今日子さんと阿久兄妹 その二
前回の続きですので今回もハルちゃん目線。
「じゃあ、そろそろ今日子さんと兄さんの関係を聞かせてくれない?」
紅茶を一口飲んで私に質問をする秀人さんは真人博士とはタイプが違うけどやっぱりイケメンだ。真人博士といい阿久先生といい阿久家は美男美女揃いの家系なんだろうな……うらやましい。
「私はギャラクティカダークでは新参者なんですけど真人博士と今日子さんの関係は構成員の間では共通認識ですので問題は無いと思います」
隣の部屋を写すモニターには天才ハッカーにしてスーパーシステムエンジニアの今日子さんと美貌の女教師である阿久先生が、女子中学生の喧嘩みたいに低レベルな言い争いを繰り広げている。それを見ながら静かに笑う秀人さん。
「今日子さんって不思議な人だね、兄さんといい沙羅といい人の本性を引き出す能力があるみたいだ」
「まさか今日子さんに第二のサイコウェーブが!?」
ウリアーナが思わず叫び声を上げたがサイコウェーブの線は薄いと思う。それよりも……私は秀人さんの方をチラリと見ると彼は笑いながら爽やかに言う。
「サイコウェーブが何なのかは聞かないよ、それよりも普段の兄さんと今日子さんの様子を聞きたいな」
やっぱりこの人もイケメンだわ、解散総選挙は顔と立ち振る舞いだけで十分に当選できそうな気がする。
「なんと言いますか……清い交際? お互いに大事に思っているし凄く仲が良いんですけど男女としてはちゃんと付き合っていない?」
「へえ〜免疫の無さそうな今日子さんはともかく、経験豊富な兄さんがそんな昔の中高生みたいな事をしてるんだ」
「経験豊富? 真人博士ってモテていたんですか? 確かにイケメンですけどギャラクティカダークに来るまではマッドサイエンティストとして世間から後ろ指刺されていたって聞いたんですけど」
「そうなったのは博士号を修得してからだよ。中学の時から女性には不自由しなかったんじゃないかな? もっとも一ヶ月続いた女の子は一人もいなかったけどね、女子高生に言うのはなんだけどアッチの方の経験も結構多いよ」
真人博士って昔は女の子にモテていて、しかもアレの経験も豊富なんだ……でも今はそんな風に見えないんだけどな。
「俗に言う女たらしだったんですか?」
「いや、男前だしクールだから常に女の子ほうから交際を申し込んでたよ、兄さんの方は異性と付き合う事は実験だと思っていたみたいだけどね」
「そう言えば私達や他の女性メンバーと接するときと今日子さんが相手の時とは明らかに温度が違うわね」
ウリアーナの一言に秀人さんは強く興味を引かれたようで身を乗り出して聞いてきた。
「そのへんの事を詳しく聞かせてほしいな」
「私は真人さんよりも前からギャラクティカダークにいたんだけど、真人さんって最初に会った頃と印象がだいぶ変わったと思うよ。情報収集以外は特に活動していなかったギャラクティカダークが動き出したのって真人さんが来てからなんだよね」
組織では古株のヒバリちゃんが話し出す。そう言えばウチの地球人スタッフって今日子さんがメインコンピュータを立ち上げてからその機能を使って集めたって言ってたな。そして真人博士が基本的な機能を復活させる事によって本格的に活動を開始したって。
「最初は真人博士っていかにも学者馬鹿って感じで近寄り難い雰囲気だったんだよね、感情を表に出さなくて理屈で全てを片付けるみたいな」
「えっ? 私が会った時は理論的だけど結構感情を表に出していたよ」
「昔の兄さんは風間さんの言う通りの人だったな、続きを頼むよ」
ヒバリちゃんはプチケーキを一口で食べて紅茶で流し込むと続きを話し出した。
「秘密基地を作る頃からかな? みんなで協力して色んな事をやりだして……まあ真人博士だけじゃなくて、みんながよく話すようになったなぁ。そんで中心にはいつも真人博士と今日子さんがいたよ」
「今はまさにそうですね、ギャラクティカダークは真人博士と今日子さんを中心に動いています」
ウリアーナがヒバリちゃんに紅茶のお代わりを入れながら話すとヒバリちゃんの話は結論に入る。
「真人さんは他の人と話す時は淡々としているんだけど、今日子さんといる時は喜怒哀楽や感情を凄く表に出しているんだよねぇ。最近は他のメンバーの前でも感情を出しているけど今日子さんの時はもう剥き出しって感じだよ」
私とウリアーナが大きく頷いて肯定すると秀人さんは納得した表情で何度も頷く。
「やっぱり兄さんが心を開いているのは今日子さんだけなんだな……」
モニターに目を向けると相変わらず今日子さんと阿久先生が言い合いをしているが、いつの間にか内容が変わっていた。
「真人さんは自分の信念に忠実なだけなんだよ! 倫理観が欠如してるなんて頭の固いジジイ共の偏見以外の何ものでもない!」
「そうよ、そうよ! 兄さんは常に挑戦をし続けているだけなのに前例が無いとか予算がどうとか言われて才能を発揮できなかったのよ! 」
あれ? なんだか言い争いが違うものになっている?
「真人さんは科学を冒涜する奴や理論的な考えが出来ない馬鹿には厳しいけど信念を持った人や頑張ってる人には優しいんだよ!」
「その通りよ! 全国の暴走族を壊滅させたから伝説のヤンキーって言われているけどやっつけた不良は全員更生させてるのよ!」
「組織……ゲフンッゲフン! 会社でもみんなに慕われているし、ああ見えてリーダーシップもあるんだよ!」
「えっ! 銀河バイオでは兄さんが集団に溶け込めてるんですか!?」
「ウチは少数精鋭で他の会社や団体から弾かれた天才やエリートの集まりだからね! ある意味、僕らは真人さんと同類だよ!」
「それで兄さんが一か所に三年もいる事が出来るのね……」
「うん! 休みの日はみんなでバーベキューしたり最近ではツーリングしたりもしてるよ!」
「兄さんに居場所が……」
なっ! 何だか仲良くなってるんですけど! いっしょにモニターを見ている秀人さんは二人の様子を見ながらクスクスと笑っている。
「二人とも兄さんの事が大好きだから、いつの間にか意気投合したみたいだね。あっ! 兄さんから返信が来た」
秀人さんがスマホを取り出してメッセージを確認している。
「もしかしてさっきメッセージ送ってた相手って真人博士なんですか?」
「そうだよ、もう店の前に来てるみたいだから迎えに行こうか」
レストランの前に出ると真人博士が険しい顔をして立っていた。埋立地の銀河バイオ東京本部からバイクを飛ばして来たみたいでラフなスタイルにブーツ姿だ。私達の姿を見ると早足で歩いて来る。
「秀人、ハル、迷惑をかけたな。ヒバリは一ヶ月間、本部食堂でのオカワリ及びオヤツを禁止する!」
涙を流すヒバリちゃんは置いといて今日子さんと阿久先生のいる個室に入ると、真人さんは挨拶をする間も無くダッシュで今日子さんとの距離を詰めると顔面を鷲掴みにする。えっと……あっ! アイアンクローっていうプロレス技だ!
「いひゃい! いひゃい! 真人さんゴメン! ギブ! ギブ! ギブ! ギブアァァァプ!!」
「この馬鹿! デリケートな問題だから冷静に対処しようとしていたら勝手に独断先行しやがって! 事態がややこしくなったらどうするつもりなんだ!」
「真人さんの妹さんとガチで話がしたかったんだよ! 痛い! 痛い! そろそろ手の力緩めてぇぇぇぇ!」
うん、真人博士ってば当事者の阿久先生の目の前だって事を完全に忘れてるな、本当に今日子さんが絡むといつものクールさが吹っ飛んじゃうんだ。そう思っていると阿久先生がクスクスと笑い出していた。
「分かったわ、銀河バイオがやっと見つけた兄さんの居場所なのね。そして今日子さんは兄さんが有りのままの自分をさらけ出せる人……これからも兄さんをよろしくお願いします今日子さん」
真人さんと今日子さんが固まっている中で私達はみんなでクスクスと笑っていた、涙を流しているヒバリちゃんを除いて……。
それからはみんなで談笑してそのままレストランで食事をした。隠れ家レストランだけあって食材は高級だしシェフの腕も確かだ。今日子さんと阿久先生もすっかり仲良くなっちゃたみたいでIDの交換をし合っていた。
会食を終えるとそれぞれの自宅と寮、秘密基地に帰る、真人博士のバイクを見るとサイドカー付きだったので私も一緒に乗せてもらって秘密基地に行く事にした。
「どうしたんだよハルちゃん? 急に秘密基地に行きたいって」
真人博士の怒りも治まってスッカリいつもの調子にもどった今日子さんに聞かれたけど……まあいいか、この二人ならたぶん変な顔はしないだろう。
「えっと……夢の続きが見たくて」
『夢?』
真人博士と今日子さんの声が見事にハモる。
「秘密基地で眠ると必ず夢を見るんです。連続ドラマやアニメのような夢を、SFファンタジーみたいな感じて私は誰かの目線でその世界をみているんですよ」
「なんか面白いね」
興味を持つ今日子さんと何か考えている阿久博士、私は話を続ける。
「なぜか私が入っている主人公? の名前は分からないんですけど宇宙船で広い宇宙の色々な文明圏を三人で旅をしているんです。後の二人は宇宙海賊ロウ一家の娘トモ ロウと星間国家の王子様にして天才科学者のハーリーことハーキュリオス……うえっ!?」
真人博士が突然私の両肩をかなり強い力で掴む、その顔は真剣そのものだ。今日子さんの表情にも緊張感が現れている。
「ハル! その夢の話、基地で詳しく聞かせてくれないか!」
ただならぬ雰囲気に私は何度も頷くしかなかった。
次回は真人に戻ります。




