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111 まさかの対立

 ――アルテミス騎士団


 アルテミス騎士団は、叡智の会を監視する組織的な集団である。

 太古の昔から存在する彼らは、さまざまな方法をもって、叡智の会を監視し続けていた。


 目に余る行動がみられたとき、彼らは全力をもって叡智の会を押さえに動いた。

 それゆえ、叡智の会とアルテミス騎士団は、時代や世代を超えて、対立してきたといえる。


 彼らはどうやって叡智の会を監視しているのか。

 また、どのようにして情報を得ているのかは、定かではない。


 彼らのシンパはどこにでも存在し、それゆえ情報が集まってきていると唱える人もいる。

 ただし、その真実が明らかになったことは、まだ一度もない。


 祐二が魔導船『インフェルノ』を駆って魔蟲の群れを一撃のもとに殲滅したという情報は、いくばくかの時を経て、アルテミス騎士団にも伝わった。


 さすがに叡智の会が情報を秘匿してるだけのことはあり、そのまま伝わったわけではない。

 アルテミス騎士団からしても、いくつかある情報の入手ルートから得たものを吟味し、解析した上での結論だった。


 このことから、彼らの情報収集能力は、それほど秀でているわけではないことがうかがえる。

 どこぞの店員や、納入業者の中にシンパもしくは団員がいるのだろう。


 叡智の会の職員や、各家の人々、叡智大の特別科など、魔法使いの近くに侍っているものの、重要な情報を入手できる位置にはいないと思われる。


 たとえ不正確な噂や、噂ともいえない話の断片でも、それを繋ぎ合わせることはできる。

 わずかなピースから、祐二が強力な魔導船を乗りこなしているという情報に辿りついたのは、大したものなのかもしれない。


 ゴランと表だって対立をはじめたアルテミス騎士団にとって、この裏のニュースは看過し得ないものだった。

 これまで以上に強力な家の誕生は、後世に悪しき影響を及ぼしかねない。


 そもそも、叡智の会の力が増さないよう、バランスを取るのがアルテミス騎士団の使命である。

 これは何とかしなければならないと、騎士団長のハイネブルスは考えた。


 ハイネブルスはリュオーンに命令をくだした。これまでの作戦は継続。

 猶予はない。ただちに使命を遂行せよと。


 もしハイネブルクが自ら動いたら、もしくは作戦を早めることをさせなかったら、地球の運命は大きく変わっていたであろう。

 後世からみた『歴史の転換』は、このときおこったと言える。


「……まいったな」

 命令を受領したリュオーンは、頭を抱えた。


 団員のロゼットを使い、祐二と顔を繋いだところである。作戦はまだ初期段階と言えた。

 これからロゼットを通して祐二の為人や好み。趣味趣向を探り出し、最適と思える()()をあてがうのが、リュオーンの仕事であった。


 団長から来た命令は「ただちに遂行せよ」である。

 まだその段階でないのにだ。


 アルテミス騎士団は経済団体や俳優、女優集団、資産家などから金銭的な協力を受けている。

 特別な人たちは、特別なものに憧れるらしい。


 太古の昔から面々と続いてきた秘密結社というだけで、好奇心が満たされるようだ。

 事実、アルテミス騎士団の本拠地――とはいっても、外向けのものだが、その重厚さや歴史ある佇まいは、人々を魅了してやまなかった。


 今回、アルテミス騎士団が考えた作戦は、祐二に魔法使いではない魅力的な女性を近づけること。


 カムチェスター一族内の女性と、全世界の中から選りすぐった女性。

 祐二に最良の相手を連れて行けば、どちらを選ぶか、自ずと答えはでる。


 リュオーンはそう考えていた。

 そのため、親近感を持たれやすいロゼットを使ったのだとリュオーンは考えていた。


 ロゼットが祐二の好みを聞き出し、彼女本人か彼女の眼鏡に適った女性を選び出せばよかったのだ。

 それがご破算になった。


「急げですか……困りましたね。もう一度島に渡るのは難しいと思いますよ」

「それは分かっている。どうしたらいい?」


「時間がないのでしたら、コネをつかって日本のアイドルや、世界的な映画スターを適当に呼び寄せるのはどうです?」


 カムチェスター家でライバルになりそうな女性はほんの数人。

 ならば、ゆっくりことを進めてもよいのではないかとロゼットは思う。


「お父様なりに、思うところがあったのでしょうけど、少々やっかいな命令ですよね」

「言われたのだから、やるしかない。こういうときのコネだからな、存分に使おう」


 リュオーンは、世の男性諸氏が目をハートにしそうな女性たちを見繕うことにした。

 それを連れて、ロゼットが祐二の反応を見ようというのだ。


 だが、リュオーンが性急に動いたことで、思わぬ集団が動くことになった。




「……やってくれますね、アルテミス騎士団」

 バチカンの異端審問官、シスターマリーである。


 財界や芸能界にアルテミス騎士団のシンパがいるように、キリスト教信者も同じテリトリーにいっぱいいるのだ。

 それを通して、アルテミス騎士団が見目麗しく、能力の高い女性を集めているという噂を入手した。


 マリーはすぐに彼らの意図を察した。祐二の誘惑だ。

 なるほど、叡智の会の力を削ぐにはいい手である。


「どこからも、文句が出せない方法だな」

『祐二が自分で選んだ』そう言わせてしまえば、それまでだ。


「それでは困るのですよ」

 マリーは爪を噛む。


 マリーが祐二に近づいたのは、叡智の会に対する嫌がらせだからではない。

 バチカンでも、ごく一部の人しか知らない秘密のためであった。


 ゆえに、ポッと出の女性などに、さらわれてほしくないのだ。

「人を集めてください。抗議しにいきます」


「おいおい、そこまでする必要はないだろ」

「いえ、あるのです。申し訳ありませんが、これは決定事項です」


 今回の任務、通常は年長のロッドが主導するが、緊急時にはマリーに従えと言われている。

 マリーがそこまで言うのならば、これは緊急時なのだろう。


「分かった。どれだけ集めればいい?」

「できるだけ多く。お願いします」


「それは……いや、分かった。できるだけ多くだな」

 相手はアルテミス騎士団である。抗議が通じるわけがない。ならば、そのあとどうなるか。


 もちろん、戦いになる。

 ロッドは、戦闘経験のある者を中心に人を集めることにした。




 ――イギリス ロンドンの郊外


 ロンドン郊外にある廃工場に、アルテミス騎士団の面々が集まっていると聞き、マリーたちはそこへ向かった。

 襲撃の隙ができたのか、それともおびき寄せられたのか。


 結果、そこにはアルテミス騎士団とバチカンの奇蹟調査委員会の一団が一堂に会した。

「やはり来たのね」


「もちろんですとも」

 ロゼットが言えば、マリーが返す。


 両陣営ともに十数名の仲間――双方ともほぼ同数の戦闘員を引き連れている。

 では個々の強さはどうなのか。


「引いた方がよいのではないですか」

「それはこちらが言うべきことだと思いますわ」


 ロゼットとマリーのにらみ合いは続く。

 当然、その背後に控えている者たちもまた、いつでも戦闘に入れる準備をする。


 ここに至って、話し合いで済ませられると考える者は皆無。

 日本の暴力団や、イタリアのシチリアマフィアでもこれほど暴力的ではない。


 規律を尊び、正義を標榜(ひょうぼう)する騎士団と、隣人愛を説く世界最大宗教の信者が行うことではない。

 だが、戦いはおこった。


 おこるべくして起きた事象。

 ロゼットの相手は、マリーだった。


「オバさんには、激しい運動は厳しいですわよ?」

「小娘こそ、ここへ来る前にトイレにちゃんと行ったのかしら。漏らされたら、堪りませんわ」


 舌戦と同時に手も動く。


 ロゼットの武器は針のように細い剣。どうやらフェンシングを使うようだ。

 一方のマリーは、指の間に多くのクギを挟んでいる。


 ロゼットの眉間を狙ったクギは、剣によって撃ち落とされる。

 その真剣な表情に、マリーの記憶が呼び起こされた。


「そういえばその顔、思い出しましたわ。ウクライナの体操で、オリンピック代表候補になっていましたわね」


「よくご存じで。ですが、体操より(こちら)の方が得意なのですよ」

 刺突剣がヘビのように動き、マリーの肩に傷をつける。


 両者の戦いは互角に見えた。互いに攻防を繰り返し、決着はいまだつかず。

 だが、時間が経つにつれて、マリーの傷が増えていく。


 致命的な傷こそないものの、ロゼットの刺突剣が、少しずつマリーの身体に届いているのだ。


「やはり歳には勝てないようですね」

「この小娘ッ!」


 獲物の長さではマリーが不利。その分、投擲という手段があるが、ロゼットは充分警戒している。

 投げたところで、馬鹿正直に受けてくれるとは限らない。


 そしてマリーのクギは有限。

 すべて投げきったら、勝機はなくなるのだ。


「余裕がないようですが、おトイレですか? 歳をとると近くなっていけませんね」

 挑発するロゼットに、マリーは歯ぎしりした。



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― 新着の感想 ―
[一言] おんなのたたかいコワイ
[一言] 野蛮www 893よりも野蛮ってナレーションに断言されてるwww 草に草が生えるwww 人類史において宗教って散々殴り棒にされてきたし、こうなるべくしてなったんですかねえ。 しかし、両者と…
[一言] おーおー、やり合ってるやり合ってる この戦いがどう影響するんだろなあ
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