表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/189

085 バムフェンド家の提案

 ――ドイツ 叡智の会 旧本部 地下


 魔界門を守るのは、叡智の会に雇われた傭兵たち。

 彼らは実戦経験豊富、戦場で生き残った猛者たちである。


「隊長!?」

 事切れた隊長の背中に突き刺さった一本のナイフ。


 傭兵たちは周囲を探るが、敵の姿はない。

 最初、隊員たちはだれかが裏切ったのかと考えた。


 だが、別の傭兵が倒れたのを目の当たりして、その考えを捨てた。

「気をつけろ! 魔法だ! 魔法が使われている」


 一人が叫ぶと、次々と声があがる。

「未知の魔法が使われているぞ」


「見えてないヤツがどこかにいる!」

 その言葉に、彼らは警戒を強める。


 ――ダダダダダダッ!


 だが、周囲ばかりに構っていられない。

 魔界門を制圧しようと、敵が迫っているのだ。隊員たちは銃で応戦する。


 双方の銃撃戦がしばらく続いたのと。

「お、おい、メナス!」

 また一人、傭兵が倒れた。


「くっ、敵はまだ近くにいる。固まれ! 仲間の背後を守るんだ!」

 不可視の人物がここにいるの明らか。


 このまま周囲を警戒しながらの防衛は難しい。

 姿が見えない敵を先に排除すべきである。


 そう思ったが、絶え間ない銃声と硝煙の臭いで、姿の見えない敵を見つけるのは困難。

 薄暗い地下も相まって、音や臭いで目に見えない者を特定することは難しかった。


 しばらく周囲に注意を向けるも、敵もさるもの。

 気取らせるような愚を犯さなかった。


 ――ダダダダダダダダ!


 機関銃が乱射された。

「くっ、みんな隠れろ!」


 何人かが応戦する。

 近くに敵を抱えたままの迎撃戦は、神経をすり減らす。


 前の敵に集中できるわけがない。

 傭兵たちは一人、また一人と倒れていく。


 そして隊員たちは誰もいなくなった。




 ――ドイツ 叡智の会 旧本部


 地下では、いまだ叡智の会を裏切ったロイワマール家と傭兵団の攻防が続いている。


 ロイワマール家に黄昏の娘たち(ヘスペリデス)が与したこと、魔界門への襲撃が奇襲だったこともあり、防衛側は劣勢を強いられた。


 だが、叡智の会所属の傭兵団が到着し、増援として地下に下りていった。

 挟撃が成功すれば、遠からず制圧が完了するだろう。そう思われた。


 カムチェスター家、ロスワイル家、チャイル家の三家は、すぐ魔界門へ飛び込めるよう準備してある。

 もし敵が魔界門を抜いた場合、魔導船に乗り込むため、ここに控えているのだ。


 ――コンコン


 カムチェスター家が集まる部屋の扉がノックされ、ロスワイル家当主のルドルフが顔を出した。

 応対したのは、カムチェスター家一族のハロルト。


「どうしたのです? ロイワマール家が裏切ったいま、家同士の交流はいらぬ誤解を招きますよ」


 もっともなことを告げるハロルトに、ルドルフは首を横に振った。

「そのために私が来たのだ。他にだれもいないよ」


 ルドルフはロスワイル家の当主であり、魔導船『インディペンデンス』の船長でまる。

「私たちが裏切っていたら、どうするんです?」


「それこそあり得ないさ。ヘスペリデスを一番憎んでいるのは、カムチェスター家だからね」


「たしかにそうですけど……それで用件とは?」

 ロスワイル家は純血至上主義で、あまり他家と親しくしている姿を見ることがない。


 アームス家とは完全に疎遠であり、カムチェスター家とも特に親しくない。

 ハロルトも、ルドルフと表だって言葉を交わしたのは初めてである。


 突然やってこられても、戸惑うばかりなのだ。

「チャイル家とは話が合わないからね。手を組むならここしかないと思ったまでだ」


 脳筋の代表格であるチャイル家はたしかに、ロスワイル家と話が合わないだろう。


 チャイル家に対して万の語を尽くして話しても、「細かいことはどうでもいい」と邪険にする様子が幻視できるほどだ。


「私たちと手を組む? 一体何を言って……」

 ハロルトが首を傾げる。


「魔導船を使った魔界での攻防について話し合いたい」

 ハロルトは難しい顔をした。


「意味が分かりかねますな。それに私では役者不足です」

 当主のヴァルトリーテは叡智の会本部にいる。


 この場で一番権限が強いのは祐二だが、ハロルトもさすがに祐二に交渉を任せるわけにはいかない。

 そんなことを考えていると、フリーデリーケが進み出た。


「魔界門を巡る戦いは、傭兵団の敗北で終わるとお考えですか?」

 問いただすフリーデリーケに対して、ルドルフは静かに頷いた。


「ロイワマール家が満を持して裏切ったのならば、傭兵の持つ戦力くらい把握しているだろう」

 たしかにと、フリーデリーケは頷く。


 ロイワマール家ならば、魔界門を守っている戦力について正確に把握していてもおかしくない。

 その上で攻撃を仕掛けてきたのだから、勝算があってしかるべきだ。


「つまり、いま地下で行われている戦い……魔界門を巡っての攻防は、ロイワマール家にとって想定内というわけですか」


 時間がかかるものの、突破できないわけではないとフリーデリーケが確認した。

 ルドルフは「そうだ」と頷き、続けた。


「彼らがヘスペリデスを魔界に連れて行く理由について、大凡の見当がついているのではないか?」


 ヘスペリデスを連れて、魔界で何をするのか。

「魔界ですることといったら、『はじまりの地』を探す……まさか」


 フリーデリーケの顔が強ばった。

「いいや、そのまさかだろう。かの地についてなんらかの確証を得たのかもしれない。そのとき邪魔になるのは何だ?」


「私たちと私たちの……船?」

 他家の魔導船は邪魔だろう。なにしろ、その血筋の者しか使うことができないのだから、ヘスペリデスにとって、邪魔以外のなにものでもない。


 追っ手を差し向けられる前に破壊してしまおうと、彼らが考えても不思議ではない。

「そこで提案だ。私は『白の膜』で基地を守る。その間にカムチェスター家は、遠く離れてくれ」


「……?」

「哨戒準備のために、バムフェンド家は基地に残っている。おそらく最初は、ロイワマール家とバムフェンド家の戦いになる。ロイワマール家はアームス家が戻ってこないうちに戦闘を終わらせなければならないが、戦力は拮抗。私たちのドックを破壊して逃亡を図ることになる」


「それは……そうですね」

「私は『白の膜』でドックを守る。チャイル家は……あいつらはロイワマール家に突進するだろう。カムチェスター家は、ロイワマール家の逃亡先を押さえてほしい」


 巨大魔導船『インディペンデンス』を持つロスワイル家は、防御に特化している。

 とくに『白の膜』と呼ばれる防御フィールドは、魔導船の攻撃すらを跳ね返す。


 ただし、『白の膜』を越えた反対側を見ることができず、これを張っている間は、魔導船を動かすことができない。


「分かりました。私たちがロイワマール家の行方を追えばいいのですね」

「そうだ。それでどこの魔窟に逃げ込んだのかを確認してほしい。それが分かるだけで、今後の対応が格段に楽になる」


「逃げられたあげく、『はじまりの地』にたどり着かれてしまうかもしれませんよ。魔導船を撃沈しなくていいのですか?」


「かの地はそんな簡単にたどり着けるものでもないだろう。それにクーデターに加わっていない一族もいる。船を沈めて、私たちの手で魔導船を減らす必要もあるまい」


「……っ! それはそうですね」

 あやうく自壊しかけたカムチェスター家だからこそ分かる。


 魔導船がひとつ減るということが、魔法使いにとってどれだけ絶望的か。

「ロイワマール家の『フェンリル』は高速魔導船だ。くれぐれも見失わないよう頼む」


「分かりました。全力で追うことにします」

「……話は以上だ」


 ルドルフはフリーデリーケをしばらく眺めたあと、無言で去っていった。


「ふう……ユージ、話は聞いたわね?」

「ああ、だけど高速の魔導船を『インフェルノ』で追いかけるの?」


「中型船を連れていくでしょうし、振り切られるほどの速度は出さないと思うわ。けど、追跡に気付かれるといけないから、十分距離を離す必要があるし、難しい決断を迫られることもあると思う」


「それでもやるんだよね」

「ええ。カムチェスター家はヘスペリデスを許さない。けど、魔導船を撃沈させられない。最良は彼らを降参させることだと思うわ」


「魔界だと、水や食糧の補給はできないから」

「ええ、最終的には、基地を押さえている私たちが勝つはずよ」


 そのためにもまず、彼らの逃亡先を把握しておく必要があるとフリーデリーケは言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] チャイル家そんな感じですかー。 いんだよ細けえ事はの某氏を連想しました。
[一言] チャイル家に尾行しろってのは無理な話ですわな よくて魔導船ごとヘスペリデスを落とすくらい?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ