嘘つき缶コーヒー
「これがおいしいって思えるようになったら考えてみるよ。」
そう言って小学生だった私に無糖ブラックの缶コーヒーを差し出した貴方。
9歳年上の従兄の同級生だった貴方。
有名人のモノマネで笑わせてくれたり、お菓子を買ってくれたり、時々勉強を教えてくれたり、車の助手席に乗せてくれたり。
そんなあなたを好きになった私は無謀にも告白して、その返事がそれだった。
苦い、苦い、缶コーヒー。
以前大人ぶる私を従兄がからかって飲ませたその苦さに対して、
「こんなのおいしいなんて絶対に思わないもん!」
なんて膨れ面をした私の事をおぼえていたから出てきた断りの言葉。
あれから9年たって、あの時の貴方と同じ年齢になった私、この缶コーヒー、1缶飲みきれるようになったよ。
好きじゃないけど、この苦さがおいしさなんだな、ぐらいには思えるようになったよ。
今ならわかるよ、貴方にとって私は、私にとってのこの缶コーヒーみたいなものだったんだ。
時が経って、良い子だなって思ってはくれても、好きにはなってくれなかった。
貴方にとって私は、絶対に恋愛対象にはならない存在だったんだ。
私にとってのこの、缶コーヒーみたいに。
寒い日に温めてくれても、暑い日に喉を潤してくれても、それでも好きになれなかったこの缶コーヒーみたいに。
どれだけ一生懸命飲んでも、それでも、好きになれなかったこの缶コーヒーみたいに。
「ごめん。好きな人がいるんだ。」
貴方のその一言。
「私も、迷惑いっぱいかけてごめんなさい。」
笑って言える。
ねぇ私これからはレモンティとかオレンジジュースとか、自分の好きなドリンクを選ぶの。
9年間、頑張った私と、私があなたをあきらめられるその時まで待ってくれた優しい貴方に乾杯したくて。
だけど、やっぱり最後は缶コーヒーで。
「従兄からきいたよ。結婚する貴方に、乾杯だね。」