準備を急げ!
先王陛下が移住してくるのは1ヶ月後であるが、決して時間がある訳ではなかった。
先に大工の人々がイージス領にやってきた。
流石に、先王陛下の屋敷を建てるのに、見ず知らずの大工やそれに伴う仕事人を雇う訳にはいかなかったからだ。口の硬い王宮専門の職人が呼ばれたのだ。
有事の際の秘密の抜け道など、知られてはいけない作業がある為である。
王都から辺境のイージス領までは通常の馬車で1週間ほど掛かる。
シオン達は、地元の大工達に空き家になっている家を大急ぎで改修させて、仕事人の方々の住む場所を確保させた。
「思ったより傷みが少なくて良かったですわね」
「ああ、空き家が多いのが良いのか悪いのかは置いといて、何とか確保はできたな」
人が出ていって空き家の目立つイージス男爵領であったが今回は助かった。大工さん達に野宿させる訳にはいきませんからね。
「それよりお父様、大急ぎで宿屋を造りませんと大変な事になりますわ」
「うん?どうしてだい?」
シオンはまだ状況を飲み込めていない父親に理由を話した。
「これからうちの領地に多くの観光客、もしくは行商人がやってくるからですわ。大きな宿屋を3軒ほど建てませんと、泊まる所が足りなくなりますわ」
「待て、どうして急に行商人が多くやってくるとわかる?」
「まず、先王陛下がここにくると言う事は、王家から各貴族に通達があります。先王は今でも人気があります。必ず隠居したとしても、目敏い商人が先王陛下に気に入られようとして、何かしらの高級な品物を売りにやってくるでしょう。さらに、王宮からの指定大工達が、仕事の為に多くこの領地に派遣された事もすぐにわかります。その仕事人を狙って、生活物資を売りに行商人がやってくるという訳です」
!?
「そんな事が!?」
驚く父親にシオンはさらに続けた。
「それに地元の大工の仕事斡旋にもなります。先王の屋敷を建てる作業には携われませんが、その代わりに宿屋や民家を建てる仕事を与える事で不満を抑える理由もあります」
一呼吸置いたシオンの話を真剣に聞いた。
「それと、先王が前金としてそれなりの大金を持ってくるそうですが、今のうちに小麦など、日持ちする大量の食料を近隣の領地から買い漁って下さい。職人達がきて賑わってきてからでは、足元を見られて生活物資の値を上げられてしまいます。今のうちに買えるだけ買って備蓄して置いて下さい」
「ああ、わかったよ。本当にシオンが居てくれて助かるな」
自分ではそこまで考えられなかったよ。
シオンの知識に助けられる男爵だった。
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