宝の宝庫
その日は軽く雑談してから長旅の疲れを癒やしてもらう為に、早目に休んで貰った。
──次の日──
「うむ、流石はシオン様ですな。これは十分に研究資料として役立ちます」
シオンの上級薬草の成長日記(夏休みの宿題風)を見てゼファーは唸った。様々な植え方や、日当たりの良い場所、悪い場所、裏庭の土を混ぜて植えた所など詳しく書かれていた。
ゼファーはその成長日記を見ながら畑を見廻った。
「初めての試みですので、思い付く限り試してみました。後は専門家の意見を聞きながら、他に見落としがないか見て欲しいですわ」
上級薬草の苗を植えた畑を順番に見て意見を述べた。
「やはり、元々生えていた裏の森の土を混ぜた畑の方が成長してますね」
ゼファーは◎、○、△、✕を書き込んでいった。
「シオン様、まずこれだけで裏の森の土に秘密がある事がわかります。色々な植え方をした畑はどれも枯れたり、干乾びたりしてますが、裏の森の土を混ぜた畑の苗は、まだ元気です。他の平地の場所でも殆ど生えていない事を踏まえると、裏の森に秘密がありそうですな」
ゼファーはじっくり観察しながら意見を述べた。
「なるほど。では裏の森へ行きましょう」
シオンの案内で裏の森へ移動した。
裏の森はそれなりに木々が覆い茂り、薄暗かった。ただ、屋敷に近い場所は人の手が入っており森の入口には屋敷を取り囲むレンガを積み上げて作った石の城壁があり、侵入者や獣の侵入を防ぐようになっている。そして、裏門と呼ばれる小さな出入口から小さな道が作られていた。
「なるほど、ちょっとした道が作られているのですな」
地面に丸太を埋めて道が塞がれないように手が加えられていた。
「ええ、ここは食材の宝庫らしく代々、木ノ実や薬草類、獣を狩るのに使っているそうです。この先に道具を置いておく、小さな小屋もありますわ」
「なるほ………!?」
ゼファーは全てを言い切る前に駆け出した。
そして、木に生えている苔を見ていた。
「ど、どうされたのですか?」
「いえ、前回来たときは、この裏の森には来なかったので知りませんでした。この苔も珍しいものなのです」
過去に来た時は、もっと山脈の麓の森まで足を運んだんだぞ?こんな近場にあったとはな。
あの時気付いていればとゼファーはため息を吐いた。しかし、その後は逆に息を呑む事になった。
「マジか……………!?なんなんだ!この森は!?」
歩く度にゼファーは足を止めて様々な植物を採取していった。素人には何がなんだかわからないものばかりで、1つ1つゼファーに尋ねる事になった。
「この植物は麻酔作用があり、こっちは鎮痛剤の効果があります。とても珍しく、効果も高いので、大きな怪我をした者に役立ちます」
いつの間にかゼファーの目が宝物を見つけた少年の様になっていた。
そして上級薬草の多く生えている場所にたどり着くと、その光景に目を奪われた。
「これは圧巻ですな。これほどまで上級薬草が生えている群生地帯は今まで見たことがありません」
それなりに多く生えてはいる。
しかし、これから定期的に採取して国内外の需要を満たせるほどはないのである。
「シオン様、この森は明らかにおかしいです。他では滅多に見かけない植物が多く自生しております。出来れば上級薬草以外の植物も栽培してみませんか?」
「そうですわね。第一の目的は上級薬草の安定栽培ですが、その他にも我がイージス男爵領の利益になるのであれば、並行してお願い致しますわ」
「かしこまりました!」
ゼファーはさっそく森に生えている上級薬草を調べるのだった。
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