第95話 血花の過去
『ナンダ……ヨワイナ……』
相変わらずの声で言う大蛇。
その向かい側には、片膝をついている血花がいた。
血花の身体には、ところどころに傷があった。
『オマエノノウリョク、チヲナクスノウリョクカ? ヨワイノウリョクダナ』
血花の霊化の能力を見破った大蛇は、血花に挑発の言葉をかける。
「……テメェに血が流れてねぇとは思ってなかったよ。血が流れてねぇと、人の心とかねぇんだな。……あ、いや、霊に人の心とかねぇか。取り消せ」
血花は自分が負けている状況だというのに挑発する。
しかし大蛇はその挑発に乗らなかった。
そして大蛇は血花との戦いを終わらせるために、血花に襲いかかった。
血花は脚を怪我しているため、速くは動けない。
いや、動けなかった。
近づいてくる霊を見つめていた。
そして、胸の中にしまっていた『過去』を思い出していた。
「ふざけないでよ!」
中年の女が一人の幼い少女――血花を蹴り飛ばす。
血花は口から唾を吐きながら吹っ飛ぶ。
「アナタのせいで、私が恥をかくじゃないの!」
女は倒れている血花を容赦なく踏みつける。
何度も何度も。
その度に血花は口から唾を吐く。
「ご、ごめんなさい……」
血花はやっと言葉を発することができた。
しかし女はその言葉を聞こうとしていない。
「育ててやってんのに! 誰のおかげで食べていけてると思ってんの! ゴミが!」
「ごッ、ごめんなさい……! ごめんなさい……!」
ずっと踏み続ける女。
やがで血花は喋れなくなった。
口の中に錆びた鉄のような味が広がる。
それが『血』と理解していなかった血花は、その味が不思議だと思わなかった。
ただ『いつもの味だ』と思っていた。
「なんでそんな風に育つの!? それじゃ、私が妊娠した意味がないじゃない!」
「た、食べるものがなかったので……」
「そんなん、自分の腕でも食べてればいいじゃない! なのになに!? ゴキブリなんか食いやがって! 汚いじゃない!」
女は血花の頭を掴み、持ち上げる。
そして血花を投げる。
血花は壁にぶつかり、床に倒れる。
そして女は血花に近づく。
その女の顔を、血花は忘れることはなかった――
せまってくる大蛇。
血花は動かない。
大蛇は口を大きく開ける。
しかし、血花が喰われることはなかった。
血花と大蛇の前に、急に誰かが現れ、誰かが刀で大蛇の口をおさえていたのだ。
それは血花のよく知っている人物だった。
しかし、血花が『大好き』といえる人物ではなかった。
「テメェ……!」
「あらあら? 随分傷ついてるのね」
血花の前にいる人物――美魅は、血花に微笑んだ。




