ハルの夢の世界
今日子が勝手に沙羅に逢いに行ったと聞いた時はどうなる事かと思ったが無難に収束してくれて本当に良かった。秀人とハルには迷惑をかけたから今度改めて礼をしに行こうかな。結果的に丸く収まったからヒバリの処分は軽くしておいてやったんだが、めそめそ泣いてたな……一ヶ月くらい我慢しろ。
それよりも今はハルがギャラクティカダークの秘密基地で見る夢のほうが重要だ。ハーキュリオスとトモ ロウの名前を聞いて興奮してハルを怖がらせてしまったがギャラクティカダーク号とソウルコアの核心に迫る事だけに冷静ではいられなかった。
秘密基地で詳しく話を聞いたところその夢を見るようになったのは中枢神経の強化手術をうけてからだと言う、つまりソウルポゼッションを身につけてからだ。
ギャラクティカダーク号を保存している秘密基地で連続して見る夢、主観的な視点で展開して所々曖昧になったり細部が途切れていたりするので少し整理してから話したいと言われ一週間、時間を開ける事になった。その間に気になる部分のイラストもラフで描いてくれるという、ハルはウチに来る前は美術部に所属していて絵がなかなか上手いから参考資料になるだろう。
待っている間も俺は銀河バイオ関連や組織運営の合間にソウルコアの研究を続けている。詳細はハルの報告を待たなければならないが、現時点での話だけでもハッキリと分かっている事がある。
それはギャラクティカダーク号のソウルコアの出自だ、AIから発生したモノなのか人為的に合成されたモノなのか、それとも誰かのソウルコアを移植または憑依させたモノなのかは不明だったが、間違いなくハルが主観で視点を共有しているアイツのモノだろう。
そして見ている夢の性質から考えると意図的にハルに夢を見せているのでは無くソウルポゼッションの副産物だと考えるのが妥当だ。つまりハルが見ている夢はソウルポゼッションにより彼女とソウルコアの波長が同調した事により繋がったアイツの記憶だと見て間違いない。
とりあえずハルの報告があるまでは研究の進めようが無いので通常業務だけをこなしておこう。中枢神経の強化手術以前はぶっ倒れるまで研究をしていたが今は休息を取る事に慣れてきた、休日もツーリングをしたり休みが重なったメンバーと遊びに行く事が増えている。
コーヒーが飲みたくなったので食堂の横にあるリビングルームに行くとソファーに深く腰をかけたミスティの周りをメイドロボ達が輪になって囲んでいる。近づいて行くとアイが俺に気付いて振り返った。
「真人博士、お茶ですか?」
「ああ、コーヒーを頼む」
「わかりました。レーズンサンドとマドレーヌがありますがどちらにしますか? それとも両方ですか?」
「レーズンサンドを頼む、コーヒーは濃いめにしといてくれ」
「はーい。マイ、一緒に行こう」
アイとマイが仲良く手を繋いで厨房の方に行くと俺はすっかり腹が大きくなったミスティの向かいのソファーに腰をかけて話しかける。
「安定期に入ってだいぶ腹が目立ってきたな、体調はどうだ?」
「私の種族は身篭っても出産するまで普通に働くんだが……まあイーマ様と幸四郎も休めと言うし、鷹丸も心配するから産休というものをとっているんだが……こういった時間も悪くはないな」
妊娠七ヶ月になり体型もすっかり妊婦らしくなってきた。異種族間のためか妊娠初期はつわりが酷かったんだが、安定期に入るとすっかり落ち着いているし、胎児の成長も順調に進んでいる。ミスティの種族は長命種なんだが不思議な事に妊娠周期は地球人とほとんど同じだ。
「私、早く鷹丸さんとミスティさんのお子様のお世話がしたいです!」
マインが目を輝かせて言うとミーも耳と尻尾をひくひくさせて何度も頷いている。マインは生前から鷹丸の事を慕っておりミスティの懐妊を心から喜んでいる。他のメイドロボ達も自分達が子供を作る事が出来ないせいなのか新しい生命の誕生を心待ちにしている。
「真人博士お待たせしましたー」
「ミスティさんにはホットレモネードです」
「ありがとう、ちょうど喉が渇いていたんだ」
四人のメイドロボ達に再び囲まれるミスティだがその表情はとても幸福そうだ。胎動もはじまっているので「動いた」「お腹を中から蹴った」と言って楽しそうに笑っている。
「古くからの仲間の妊婦姿か……感慨深いものがあるな」
「同じ女として羨ましいわ。私にもいい相手いないかしら。ミスティこれ、ネイティブアメリカンに伝わる安産のお守りよ」
「ありがとうルーク、スカーレット」
北米での政治的交渉を進めていたルークとスカーレットが秘密基地に帰って来ていた。前に帰って来ていた時はミスティのつわりが酷すぎてろくに顔を合わせていなかったからなのか、今の妊婦姿を見て二人とも顔を綻ばしている。
「しばらくは基地にいるのか?」
「スカーレットはしばらく休暇を取るが私はすぐに中東に向かう、ヒョエが相談したい事があるらしいからな。なにか軽く食べられる物はないか?」
「サンドウィッチならすぐに、具材のメインはローストビーフと生ハム、スモークサーモンがありますニャ」
「腹が減っているから全種類もらおうかな、飲み物はパイナップルジュースを頼む」
「私はスモークサーモンのサンドウィッチとハーブティーにするわ」
しばらく談笑していると脳にメッセージが入ってきた。秘密基地にいる間はメインコンピュータと脳が直結しているので中枢神経の強化をしている人間は情報端末無しでデータ通信が出来る。
ハルからだな「話の整理とイラストの用意が出来たから明後日の土曜日の午後はどうですか?」か、こちらはいつでもいいからその時間帯で問題無いな。
「そう言えば父親の鷹丸はどうした?」
「台湾で独立運動のリーダーが暗殺対象になっているとの情報が入っていたので、阻止をする任務に就いている。小一時間程前に任務完了の連絡があったからもう帰ってくるだろう」
ミスティが言い終わると同時に扉が開き鷹丸の姿が見えたが、ハッとした表情になりすぐに扉を閉めた。そして扉の向こうから鷹丸の声が聞こえる。
「ただいま! 汗をかいてるしウイルスや有害物質が付着している可能性があるから風呂に入ってくる! マイン、悪いが扉の周辺を消毒しといてくれ!」
鷹丸が大浴場に走っていくと大爆笑が巻き起こる。思えばミスティが子供を望んでいた時、俺は人工授精や遺伝子操作を持ちかけたんだがミスティは拒絶し、鷹丸もそれに合意した。俺は手段の一つとして提案はしたが主義としては個人の意思を尊重する。
ただ異種族間での妊娠出産は危険を伴う可能性があるので妊娠が発覚した時は検査とケアをして欲しいと二人から頼まれたので、それは快く引き受けることにした。
俺も変わったな……やはりギャラクティカダークは居心地がいい。
約束の土曜日になり秘密基地にハルがやって来た、小会議室を使い夢の話を聞かせてもらう。
「とりあえずイラストを渡しておきますね」
数枚のイラストを見させてもらうとまず建造物の物が数点。なるほどな、確かにファンタジーとSFを混ぜたような感じだ。だが乗り物のデザインで俺の手は止まる。
「ハル、これは……」
「あっ、それですか? ギャラクティカダーク号にそっくりでしょ……っていうかカラーと大きさが違うだけですよね。ハーキュリオスの宇宙船でスペースフロンティア号って言うんですよ」
形状はギャラクティカダーク号とほとんど同じで違いと言えば、色がシルバーで大きさがギャラクティカダークの半分以下な事くらいだ。そしてその他の乗り物もどこと無くギャラクティカダーク号に収納されていた物に似ている。
「服装に関しては最初にイーマ様やルーク達が着ていた物とは文化形態が異なるようだな」
「ちょっとエキゾチックでしょ」
ミリオネル王国の民族衣装が西洋風なのに対しハルの夢の物は中東、インド、中国を混ぜたような感じだ。そして次のイラストをめくった時俺の目は点になった。
「あっ! やっぱり思った通りの反応!」
「これは……ふざけているんじゃないよな?」
「はい! 夢で見たまんまです!」
ハルが書いたトモ ロウのイラスト、それは狼女のコスプレをした今日子にしか見えなかった……。
ハルちゃんの夢とアイツの話は次回に続きます。




