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167 驚きの報告

 祐二はまず教授に連絡を取り、事の次第を告げた。

 これまで何百年と使い方の分からなかった小パネルが稼働したこと、その結果、ここの魔界から遠く離れた場所から何かを受信し、そこまでの道のりが示されたことを話した。


『まさか……そこは「はじまりの地」ではないのか?』

「その可能性があると思うんです」


『たっ……』

「た?」


『ただちに本部へ連絡を入れるのだ!』

 耳がキーンとなるほどの絶叫が聞こえた。


「あの……教授」

『すぐに検証せねばならんが、これは我々の悲願が叶うかもしれん!』


 これ以上話すと耳がおかしくなりそうだったため、祐二は「分かりました。すぐに本部に連絡します」と言って通話を切った。


「……まいったな、連絡を取るといってもヴァルトリーテさんはまだ魔界だし、どうしよう」

 祐二とて、哨戒任務の合間なのだ。そうゆっくりしていられない。


 悩んだ末、旧本部の職員に「可及的速やかに、直接報告すべき重大な案件がある」と告げて、本部の偉い人へとりなしを頼んだ。


 するとどうだろうか。

 さすが『インフェルノ』船長の言葉は重い。


 職員は最重要コードで本部職員に連絡を入れ、すぐ面会の準備を整えるという返事をもらった。

「専用ヘリを出しますので、すぐに乗ってください!」


「は、はい!」

 背中を押されるようにして祐二はヘリコプターで本部まで文字通り飛んでいった。




「……それで何があったのかな」

 祐二と面談したのは本部長のノイズマン。


「お、お久しぶりです」

 祐二は、ノイズマンをやや苦手としている。


「このところ、驚くことばかり立て続けにおきてね。少々のことでは驚かなくなったよ。はっはっは」

「ははは……それはよかったですね、イエ、すみません」


 ノイズマンに睨まれて、祐二は縮こまった。


「それで、火急の案件とは一体なにかね?」

「あのですね。簡単に説明すると、魔導船『インフェルノ』の中にある何百年も使用方法の分からなかったパネルの起動に成功しまして、『はじまりの地』へのルートが表示されたみたいなんです」


「な、なんだってぇー!?」

 ノイズマンは、めちゃくちゃ驚いていた。


 以前、粘土板について話してあったのが功を奏した。ノイズマンの理解は早かった。

 祐二は、ゼミで粘土板の研究をしたこと。友人から石版のようなものから写し取ったのではという発想を得たこと。


 そして追加の粘土板の写真をお願いしたところ、他とハッキリ違う文字列を見つけたこと。

 ゼミの教授が、正しいと思える数字をあてはめたこと。


 その文字列の並びが、魔導船で使われなかった小パネルの数とぴったり一致したこと。

 それを起動したとたん、これまで沈黙していたものが動き出したことなどをすべて語った。


「まさかそんなことが……だが、ガイド人については分からないことばかり。何があっても不思議ではないか。だが、ガイド人の……」

 ノイズマンは、自身の思考にどっぷりと浸かったようで、祐二を前にして独り言を呟きはじめた。


「あの……他家の魔導船でも同じかどうか、確かめてみたらどうでしょう?」

「っ!? そうですね。それがいいでしょう」


 現在、カムチェスター家とバムフェンド家が基地待機と哨戒任務を交互にしている。

 バムフェンド家の『エキドナ』はまだ基地にいるらしい。


 ノイズマンはすぐに連絡を取り、バムフェンド家当主のアルビーンを呼び出した。

「その数字が書いた紙というのをコピーさせてください」


「いいですよ。どうぞ。それで俺はまだ哨戒任務中なので、そろそろ魔界へ戻ろうかと思います」

 基地待機と哨戒は一ヶ月で交代となる。交代までまだ半月残っていた。


「旧本部までヘリで送らせます。このたびは貴重な情報をありがとうございます。これで私どもの悲願が叶うかもしれません」


「これはみんな……それこそバチカンやアルテミス騎士団、ゼミのみんなの協力があってこそです」

「そうですね。もし真実が分かりましたら、かならずお礼させていただく予定です」


 もうここでやることはないと、祐二は屋上にあるヘリコプターに乗って、戻っていった。




 祐二は、魔界で半月ほど残りの哨戒任務を続けた。ようやく任務完了である。

 この半月もの間、『インフェルノ』で多くの魔蟲を排除した。


 魔蟲は、本部が予想した数より何倍も多かった。

 嫌な予感を覚えつつ、久しぶりの地上へ向かった祐二だが……。


「複数の魔界が溢れたんですか? それ18番魔界の話ですよね」

「そうなのだけど、どうやらそのもっと奥で複数の魔界が溢れて、それが18番魔界に殺到しつつあるらしいの」


「ええっ!?」

 大変なことになっていた。


 逆侵攻に向かったミスト家、チャイル家、ロスワイル家の三家は、合同で魔蟲の排除に乗り出したのだ。

 彼らは、どうなったのだろうか。


「三つの船団は対処できないと、撤退したわ」

 他の魔窟から、後から後から魔蟲が湧き出してきたため、逃げ出したに等しいようだ。


 それでも最初は順調に数を減らしていたのだが、倒した魔蟲の数よりやってくる数のほうが多いとあっては、どうしようもない。


「それでどうなるんですか?」

「魔蟲の行き先はこの魔界だけではないけど、今回は自然に数が減ってくれると考えるのは無理みたい。このままでは、魔蟲の群れがやってくることになるわ」


「そんな大群……防衛できるんですか?」

 祐二の問いかけに、ヴァルトリーテは首を横に降った。


「まず無理ね。絶対に撃ち漏らしが出るし、そもそも魔力が持たないわ。小型船から魔力不足で落ちていくでしょうね」

「…………」


 魔蟲を倒しきれない。それはすなわち、地球滅亡を意味する。

「けどね。朗報もあるの」


「なんですか?」


「ユージさんが見つけた小パネルの使い方だけど、あれはどの魔導船でも使えることが分かったわ。本部が総力を挙げて調べた結果、魔導船が指し示したルートの先に『はじまりの地』がある可能性が限りなく高まったの」


「そうですか、良かったですね!」

 小パネルでできた操作は以下の五つ。



 1.起動

 2.現在地から波を打ち出す

 3.目的地からの波を受信する

 4.現在地と目的地をルートで結ぶ図を作成して表示する

 5.停止



「探査の波は、マジル平面や概念の壁を超えることはないみたい。つまり魔界や魔窟の中しか波は届かないみたいなの」


「それで目的のものを見つけるわけですか」


「おそらく何千年も前の装置が魔界の向こうで生きていて、こっちへ波を送り返してくれるわけでもないようなの。こっちから送った波を反射するだけみたいね」


 探査と受信の手順を逆にすると、何も拾わなくなるらしい。

 そして魔導船が探査の波を送るといったら、それが保管されていた場所に他ならないだろうと。


「それならきっと、帰り道が分からなくなった場合の緊急措置だったのかもしれませんね」

「かもしれないし、いまみたいな状況を想定していたのかもしれないわ」


「けどそうすると、アルテミス騎士団の言葉が気になりますね」

 粘土板を「終わらせるもの」と呼び、栄光なる十二人の魔導師の一人が仲間を裏切って、それを託したことになっている。


 つまり栄光なる十二人の魔導師は、「はじまりの地」の場所を知っていたことになる。


「その辺はなんとも言えないわね。それと、悪いニュースがひとつあるの」

「なんです?」


「ゴランがダックス同盟という組織とアメリカで経済戦争をして、いつの間にか武力紛争に発展していたの。それによって、叡智の会が混乱しているわ」


 蔡一族は北米に拠点をおく実業家だが、その根っこのところは華僑をはじめとしたアジアの勢力らしい。


 婚姻によって多くの勢力を取り込んでいるため、その力は膨大。

 さらに中東で活動している武器商人たちが味方につき、次々と戦力が整えられている。


「経済戦争ですよね。それがなぜ武力紛争に?」

「蔡一族の有力者であるリチャードという人物が殺された仕返しね。なぜかゴランの仕業ということになっているのよ」


 彼らの復讐の標的は、多岐にわたる。

 守るといっても、人や物はあまりに数が多い。


 無作為に狙われた場合、防衛することなどほとんど不可能。後手に回らざるを得ない。

 かといって、こちらから攻勢をかけると、泥沼の消耗戦になってしまう。


 魔界が慌ただしいいま、地上はできるだけ大人しくしていたいのが本音だ。

「じゃあ、真犯人を見つけるしか……?」


「話し合いの窓口が閉ざされているから、その方向で動いているわ。とにかくいまは、ゴランにかかわるありとあらゆるものが狙われていると思っておいてちょうだい。叡智大もそのひとつよ。その関連で、大学生すらターゲットにされかねない」


 蔡一族の報復は、それだけ見境いがないのだという。

 魔界でも地上でも問題が山積みだと祐二は思った。



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― 新着の感想 ―
[一言] 魔法使いの悲願の達成が見えたかと思ったら地球側は全面戦争みたいな事になってるなー 悪あがきがうまく行きすぎましたね
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