陞爵
次の日になりました。
「昨日はお見苦しい所をお見せして申し訳ございません」
食堂に入ってくるなりアルトは頭を下げた。
「いいえ、母親と再会出来たのです。仕方が無いでしょう」
そう言うとイージス男爵は席に案内した。
「恥ずかしい話、王家の人間でありながら守護精霊アリエル様の存在を疑っていました。ただこの土地に豊穣をもたらす存在だと。しかし、人々の行いを見守ってくれていると、わかった以上、毎日お祈りを捧げる事にしますよ」
アルトは食堂のテーブルに両手を添えて祈りを捧げた。
「本当に奇跡と言うものは突然に起こるものじゃな」
しみじみと先王は呟いた。
料理が運ばれてくるとアルトは思い出した様にイージス男爵に伝えた。
「そうそう、食事をしながらで構いません。昨日言うのを忘れていたのですが、ヴァーボンド伯爵家は罰の為に『降爵』となります。領地も半分にされるので、イージス男爵家に隣接する土地を賠償金代わりに与えられる事になりました」
「はい?」
突然、降って湧いたように領地が増えると言う。
「それと同時に領地の広さに比べて男爵家では格が釣り合わなくなるのでイージス男爵家は子爵家に『陞爵』となります。おめでとうございます。イージス子爵殿」
ゴホッ!ゴホッ!
咽るお父様にナプキンを渡してシオンが聞き返した。
「それは突然ですわね」
「いいえ、ヴァーボンド伯爵家の不正を暴くのに時間が掛かっていたのは、この後の事後処理を含めて時間が掛かっていたのです。それに上級薬草の栽培に成功すればさらなる陞爵も【確定】しております」
はいーーーー!!!!!
「え、それは伯爵にまで上がると言う事ですか?」
震えながらお父様は尋ねました。
「いいえ、さらに上の【辺境伯】の地位を授かるでしょう。守護精霊アリエル様が現れたと言う事もあり、辺境伯になれば、他の貴族より多くの兵士を配備できますので」
!?
あわわわわっ……………
お父様は私に視線を向けてどうしたらと動揺しております。
そうそう、貴族の位は大まかに言うと、男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵、王族と言う感じになります。
辺境伯とは例外的に、国境を守る貴族の為に、位としては侯爵と同等として扱われます。
そう、国境を守るのが辺境伯を授かる条件なのですが…………
「不思議そうな顔をしていますね。確かにイージス男爵領は国境がありません。向こうには誰も住んでいない大樹林が広がっており、その向こうは山脈があるだけです。しかし、守護精霊アリエル様が顕現された土地と言うことで、『聖地巡礼』の信者が多く訪れるでしょう。それを盗賊などから守る為に、自警団では弱いので、騎士団の設立が必要となります。それ故の辺境伯の地位です」
ふむふむとシオンは頷きながら嫌な予感も感じていた。
「お父様、まずは上級薬草の栽培が上手く行かなければ話が進みません。取り敢えずこの度は子爵への陞爵、おめでとうございます♪」
シオンは嫌な予感を飲み込んで、父親に心からの御祝いを言うのだった。
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