王家の話し合い②
取り敢えず、まだ幼い子供が精霊の加護を授かった事は王家で箝口令を敷き、イージス男爵家を保護する事で話が付いた。
まだ幼い子供が精霊の加護を授かった事が広まると、人攫いやその力を取り込もうと貴族が動き出すのが目に見えていたからだ。
一通りの話が終わり席を立とうとした時、現皇王ルークは思い出したように呼鈴を鳴らした。
「どうした?まだ何かあるのか兄貴?」
回答を待つ前にメイドが部屋に入ってきた。
トレイの上にあったグラスと見たことのない形の酒瓶を置いた。
「これはなんですの?」
「これはイージス男爵領で生産されている【地酒】だそうだ。父上がいたく気に入って大量に買ってきたんだ。聞いた話だと、約100年前にドワーフから教えて貰った『蒸留酒』と言う酒らしい」
二人の兄妹のグラスに酒を注いだ。
「ちょっと気になる事があってな。飲んでみてくれ」
シーラとアルトはお互いに顔を見合わせたが、グラスを手に取り軽く口を付けた。
「美味い!少しアルコールが高いが素晴らしい酒じゃないか!」
アルトは気に入ったようで一気に飲み干した。
「確かに美味しいですわ♪でも、これって………」
シーラは何かに気付いたようだ。
「ああ、そうだな。この美味い酒は、ヴァーボンド伯爵家が数年前に売り出した高級酒と味が一緒だな」
アルトも味が、わかっていたようで答えた。
「そうだ。父上もそれに気付いて調査を依頼された」
「ヴァーボンド伯爵家が不正していると?失礼ながらイージス男爵家の方が模倣している可能性もあるのでは?」
ルークは一枚の報告書を出した。
「父上はイージス男爵領で、酒作りしている工房に行き、ワイズ殿と一緒に作りたての酒を試飲したそうだ。イージス男爵領で作れられているのは間違いない。それと、辺境のイージス男爵領では、慢性的に若い人材が中央へ出稼ぎに行き、人手不足だそうだ。昔の火山灰の影響がまだあり、農地が少ないのが主な原因だが、領地の外貨を稼ぐ為に、領内で消費していた地酒を隣の領地に売り出したのが5年前からとの事だ」
シオンが生まれた時に、領地の賑わいを取り戻そうと始めた事業であった。精霊信仰から銘柄を【精霊の水】と名付けられた。
「なるほど。その隣の領地がヴァーボンド伯爵家だったと言う訳か」
「それにしても、少々………いえ、かなり許せませんね。なんですかこれは!?」
イージス男爵は地酒を銀貨1枚で売っていた。
これは通常の価格で不当ではない。原材料費など引いても利益は上がっている。
しかし───
「イージス男爵はこの酒を【銀貨1枚】で販売か…………確かヴァーボンド伯爵は【金貨10枚】で販売していたな。生産が少数で手に入らないので、プレミアがついて金貨20枚で売れることもザラだとか」
銀貨10枚で金貨1枚の価値になる。
つまり100倍以上の金額で取引されているのだ。
「イージス男爵から仕入れた酒をボトルを入れ替えて販売しているのだろうな。まだ調査してみないとわからないが………兄貴、俺が調べてもいいか?」
「ああ、頼む。私は、そこまで手が回らないからな。イージス男爵にはこの酒をもっと量産して、もう少し価格を抑えて販売して欲しいからな」
良い物を安く売られては他の物が売れなくなる。適正価格と言うものがあるのだ。
イージス男爵は安く売り過ぎ、ヴァーモント伯爵は高く売り過ぎである。まぁ、買い叩かれているのもあるだろうが。多少変動しても、金貨2~3枚ぐらいで売って欲しいものだ。
それぐらいの価値がある。
酒の好きな兄妹達はこちらの方に関心が行くのだった。
「しかしお父様はかなりイージス男爵家に御執心のようですわね。イージス男爵家が不当に扱われると守護精霊アリエル様の不評を買うと危惧されているのかしら?」
「さぁな。だが、生きる希望を見出してくれたんだ。静かに見届けてやろうぜ」
兄妹達は再度頷き同意した。
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