行動開始！
先王カイルは急いで離宮に戻ると、すぐに準備を始めた。
コンコンッ
扉のノックの音に入れ！と声が聞こえて扉が開いた。
「失礼します！お呼びと伺いましたが？」
入ってきたのは現皇王であるルーク・アガレスであった。
「忙しい所をすまぬな」
！？
ルーク皇王は目を開いて驚いた。母の遺言に従い、ただ生きていただけの父親が生気に満ちて生き活きしていたからだ。
いや、よく見ると目がギラついている様にも見えた。
「…………何か良いことでもあったのですか？ワイズ様と辺境に視察に行かれたと伺いましたが？」
「うむ、一部話せぬ内容もあるが、現皇王である御主には伝えねばならぬと思ってのぅ」
父上の様子から重要な話のようだな。
気持ちを引き締めて話を聞いた。
「ワイズ殿が神託を受けて辺境の地の洗礼の儀式に参加したそうじゃ。すると、我が国の守護精霊アリエル様が顕現されたのじゃ」
！？
「はっ？」
余りの予想外の話につい声が出てしまった。
「驚くのは無理のない話じゃ。ワシがボケたと思っても無理ないじゃろう。しかし、多くの者が見ているのじゃ。そしてその証拠もある」
「証拠ですか？」
先王カイルは、皇王が着けている【指輪】を指さした。
「その【精霊の指輪】の由来は知っておるな？」
「はい。かつて祖先が守護精霊アリエル様と契約し、アリエル様の【加護】を受けた証だと伺っております。魔力の持つ者なら、この国宝である『精霊の指輪』の膨大な力を感じますね」
うむうむと頷きながら答えた。
「その精霊の指輪を授かった者がおるのじゃ」
「そんな！？これは２つとない品物ですよ！」
あ、だからこそアリエル様から授かった証拠になるのか！？
「しかし、どうしてアリエル様はその者に加護を授けたのですか？」
先王は少し言葉に詰まった。
正直、シオンの事は伝えたくなかったからだ。
別に意地悪とかではなく、平穏に生きたいという思いに応えたかったのだ。
まぁ、辺境でのんびりと一緒に過ごしたいという気持ちもあるのだが。
「それはアリエル様より口留めされておるので詳しくは話せぬ。ただ、アリエル様は我々の行動を見ておられて褒美を下さったのじゃ」
「褒美ですか？」
先王はシオンの事は隠して、かつての火山噴火の事について火炎龍王フレイムをアリエル様が眠らせたこと。辺境の地を援助して早く復興させたお礼に、上級薬草を平地で育てられる事を教えてくれた事など話した。
「上級薬草の栽培ですか！？」
上級ポーションの原料であり、なかなか出回る事のない品物である。
「うむ、イージス男爵家と契約を結んだ。専門家を派遣して、軌道に乗れば労働者を斡旋する。他の貴族の横槍が入らぬよう、王家が独占契約を結び、販売ルートも王家が担う。その代わりイージス男爵家を保護すると約束した」
「なぜイージス男爵家と？」
先王はひげを触りながら言った。
「うむ、精霊の指輪を授かったのがイージス男爵家の娘じゃからだ。さらに、イージス男爵家は全員、守護精霊アリエル様と会っておる。万が一、イージス男爵家に何かあればアリエル様の機嫌を損ねる可能性があるからじゃ」
なるほど。それなら理解できる。
まだ全てに納得した訳ではない皇王だったが、父親が生きる希望を見出したことに、行動を許可するのだった。
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