遠い記憶と深まる謎
「ハル、これは本当に冗談じゃ無いんだな?」
「はい! イーマブルグ様に誓って本当の本当に間違いなく夢で見たまんまのトモ ロウの姿です」
やはりどう見てもハロウィンパーティーでコスプレをしている今日子にしか見えないんだが……。犬? 狼? の耳と尻尾に獣鼻と獣髭を生やし、東南アジアの民族舞踊風の衣装に身を包んだ今日子の姿を見ていると嫌な予感がしたのでもう一の枚画用紙をめくってみる。
「もう一度聞く、本当にふざけて無いんだろうな?」
「やっぱりそう思いますよね、でもわざと二人に寄せているわけでも無いんですよ。信じられないと思いますけど、見た目だけじゃ無くて性格や関係性もそっくりなんです」
ハーキュリオスは目が三つある他はほとんど俺じゃないか……本当に偶然なのか? アイツが俺と今日子をハーリー、トモと呼ぶ理由は単に似ているからなのか? 引っかかる部分が多すぎてキリが無いのでとりあえずハルに夢の話をしてもらった
。内容を要約するとこんな感じか。
ハルが視点を共有している人物……ギャラクティカダーク号のソウルコアであるアイツは被差別階級であるインセクト族だと言う。イラストを見ると昆虫が進化したような感じだ、まんま巨大昆虫のような者から人型に近いものまでインセクト族の中にも様々な種類がいるようだ。
アイツはヒューマノイドに最も近い容姿を持つシノリ種の若者のようだ。見た感じは昔のヒーロー番組に出ていたライダーマンのような形状の種族で、支配階級からは奴隷として扱われていたらしい。
アイツが労働力として遺跡発掘の仕事をしている時に王子であるハーキュリオスが訪れ、何らかのトラブルを解決した事により奴隷から解放されて相棒として共に行動するようになったようだ。細かいところは記憶が飛んだり、曖昧だったりしてよく分からないと言う。
王子と言っても継承権は三番目なので割と自由に行動しており、王族としてよりも科学者としての名声の方が高かったようだ。自らが設計した宇宙船スペースフロンティア号で様々な星系を旅してトラブルを解決したり、人助けをしたりと映画かアニメの主人公のような大冒険をしていたという。
アイツの役割はスペースフロンティア号を始めとする乗り物全般の操縦と整備だ。その辺に関しては天才的なセンスを持っていてハーキュリオスから絶大な信頼を受けていた。
トモは圧政を行う独裁者と戦う時に共闘した、宇宙海賊ロウ一家の長の娘でその一件が落着した後スペースフロンティア号に転がり込んで一緒に旅をする事になった。抜群の身体能力と嗅覚で索敵や戦闘などをこなし明るい性格でムードメーカーになっていたようだ。
「ハーキュリオスは宇宙を旅しているうちに、かっての文明の痕跡からある法則を発見するんですよ」
「その法則とは?」
「ほとんどの文明は発展を極めるとその記憶を誰にも残さずに消滅する。かろうじて痕跡が残っている事はあるんですがそこに住んでいた、文明を築いていた知的生命体の存在が必ず跡形もなく消えてしまうことです」
俺はイーマ様に聞いたミリオネル王国の建国王の話を思い出した……全てが闇に飲み込まれ誰もいなくなった世界……老人になったハーキュリオスが生き残ったマクシマス一世とその仲間達にギャラクティカダーク号と自分達の文明を託したことを……。
「それは複数の文明とそれを築いた全ての知的生命体に当てはまる事なのか?」
「ハーキュリオスの調査、研究によると100%です。そしてハーキュリオスが発見した物がもう一つ……それは宇宙の根幹、そして生命の核たるエネルギー……」
「ソウルコアか!?」
「はい! ソウルコアとサイコウエーブはハーキュリオスが発見して生涯をかけて研究していました」
これは……似ているってもんじゃないな。まるでハーキュリオスの研究を俺が引き継いでいるような……うっ! なんだ!? 激しい頭痛と共に目眩と強い倦怠感が起こり一瞬意識が飛んだ。その直後、意識が青い光に包まれる感覚で頭が突然クリアになりアイツの声が脳にダイレクトに届いた。
「ハーリー話があるから僕のところに来てくれないか」
声を聞いた直後、俺は激しく揺さぶられていた。
「博士! 真人博士! 大丈夫ですか? 突然テーブルに突っ伏して意識が無くなったみたいだから心配しましたよ!」
「俺はどれくらいの間意識を失ってたんだ?」
「ほんの数秒でしたけど白目剥いてましたよ! そのままテーブルにバタッと突っ伏して……もしかしてそろそろ脳が限界なんじゃ」
ハルは俺たち三人の科学者、中枢神経の強化レベル4以上の人間が長時間の活動をすると脳に負担がかかる事を知っている。今回の失神は別の要因なんだがそういう事にしておいたほうが無難だろう。
「ああ、そのようだな今日はありがとう、有意義な情報を得る事ができた。先日は沙羅の事で迷惑をかけたし何か礼がしたいんだが……」
「気を使わなくてもいいですよ、じゃあビューティーサニーの強化や巨大ロボのデザインや武装は私の意見を優先して下さい」
「あいつらに任せたらとんでもない物を作りそうだしな」
ハルが帰ると俺は秘密基地の地下に保存されているギャラクティカダーク号に行く、基地内の端末でもアクセス可能だがアイツがいるのは間違い無くメインコンピュータ本体だからだ。
「来てやったぞ、お前が俺を呼び出すとは珍しいな。いつもは一方的に言いたい事を言うだけなのに…….いったいどういうつもりだ」
「ハーリーそれは僕が自分自身のことをよく分かっていなかったからだよ、そしてあの娘と意識がつながったことで少し自分が感じられるようになったんだ」
こいつは何を言っているんだ? あれだけ人の意識に介入して意味深な事を言っておいて自分が分からないだと。
「ふふ、さっきあの娘がハーリーに話した事が僕の記憶の全てだと言っても良いくらいなんだ」
「あの断片的な記憶が全てだと? と言うことはなぜお前たちの文明が滅びたのかも分からないのか?」
「うん、なんとなくそんな事があった気がするくらいなんだ。これだけハッキリと物を認識したり思考できるのも久しぶりのような気もする」
そうか! こいつ……記憶も自我も不完全なんだ。長い年月のせいで劣化している可能性もあるが、ハルのソウルコアに触れた事と、さっき俺に起きた現象で自我と記憶が蘇った事に因果関係があるならば……自らの手か何者かの手によって封印されている可能性が極めて高いな。
「ハルが名前も分からないと言ってたが、それも思い出せないのか?」
「困った事に自分自身のことが一番よく分からないんだよ。ハーリーとトモの事はよく覚えてるんだけどね、なんとなくだけど僕は君たちに会うためにこの星に来たような気がするんだ」
「やはり自我が不安定なようだな、それで俺と今日子の事をハーリーとトモと呼ぶのは単に似ているからなのか?」
「似ている? いや、ほとんど同じだから……ソウルコアの輝きが」
ソウルコアの輝きがほとんど同じだと? どういう事だ? こいつに聞いてもおそらくは分からないだろう。
「僕はソウルコアの輝きで人を判断するんだ……生き残っていたマックス達はいい色をしていたな……」
「マックス達の事は覚えているのか?」
「そこは少しだけ、よく覚えているのはハーリーとトモと楽しく旅をしていたこと。その後のことは思い出そうとすると苦しくなるんだ、辛く悲しいことだったと思うんだけど」
こいつの自我と記憶が不安定なのは心的ストレスによる精神障害の可能性も高いな。世界が闇で包まれる、知的生命体の痕跡が消滅する……自我が崩壊したり精神が病むのに十分過ぎる出来事だ。
「ハーリーごめん……もう意識が沈みそうだ……」
「もしかして、時々しか俺達とコンタクトを取らないのは自我を保つのに限界があるからなのか?」
「うん……そろそろ眠ってしまいそう……最後に一つだけ……怖くて、辛くて……悲しい事を連れてくる……アレがもうすぐ……」
アイツの意識は途絶え、それからは呼びかけても返事は返ってこなかった。分からないことだらけだが収穫も多かった、あの頭痛と目眩の後の思考がクリアになった感じ……おそらく今の俺ならギャラクティカダーク号のブラックボックスの封印をいくつか解くことが出来る。
不安要素は正体不明のアレか……。
そろそろ激動編らしくしないと……。




