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173 塔の探索

『インフェルノ』からおりたのは、祐二、フリーデリーケ、夏織の三人のみ。

 塔の入口は両開きの扉になっているが、押しても引いても動かない。


「いかにも手を(かざ)してくださいってヘコみがあるってことは……」

「そこに手を添えて魔力を流すんじゃないのかしら」


「だよね」

 祐二が魔力を流すと、グゥンと塔がかすかに揺れた。


「如月くん、いま」

 夏織が自分の身体をかき抱いた。


「ああ……いま、寒気がした?」

 祐二が確認すると、フリーデリーケも頷いた。


「いまのはきっと……塔が目覚めたのよ」

 塔が目覚めたとは、まさに言い得て妙だ。


 祐二の魔力が塔全体に広がり、屋上まで戻ってきた。

 その際、祐二は身体をスキャンされた気分を味わった。


 フリーデリーケと夏織も同じだったらしい。

「塔に入る資格を得たということかな」


 いつの間にか、閉じていた扉が開いていた。

「階段があるわ」


「お呼びでない者は、目の前で扉が閉まるのかしら」

 フリーデリーケがそう言うと、夏織が「まさか」と笑おうとして失敗した。それは十分あり得るからだ。


 三人は恐る恐る階段を下りた。

 階段は下りるごとに暗くなっていく。


 それは当たり前で、窓がどこにもないため、入口からの光が届かないところは真っ暗になっているのだ。


「ん? これ、もしかして」

 壁に手をついて階段を進んでいた祐二は、指先に触れた窪みに注目した。


 窪みは、ちょうど手のひらが入るくらいの大きさだった。祐二は無言で魔力を流す。

「あっ、光った」


「壁のその部分って、光る魔道具なの? もしかして……きゃっ!」

 夏織が祐二のマネをして窪みに魔力を流すと、光が(とも)った。


「へえ、正方形の窪みが魔道具になっているのね。今度は私がやるわ」

 フリーデリーケも二人のマネをする。


 窪みは等間隔に並んでおり、フリーデリーケは「これ、おもしろいわね」と次々と光らせる。


「……これ、使う魔力はそれほどでもないけど、連続してやっていくと使用魔力が無視できない量になるわ」

 フリーデリーケは少し息切れしていた。


「昔の魔法使いは、このくらの魔力の使用なら無視できたのかもしれないね」


「私たち三人いても、全部に灯すのは無理だと思う」

 夏織もフリーデリーケと同じ感想を抱いたらしく、「交代でやりましょう」と提案してきた。


「そうだね。じゃ、交代で必要なところだけにしておこうか」

 階段を下りきると、広いフロアに出た。天井の高さは三メートルほど。


「これ、近くの山脈から石を切り出したのかしら」

 フリーデリーケが手で壁を撫でる。


「色が似ているし、そうなのかも。中は……結構広いな」

 大きな部屋が、奥までいくつも連なっている。


 扉はなく、壁が四角くくりぬかれて次の部屋へ行ける感じだ。

「この部屋って、何に使ってたんだろう」


「さあ……倉庫かな。でも天井は低いし、ちょっと違う気も」

 夏織が周囲を見回すが、とくに目を引くものはなかった。


「何一つ、物が置かれてないのが不気味ね。まだ一度も使われたことがないみたい」

「そうだね。少なくともここで生活していた形跡はないかな」


 広い無人の部屋をいくつも抜ける。

 どれも空っぽで、荷物どころか、生活を示すものはなにも見当たらなかった。


 中心部に行くと、太い柱が天井から伸びていた。

 これは通し柱で、ずっと下まで続いているのかもしれない。


「階段があるわ」

 中央付近に下り階段があった。


「下りてみようか。この階には何もなかったし」

「ええ……もしかしてだけど、ここは大勢が寝泊まりするための施設なのかも」


 フリーデリーケが額に手を当てながら、そんなことを言った。

「へっ? なんでそう思ったの?」


「叡智の会が砦を建設したときも、やっぱり広い部屋をいくつか作ったのよ。船員が寝泊まりする場合、船に近い場所がいいから」


 砦を建設したのは大昔で、フリーデリーケはその話を聞いただけだ。

 魔界に行けるのは魔法使いのみで、彼らの建築技術が未熟だったため、手間を軽減するため、かなり簡素な部屋だったらしい。


「なるほど、わざわざ個室は作らないし、屋上に魔導船を置くから、船員はそのすぐ下で寝泊まりするわけか」


「想像だから、あまり本気にしないでね」

 フリーデリーケはそう言うが、この塔を利用する場合、魔導船は屋上に置かざるを得ず、物資や船員は近い階に集めた方が効率がよい。


 あながち、その考えも間違っていないかもと祐二は考えた。

 階段を下りると、今度は長い廊下に出た。相変わらず暗いが、窪みに魔力を流せば光が灯る。


「この階は、個室が多いな。通路は広くて歩きやすいけど、この階もちょっと用途が分からないかな」

 二十ほどの部屋を見て回ったが、どれも空。部屋は他もあるが、探索しないことにした。


 三人はさらに階段を下りる。すると円形の広い部屋に出た。

 中央に何かの部品が転がっており、円形の壁には、絵が描かれていた。


「そういうことか」

「えっ? どうしたの? この部品は何」


「部品は魔導船のパーツだと思う。いくつか見たことあるし」

「そんなものがなんでここに?」


「打ち捨てられた感じだよね。これ、栄光なる十二人の魔導師が、ここまで持ってきたんじゃないかな」


「どういうこと?」

「どこかに倉庫があって、修理用に必要なものを持ってきたとかどうかな。ほら、基幹部品は替えがきかないから、予備があってもいいはずだし」


「なんでここに……あっ、魔導船は屋上しか着陸できないから、倉庫はもっと下にあるわけね」

「そうかもしれない。たしかカムチェスター家でも破損した二隻の小型船で、一隻をつくったりしてたよね」


「ええ、使われている部品が同じだから、破損した二隻の船を……そういうことね」

「ここに替えのパーツがあるってことは、屋上で整備をしたのかも」


 栄光なる十二人の魔導師は、魔導船を見つけてすぐに帰還したとは思えない。


 この魔界で魔導船の使用感を確かめたはずである。

 そのとき、互いに武器を撃ち合い、外装どころか中のパーツまで破損したこともあっただろう。


 その修理のために、必要な部品をここから持ってきたとしたらどうだろうか。

「ということは、この下には、魔導船のパーツが?」


「たぶんあるんじゃないかな。とりあえず、下りてみようか」

 すぐ下の階層は、やたらと天井が高くなっていた。


「壁画だ。壁に絵が描かれている」

「壁に絵……栄光なる叙事詩(グロリアス・エピック)の通りね」


 そこには、魔界や魔蟲、そして魔導船と思しき絵が壁に描かれていた。

 祐二は、次々と壁の明かりを灯し、壁画の続きを見ていく。


 魔界に電子機器が持ち込めれば、写真や映像で残せるのだが、できないのだから仕方ない。

「あれ? これ……ガイド人じゃないのかな」


 カマキリのような顔の人物が、魔導船を建造している。

 両手両足のバランスは人間とほぼ同じ。


 壁画だからかもしれないが、足のサイズだけは大きく描かれていた。

 人類との違いといえば、それくらいだ。


「これがガイド人の姿……」

 次の部屋に行くと、ガイド人の歴史のようなものがあった。文字はない。すべて壁に絵で描かれている。


 ガイド人は長い間、魔蟲と戦ったらしい。

 魔導船も初期の頃とくらべて、どんどん進化しており、このまま戦いに勝利するのかと思われた。


 だが次の壁画では、大量の魔蟲に囲まれている絵に変わっていた。

「負けたのかしら」


「続きを見てみよう。隣の部屋だ」

 明かりを灯しながら、隣の部屋に進む。


 ガイド人たちは、魔蟲との戦いに負け、魔導船に乗って魔界を逃げたらしい。

 長い放浪の末、安住の地を見つけた。そこはおそらく、地球と似たような星なのだろう。


 だが、その平和は永遠ではなかった。

 文明が発展し、ガイド人の数が増えたとき、また魔蟲がやってきたのだ。


「如月くん、これっ!」

 夏織が叫ぶ。


 ガイド人は変な装置を作り、それを魔界に設置した。

 装置が作動すると魔界は沈み、二度と魔蟲がやってくることはなくなった。


 壁画はそこで終わっていた。


「この最後の少し前……この装置を発動する前の絵って、ここのことじゃないかな」

 祐二が指差したそこには、丸い塔が描かれている。


「えっと、ガイド人が住んでいる星があるわよね。そこと繋がっている魔界があって、ここは魔窟をいくつか抜けた先にある別の魔界ってことかな」


「絵からすると、そうみたい。ガイド人はここに塔を建てて、魔導船を置いて自分たちが見つけた魔界へ帰っていった……のかな?」

「どういうことなのかしら」


「ここ、ガイド人のいた星と繋がっている魔界とは違うよね」

「壁画の絵からすると、違うわね」


 壁画では、ガイド人たちがいる場所から魔窟を抜けた先に魔導船を持って行ったように描かれている。

 次の壁画でも、そこに塔を建てて魔導船を置いたように見える。


「なんでわざわざ……あっ、もしかして魔導船を残すため?」

「残すって、どういうこと?」


「大学の授業で習ったことがあるんだけど……」

 そして祐二は語り出した。



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― 新着の感想 ―
[一言] 魔蟲にはガイド人も勝てなかったのかあ それで最後の手段?のようなものでどうにかしたみたいですが
[一言] こういうギミック良いですね、好きです。
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