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175 魔蟲の群れ

「はじまりの地」をあとにした祐二たちは、魔窟を抜けて79-22-57番魔界へ出た。

「ここはまだ魔蟲はいないわね」


「問題は次の魔窟を抜けた先だけど……どうして、あちこちで魔蟲が大繁殖したんだろ」

「魔蟲については考えても仕方ないわ。千年経っても、まったく研究は進まなかったんですもの」


 概念体(ケーファー)は、物理的な干渉を一切受け付けない。

 つまり外から眺める以外に、研究する術がないのだ。


「でもそれは、概念の壁も一緒か」

「マジル平面もね」


 概念の壁と呼ばれる物理的に破壊することができない壁。

 魔界を構成している訳の分からないものの代表格だが、人も魔蟲も魔導船も概念の壁を越えることはできない。


 この魔界全体に漂う神秘の霧(マジル)が下に溜まり、それがマジル平面となる。

 神秘の霧(マジル)が変容した最終形態が概念の壁ではないかと言われている。


 とにもかくにも、魔界は神秘で満ちあふれているのだ。


 祐二たちは79-22-57番魔界の中を順調に進み、魔窟に到達する。

 ここから数日、魔窟を航行すれば、アームス家たちの船団と別れた79-22番魔界へ出る。


「魔窟の中にわずかだけど、魔蟲がいるね」

「注意して進みましょう。嫌な予感がするわ」


 出口に近づくほど魔蟲の数が増える。

「アームス家とロスワイル家、それから再帰属したロイワマール家が魔蟲を減らしてくれているんだよね」


「ええ、でもちょっと多いわね」

「速度を上げて、一気に突っ切るか」


 狭い魔窟内で戦闘するより、そちらの方が安全度が高い。

 幸い、ここに小型船はない。十分魔蟲を振り切れる速度が出せる。


「よし、このまま一気に魔窟を出るぞ」

 79-22番魔界に出ると、そこは一面、魔蟲の絨毯(じゅうたん)が敷かれていた。


「うわっ、なんだこれ!?」

「大群……それも、なぜこれほど?」


 過去の記録にないほどの魔蟲がそこにひしめいていた。

「ここで戦っていた船団は? 探して!」


「見当たりません!」

 オペレーターの悲鳴が聞こえる。


 それは祐二にも分かった。

 戦闘していれば、遠くからでも見えるはずだ。だが、ここには魔蟲の群れしか見えない。


「じゃあ、散開して捜索を」

「ユージ、待って!」


 それをフリーデリーケが止めた。

「なに?」


「こんな状況で戦い続けられるとは思えないわ。79番魔界へ行きましょう」

「見捨てていくの?」


「いいえ、私が船長なら、こう判断するわ。最終防衛ラインを下げて、そこで待っていると」

「だって」


「私たちは、栄光なる十二人の魔導師の子孫なの。留まることが蛮勇と思うなら、迷わず引く。それが代々、魔導船を守ってきた一族なの」

「……くっ、分かった。じゃ、周囲の捜索をしながら、魔窟に向かう」


「ええ、おそらくそれが正解……だと思うわ」

 守らなければいけないのは地球、そして次に魔導船。


 ここで最後まで踏みとどまることはしないだろう。そうフリーデリーケは考えた。

 その考えが正解だったのか、いくら探しても、魔界内に他の魔導船どこにもなかった。


「魔蟲に隠れて石柱が見えないから、一度焼き払うよ」

「魔窟に入るときに無防備になるし、それはいいと思うわ」


 離れた位置から、祐二は『豪炎(ごうえん)』を放った。

 魔法の炎が吹き荒れ、魔蟲が焼き尽くされていく。


 吹き上がる熱風が周囲に拡散する。

「よし、いまのうちだ。魔窟へ急げ!」




 魔窟の中は予想通り、魔蟲で溢れていた。

 このままでは、魔窟を抜けることができない。


「これは……どうしよう。『砲炎』を撃つしかないかな」

 祐二は独り言を呟く。


 だがそれを耳ざとく聞きつけたフリーデリーケの眉が跳ね上がった。

「ユージ、それ、危険過ぎるでしょ!」


『砲炎』は一点特化の火炎攻撃だが、狭い魔窟内で使用すると熱風が概念の壁に当たり、四方八方に吹き荒れるのだ。


「でもこのまま進むと、中型船でも落とされるよ」

「だからって、他にないの?」


「おそらく無理」

「……………………」


 フリーデリーケは何かを必死に堪える顔をしたあと、ゆっくりと頷いた。


「というわけで、『砲炎』を撃つから準備して!」

「かしこまりましたっ!」


 ブリッジの下で船員が慌ただしく走り出す。各方面へ伝達に向かったのだ。

 すぐにすべての中型船が祐二の『インフェルノ』から距離を取る。


 巻き込まれては大変なのだ。

「よし、準備オーケー……『砲炎』発射!」


 ――ドン


 炎の槍は一直線に遙か彼方へ飛んでいき、どこかに着弾した。


 ――ドドン、ブォオオオオオ


 前方で炎の渦が見えたと思った直後、とてつもない熱風が魔導船を揺らす。


「きゃぁああああああ!」

『インフェルノ』がぐらんぐらんと揺れる。


 しっかりと何かに掴まっていた船員たちが宙を飛び回る。

 しばらくして揺れが収まり、魔窟内は平穏を取り戻す。


「……ふう。無事でよかった」

「無事じゃないわよ! 死ぬかと思ったわ」


「いやでも、できるだけ遠くに着弾するよう調整したんだけど」

「やっぱり、魔窟内で撃つのは禁止!」


「……はい」

 熱風は祐二たちのいた後方より、着弾した場所から前方に広がったらしく、どれだけ進んでも、生きた魔蟲の姿は見られなかった。




 祐二たちは無事とはいいがたいが、なんとか魔窟を抜け、79番魔界に出た。

 魔窟の出口付近は、魔蟲の数も少なくなっており、さほど苦労することはなかったが、それにしても数が異常である。


「次の魔窟を抜けたら、0番魔界だけど……」

「そこまで到達されていたら、対処できないでしょうね」


「間に合わないってこと?」

「多方面から同時侵攻があったら、どう考えても魔導船の数が足らなすぎるもの」


 全方位からシナイ山に侵攻してきたら、たしかにどう考えてもじり貧。

 魔導船の魔力は無限にあるわけではないのだ。


 かといって、休憩と襲撃を繰り返そうにも、数が足らなすぎる。じり貧になって、魔力が尽きた魔導船から落ちていく。

「急ごう!」


 0番魔界へ通じる魔窟へいくと、そこで戦闘が行われていた。


「ロスワイル家の『白の膜』よ!」

「よし、援護する」


 祐二の決断は早かった。『豪炎(ごうえん)』を一番魔蟲がいるところに撃ち込む。

 敵味方を巻き込んで炎が吹き荒れる。


「ちょっと、ユージ!」

「いや、ほら、『白の膜』があるから大丈夫な……はず?」


 いつの間にか、『白の膜』は消えていた。

『豪炎』と相打ちになったのだろう。


「旗信号、来ました。ヤ・リ・ス・ギ……と言ってます」

「………………うん、そうなのかな? まあ、今回は無事合流できたことを喜ぼう」


 ロスワイル家の『インディペンデンス』と合流し、状況を聞いた。


「『イフリート』が落ちただって?」

 祐二が驚愕の声をあげる。


 現在、状況説明のため、『インディペンデンス』の副官の一人が『インフェルノ』に乗り込んでいる。


「はい。魔蟲の勢いがすさまじく、79-22番魔界から撤退することになりました。ただ、魔窟付近で激しい戦闘となり、最後まで残った『イフリート』は、ついに魔窟へ撤退することが敵いませんでした」


 アームス家のゴッツは、79-22番魔界に散った。

 ロスワイル家が指揮を執り、アームス家の生き残りとロイワマール家を引き連れてここまで撤退。


 魔窟前を最終防衛ラインとして、奮戦していたらしい。

 そこへ祐二が現れたというわけだ。


「状況を知らせる船を出していますが、いまだ戻ってきていません」

「なるほど、こっちは『終わらせるもの』の回収に成功した。ここまでの航海の間に使い方もほぼ理解できた。もしかすると、すぐ装置を稼働させることになるかもしれない」


「なるほどっ! それは朗報です」

「というわけで、周辺の魔蟲は排除して0番魔界へ行く」


 副官を『インディペンデンス』に返し、三船団で魔窟に入った。

「アームス家だけじゃなく、ロスワイル家の船団もかなり被害が出ているね」


「それだけ戦闘が激しかったんだと思う。地球が心配だわ」

「うん。急いだ方がいいね」


 そして、魔窟を進むこと数日。

 祐二たちはようやく、故郷である0番魔界へたどり着いた。



175話が終了しましたので、のこり5話で完結です。

いよいよですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] うぉーあとちょっと!
[一言] 自傷気味ではありますがそれくらいの火力を出せるインフェルノじゃなきゃ戻っては来れなかったでしょうねえ
[気になる点] 無事じゃないでしょ十分に有事だよ祐二。
感想一覧
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