が大好き。

土田空・・・・捨て犬として琴乃に拾われるポメラニアン。

板橋柚実・・・琴乃の同期兼親友。いつでもどこでも琴乃の相談に乗っている。

重いカーテンを開ける。

外は大雨で、雷が鳴っていた。

そんな中、今日も仕事に行く。

「おはようございます。」

「あー、土田くん、ちょっといいかね。」

「はい課長。なんでしょうか。」

「先日の資料の件なんだが…」

「あ、今日中に終わらせます。」

「よろしく頼むよ。」

私は課長に期待されている。

プロダクトデザイナーとして働こうとしたのは五年前。

家具などのデザインをしたくて、21歳の時にブラック企業を辞めて入った。

そして今、私はリーダーを任されている。

「琴乃、なんかあった?」

「どうして?」

「元気ない。」

「柚実はいつもすぐ気づくね。でも雨だからってだけ。ありがとね。」

「ふーん。そんなことか。よかった。」

「?」

「ほら、最近琴乃、課長に期待されすぎて疲れたかなって。」

「いや、大丈夫。ほら、うちの会社少し特殊でしょ。だから慣れちゃったよ。」

「へぇ。まあ、犬にでも癒されなよ。」

そう、私は最近、犬の動画を見るのが日課になっている。

そのせいか、犬を飼いたいと思い始めている。


帰りも、外は雨が降っていた。

「琴乃、お疲れ。今日飲みに行く?」

「あー、ごめん。今日は雨だし、早めに帰りたいかも。」

「OK。」

「うん、じゃあ、お疲れ。」

外はすっかり真っ暗で、強く降る雨の音がうるさかった。

イヤホンをして、駅まで向かう。

電車から降り、傘を開いて再び歩き出した。

しばらく歩くと、家の近くで茶色いダンボールが開いて置いてあった。

見ると、茶色いポメラニアンが雨でずぶ濡れになってダンボールに入っていた。

タオルが敷かれていて、箱には「拾ってください」と書かれていた。

捨て犬だとすぐに気づいた。

強い雨に当たり続けていたからか、ぐったりしている。

私はポメラニアンに傘を差してあげた。

どうしよう。このままにするのは流石に可哀想。

私はダンボールの蓋を閉めて、傘をたたみ腕にかけた。

そして、ずぶ濡れになりながら家まで連れて帰った。

リビングまで持って行くと、明るいからかポメラニアンは目を開けて立ち上がった。

そして私の匂いを嗅ぐようにして近寄った。

私はタオルを持ってきて体を拭いてあげた。

ポメラニアンは水滴を飛ばすようにブルブルし、へーへーと笑って見せた。

とりあえず、警察に連絡した。

遺失物届を出し、念のためポメラニアンを別室に移動させた後、疲れが襲ってきて私はすぐに眠ってしまった。


翌日。

「捨て犬?え?」

私は職場ですぐに柚実に報告した。

「うん。警察に届も出した。飼い主が現れなかったら保護施設か、私が飼うことになるって。」

「何ヶ月。」

「三ヶ月。」

「えー、長。まあ、引き取るんならしっかり責任持つんだよ。」

「うん。わかってる。」


三ヶ月の間、私は毎日ソワソワしていた。

でも、三ヶ月経ってもなにも進展はなかった。

そして、色々手続きをして飼うことになった。

病院に行って、ゲージを買って、寝室にポメラニアンを置いた。

「今日からよろしくお願いします。」と頭を下げるとポメラニアンはぺこっとしてくれた。

可愛すぎて、私はポメラニアンをもふもふした。

「君の名前決めなきゃね。…空とかいいな。」

そう呟くと、ポメラニアンはわんわんと鳴き、ペロペロしてきた。

「嬉しいの?じゃあ君は今日から空だ!」

空はジャンプして私の周りをぐるぐる回った。


翌日。

「空か!可愛い顔してる…!」

柚実は私のスマホのホーム画面を見てそう言った。

「可愛いよね。懐っこいの。」

「えー!可愛いすぎる!!男の子?」

「そう。男の子。」

「人間になったら可愛いんだろうな…」

「独身の戯言だ。」

「あんたも独身なくせにー。もう私たち26歳だよ?早く結婚したい。」

「私は今はそういうのいいかな。」

「キャリアウーマンか。」

「まあねー。でも柚実、全然20代前半に見えるし婚活とかしたら?」

「考えてみる。」

婚活。私にとって恋愛は辛いものでしかない。

私には五ヶ月前まで元彼がいた。

かっこよくて親切でみんなから好かれるような年下の人だった。

でも、仕事ばかりの毎日で疲れていたのか、私は彼に冷たい態度ばかりをとってしまっていた。

そのうち、私たちの距離はだんだんと離れて行って、彼の方から別れを告げられてしまった。

今の私には恋愛なんていらない。


「ただいまー」

疲れて帰ると玄関には空が待機していた。

「空ー!!ただいま!」

疲れた体にはやっぱりペットだ。

犬特有の匂いともふもふした毛が心を落ち着かせる。

「元気にしてた?ごめんねお留守番させて」

返事なんて返ってくるはずないのに話しかけるのは人間の本能なのだろうか。

料理を作って食べていると、一口欲しそうにこちらを眺めていた。

ただの野菜炒めに溶かしたチーズをかけただけのもの。

でも空にはそれが美味しそうに見えたようだ。

「確かチーズと野菜とごま油は食べさせてよかったよね…」

私は小皿に盛り付け、食べさせてあげた。

すると空は美味しそうにがっついた。


犬のいる暮らしは、なんて癒されるのだろう。

寝る瞬間も、近くに来てくれる。ついてきてくれる。

それにしても保護犬なのに人懐こい。


職場で柚実に空の話をするのはもう日課になってしまっていた。

「寝ようとしたらさベッドに入ってきて、可愛すぎた」

「よかったね。」

そういうと柚実は安心したかのように息を吐いた。

「琴乃、最近笑ってなかったから、空に感謝だね。」

「え?」

「だって、空の話する時笑顔だもん。私も何かと心配だったからさ。琴乃、仕事忙しすぎて疲れたような顔してたからさ。」

「柚実…」

私は心配してくれていた柚実に抱きついた。

「ありがとうー!柚実だけだよ、そんなに気づいて気遣ってくれるの。しかも、よかったって言ってくれて。神。」

「いえいえ。まあ、あんまり無理しないんだよ。」

「うん!」


今日中の仕事が終わらず、残業になってしまった。

帰ろうとした柚実が「手伝うか?」と気にかけてくれた。

「いや、これは私が任された仕事だし!大丈夫!ありがとね。」

「…わかった。なるべく遅くならないようにね。ほら、空もいるし。」

「うん。」


気づけば時刻は21時を過ぎていた。

見回りをしていた警備員が「すみません、もうそろそろ。」と声をかけて来て気がついた。

「あと10分で終わらせます。」

「はい。」

何も考えずに、資料を作ることだけに集中すると、本当に10分で完成した。

「ふぅ。」

パソコンを閉じて、会社から出る。

今日はご飯を作る余裕なんてなさそうだ。

私はコンビニに寄り、弁当を買って帰った。

「やば。こんな時間。」

走って帰り、私は鞄から鍵を出してドアを開けた。

「ただいま!!!」

私はそう言い靴を脱ぎ、パッと前を向いた。

すると、茶髪の白いブカブカのパーカを来た男がテーブルの前に正座していた。

「おかえり!」

男はそう笑顔で答えた。

「は?え、誰。強盗?」

いや、強盗なら逃げるだろ。

私は不審者かと思って警察に連絡しようとした。

その時。「ダメ!やめて!」ときゅるきゅるした目で上目遣いをして来た。

私は番号を打つ手を止めて「あなた誰ですか。」と問い詰めた。

その時だった。男が変なことを言い出したのは。

「僕、空。琴乃が飼ってるポメラニアンの、空!」

「は?」

は!?どういうこと!?


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