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140 電子の要塞襲撃

 ――ドイツ 叡智の会 本部


「ずいぶんと思い切ったことをしますね」

 建物が揺れ、天井からホコリが落下してきた。


 ノイズマンは腕を払い、肩や腕についたホコリを払う。

 仕立てのよいスーツについたホコリは、ほとんどが足元に落下した。


 ノイズマンは満足そうに頷くと、ポケットからハンカチを取り出して、今度は手を拭った。


 先ほどの爆発音と建物の揺れは、外壁が攻撃を受けたことを意味する。

 ノイズマンは、インカムに呼びかけた。


「いま建物が揺れましたが、何がおきました? 映像データがあるでしょう。それを教えてください」


『三百メートル離れたビルから、ミサイルのようなものが発射されました』

「三百メートルとなると、直視できるビルは三つほどでしょうか。撃ってきたのは、迫撃砲ですか?」


『映像データによりますと、弾は直進しています。また直撃のあとで爆発しています。おそらくはロケット砲かと思われます』


「なるほど、分かりました。それではすぐに、そのビルへ傭兵を向かわせてください。逃げ出しているとは思いますが、見つけ次第処理して問題ありません」

『了解しました』


 ビルからの攻撃となると、戦車の砲撃ではない。

 そのことにノイズマンは安堵する。


「さすがに戦車は持ち込めなかったようですね。鉄の砲弾相手では、強化ガラスとシャッターでは心許ないですからね。よかったです。爆発系のミサイルやロケットでは、このビルに致命的なダメージを与えることは難しいでしょう」


 ビルの外壁はコンクリートと鉄筋だけでなく、鉄板まで仕込んである。

 たとえ戦車を持ち出して、至近距離から撃っても理論上は耐えることができる。そのように設計してあるのだ。


 ただし窓だけは別だった。どう強化しても、そこまでの強度はない。

 懸念材料としてはそれくらいだったが、こちらも問題ないようだ。


「しかし……一応警戒しておきますか」

 ノイズマンは天井を見上げる。


 叡智の会への侵入を目的とした場合、この建物は要塞以上の強度を誇る。

 だが、破壊が目的だった場合は、その限りではない。


 現代武器の中には恐ろしいものがいくつもあるのだ。

 たとえば、小型核爆弾。周辺の町すべてを無に帰する覚悟があれば使用してくるだろう。


 核を使わなくても、地中貫通爆弾(バンカーバスター)という兵器もある。

 これは飛行機の高度から、激しく硬いミサイルを自然落下させるのだ。


 通常の爆弾と違って、落下の加速度を得て地中深くまで潜ったあとで爆発する。

 それを使われた場合、いかに屋上を強化していようとも、簡単に突き抜けてしまうだろう。


「まさかとは思いますが、準備しておきますか」

 ノイズマンは、慣れた手順で執務室の金庫を出現させ、中に入っている魔道具を取り出した。


「万一のことがあっても、これを持ち出しておけば、相手の意表を突けますね」

 ノイズマンは椅子に座り、スイッチを押す。


 すると椅子ごと床が抜け、ノイズマンは座ったまま下へ移動していった。

 これは本部長専用の特殊エレベーターである。このまま地下へ直通するのだ。


「地上と上層階を同時襲撃とは考えましたね。けれどももう、私はそこにいないのですよ」

 ノイズマンは地下へ向かった。




 ――ドイツ とある建物 ペパーミント


 二度の砲撃で、本部ビルの上層階は、酷い有り様になっていた。

 だが、コンクリート部分が剥げ落ちても、鉄筋と鉄板がなおも健在。


 それでもここまで被害を受けたのだ。上層階は危険と判断するだろう。

 ではどこへ逃げる? 地上ではいまだ銃撃戦が行われている。


「地下にしか逃げ場はないわよね」

 ペパーミントはそう予想した。


 ペパーミントはロイワマール家の一族に生まれ、魔法使いになるための鍛錬を毎日してきた。

 苦しくて、苦しい毎日だった。


 叡智大ではなく、外の大学を受けたとき、自分は心から解放されたと思った。

 魔法使いの常識と魔法使いのしきたりしかなかったペパーミントに、新しい風が吹き込まれたのだ。


 同時に、ペパーミントがいままで守ってきた因習がなんて愚かで、なんて無様なものか知った。

 魔法使いに対して憎しみを持ったのは、それが最初だっただろう。


 紆余曲折を経て、ペパーミントは黄昏の娘たち(ヘスペリデス)と出会った。

 そこでこの狂った魔法使いの世界を終わらせようと考えた。


 ヘスペリデスの考えに共感したのだ。

 魔法使いを憎悪し続けてきたヘスペリデスの歴史は、ずっと抑圧されてきたペパーミントと同じだったのだ。


「なぜ各家の当主たちは、我が世の春を謳歌しているのかしら」

 栄光なる十二人魔導師の子孫というだけで大きな顔をしていることが許せなかった。


 彼らに尽くすために、ペパーミントは幼少時からのすべてを捧げてしまった。

 取り返しのつかない大切な時期をすべて奪われたのだ。


「一気にいくわよ」

 ペパーミントは、地下から叡智の会の建物に侵入した。


 これが今回の切り札。

 実はかなり昔から少しずつ、叡智の会本部地下へトンネルを掘り進めていたのだ。


 だが地下にはコンクリートの壁があり、その中には銅線が走っている。

 不用意にコンクリートを破壊すれば銅線が切れ、本部に通知が行く仕組みになっていた。


 ならばどうすればいいか。銅線を切らなければいいのだ。

 長い時間をかけて少しずつコンクリートを削っていったが、ここで問題が生じた。


 地下から侵入しても、結局の所、人や機械の目で監視されている以上、そこから動けないではないかと。

 そこで思いついた。重要人物や、重要なアイテムを持ったまま、地下に来てもらえばいいのだ。


 地下が安全で、他が危険だと認識させればよい。

 そう考えたペパーミントは、地上と上層部に同時攻撃をしかけ、安全な場所は地下しかないと思わせた。その上での突入である。


「このまま進みます!」

「「「了解!!」」」


 部下を引き連れてペパーミントは本部の地下部分を疾走する。

 すでに気付かれているだろう。だが、隔壁を閉めれば取り残される者も出てしまう。


 ペパーミントは通路を疾走し、目当ての部屋を見つけた。

「突入!」


 そこは本部地下の中央部。もっとも重要な場所だ。

 ペパーミントが部屋の中になだれ込むと、ノイズマンがいた。


「思った通りね。チェックメイトよ、ノイズマン!」

 ペパーミントの心は高揚していた。


 多くの犠牲を払った甲斐があった。

 何しろ、ノイズマンはその手にアカシアの魔道具を持っていたのだから。


「キミはたしかこの前取り逃がした……」

「ペパーミントよ、覚えてもらえて光栄だわ」


「ふむ。ペパーミントね。ロイワマール家の一族であるのは知っているが、はてさて」

「傍系の傍流よ。それでも夢よ再びって、さんざん愚にもつかない魔法の鍛錬を小さい頃からやらされてたわ」


「それがイヤで逃げ出した口かな」

「おしゃべりは結構。そのアカシアの魔道具を渡しなさい」


「ほう。これはアカシアの魔道具というのですか。参考までに、どのように使うもので?」

「それをあなたに話す義理はないわね」


「そうですか、では後ほど聞き出すとしましょう」

「ずいぶんと余裕ね。この数の差が見えないのかしら」


 ペパーミントの後ろには十人を超える男たちが銃を構えていた。


「たしかにそれは脅威ですね」

「逆転を狙っているの? 生憎と、こっちはそんなヒマはないの」


 ペパーミントは男たちの間に下がった。

「自分たちが優位だと言っているわりには、余裕がないですね」


「じきに警察もくるし、命を賭してここに攻め入ってくれた仲間たちを回収しなくちゃならないの。というわけであなたを殺して、アカシアの魔道具をいただいて帰るわ」


「渡しませんと言ったらどうします?」

「奪い去るのみよ……やって!」


 ペパーミントの指示が飛び、男たちがノイスマン目がけて銃を発射した。


 ――ダダン、ダダダダン


 放たれた銃弾はすべてノイズマンの身体に吸い込まれた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 次回、「ノイズマン死す」。 いや多分なんか隠し玉あるんだろうけど、どうなるか気になります。
[一言] 読み合いの末にノイズマンは追い詰められましたかー ほんとにピンチなのかここまで読んでいるのか気になるところ
感想一覧
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