戦争
国境からの火急の知らせを聞いてカイルは顔を歪めた。
「クソッ!あの業突く張りのクソジジイがっ!」
これまではカイルの父親が皇王を務めていた時に、1度うちの国に手を出して痛い目をみた隣国、【エルザ王国】の王は大人しくしていましたが、世代が変わったドサクサを狙って侵攻を開始しました。
「落ち着いてカイル。今は何をすべきかわかるでしょう?こういう時は冷静沈着にね?」
深呼吸をして落ち着いたカイルは言った。
「ふぅ、そうだな。至急援軍を送る事だ。周囲の貴族に王命で兵を出させる。時間を稼いでいる間に、王都周辺の貴族と王国の騎士団を率いて迎撃する!」
「そう、それでいいの。尊敬している御父上が亡くなったばかりだというのに、それを狙った侵攻など許せませんわ!」
冷静に助言しているシオンも憤っていた。
本来であれば、アガレス王国の貴族当主達を集めて皇王の葬儀をする筈だったが、母上にお願いし、身内だけで質素に済ますと、エルザ王国の対応に向かうのだった。
侵攻当初は国境にある大きな砦で迎え討つ話だったが、事態が大きく変わった。
砦には5千の兵が詰めており、敵は2万の軍勢で攻めてきた。敵国の名将【マーチス将軍】は1万の兵で包囲し、残り1万を複数の部隊に別けて辺境の各地に侵攻を開始した。
辺境の貴族達は各自バラバラに兵を挙げて砦に向かっていた所を各個撃破され壊滅。
王都周辺からまとまった兵を集めて辺境に向かい到着するには2週間は掛かりその間に国境砦が陥落してしまったのだ。
カイル達は自分達の最大の守りである国境砦を逆に攻略せねばならなくなった。
カイル王国軍は野戦の簡易陣地では攻略は不可能とし、王都へ続く街道の城壁のある大きな街に撤退せざるを得なかった。
「クソッ!エルザ王国軍めっ!」
ドンッとテーブルに拳を落して怒りを露わにするカイルに周囲の側近達が宥めた。
「カイル皇王陛下!落ち着いて下さい!」
「そうです!頭に血が上っては良い案も浮かびませぬ」
カイルはわかっている!と言い放ち、現状の確認と攻略作戦の立案を求めた。
だいたいの意見は、今のままでは国境砦の攻略は不可能。奴らが侵攻を開始して砦から出てきた所を平野部で打ち破り、兵の少なくなった砦を攻略すると言う所で話は終わった。
しかし、エルザ王国はカイル達の上を行っていた。エルザ王国侵攻軍はそれ以上進軍せずに、砦の周囲の地域の制圧に力を入れたのだ。
アガレス王国軍が救援に向かうと、すぐに砦に戻ってしまい蹂躙された周囲の村や街が残り、その救援をしなければならなく、辺境の民の支持は下がっていく一方であった。
カイルは苦渋の決断とし、辺境砦の周囲の地域を放棄し、アガレス軍が駐屯している街道沿いにある1番近い街に住民を避難させる事にした。
一部は反発したが、エルザ軍に蹂躙された町や村を聞いて不満を飲み込み移動を開始した。
こうしてアガレス王国は領地を一部切り取られる形となったのであった。
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