分相応
今回も秀人のターンです。
会議室に戻ると各国の外相が一斉に僕の方を向いた。
「秘書か…….阿久外務大臣はまだか?」
こちらを睨みつけるレグイザモ国務長官の眼力はなかなか強烈なものだった。親父だったら震え上がっているところだろうけど僕には通用しないんだよな、鋭い眼光はお爺ちゃんと兄さんで慣れているからね。
「阿久は持病が悪化したために救急車にて病院に搬送されました。これからは阿久外務大臣の筆頭秘書である私、阿久 秀人が父の代理を務めさせていただきます」
「お前じゃ話にならん! どうせ阿久は逃げたんだろう! 日本の外務大臣がそういうつもりならこちらにも考えが……」
「兄である阿久 真人と直接連絡を取り合っているのは私なのですが……話にならないのならば仕方ありませんね、本日の会談これにて終了させていただきます」
僕がその場から立ち去る素振りを見せるとレグイザモ国務長官が大声で僕を呼び止める。
「待て! 今の話は本当か!?」
「嘘などつきませんよ。日本政府とギャラクティカダークの間には直接的な接点はありません、兄が私を通じて外務大臣に……日本政府に要望を伝えているだけです」
「貴様が異星人の手先と言うのか!?」
「阿久一族が地球を裏切っているという事なのか!?」
「いや! まさかお前達兄弟が異星人!?」
次々と繰り返される混乱で質問になっていない言葉と僕に向けられる疑惑と恐怖の入り混じった眼差し……いいねぇ! この場では間違いなく僕が主役だ、コツコツと親父の秘書を勤めながら実力をつけて人脈を広げ、親父が引退してから基盤を受け継いで議員に立候補するつもりだったけど……兄さんのおかげで思ったよりもずっと早く表舞台に立てそうだ。
「みなさんお静かに!」
凛とした女性の声で騒然としていた会議室は静まり返る、声を上げたのはイギリスのホリー クライトン外相だ。彼女は立ち上がると真っ直ぐに僕を睨みつけて話しかける。
「あなたが異星人の組織である秘密結社ギャラクティカダークとの仲介役だと言うのは本当ですか?」
「そんなに大した者では無いんですが、今のところは彼等とコンタクトを取れる数少ない地球人の一人だと自負しております」
「異星人の……」
「黙りなさい!」
野次を飛ばそうとする出席者を一括するとさっきよりも鋭い眼差しを僕に向ける。この人とレグイザモ国務長官は要注意だな、他の参加者とは気合いが違う。
「ミスター阿久、あなたがこの場でギャラクティカダークとの繋がりを公表したということは、この場で彼等についての情報を公開してもらえると受けっ取ってもよろしいかしら」
彼女の発言にザワつく会議室。
「話を聞かせてもらおうかヒデト アク」
レグイザモ国務長官が席に着くと他の外相達も席に着く、さてと何から伝えようかな仕込みはOKなんだけど話の順番は場の雰囲気によって変えないといけないからね。
「ミスター阿久、あなたの兄を始めとする秘密結社ギャラクティカダークのメンバーですが異星人に洗脳されている、もしくは入れ替わっていると言う可能性はないのですか?」
「そうだ、CIAの報告によると三年前に世界中を震撼させた大規模サイバーテロ事件の最重要容疑者であるキョウコ デモンがUFOに連れ去られた後に銀河バイオのプレゼン会場に現れたと言う。彼女もギャラクティカダークの一員で、あのサイバーテロ事件も彼等の仕業ではないのか?」
おっと、考える手間が省けたな。ある程度の情報はオープンにする方がこちらにとって有利に働く、今後の日本と僕自身の事を考えると今この時が勝負所だ!
「そうですね……まずは秘密結社ギャラクティカダークについて私が知りうる限りの情報を開示したいと思います。資料を作成する時間がありませんでしたので口頭での説明になる事についてはご勘弁を」
各国の外相全員が固唾を飲んで僕の次の発言を待っている。少し間をとってから伝えても支障のない情報を選択して言葉を出す。
「彼等ギャラクティカダークは地球から約2万5000光年離れたM13ヘルクレス座球状星団にかつて存在した複数の惑星と様々な知的生命体によって構成された広域文明圏から地球に逃れてきた異星人と地球でスカウトした現地スタッフによる組織です」
「かつて存在した? 地球に逃れてきた?」
「彼等の文明圏全体的を巻き込んだ星間戦争に於いて最終兵器が使用され文明そのものが滅んだそうです」
「彼等はその文明圏の生き残りなのか?」
「地球に来たのは移住? 侵略?」
よし! こちらのペースに乗せることが出来た。ここからどんどん行こう。
「彼等が居住可能な惑星、地球を発見して降り立った時この星は第二次世界大戦の真っ最中でした。ミッドウェー海戦の真っ只中に降り立った彼等は海中に身を隠し様子を見ることにしたのです。その時彼等の生き残りは僅か九名だったのです」
「70年前に異星人が地球に来ていた!?」
「彼等が日本を拠点に活動しているのはファーストコンタクトした相手が旧日本軍の戦闘機パイロットだったからです」
「だが……目立った活動を開始したのは数年前……」
「その間、綿密な準備をしていた訳か……」
ギャラクティカダークが活動を開始したのは本当につい最近なんだけど、誤解されたままの方が面白そうだ。
「その辺の詳しい話は聞いておりませんがとにかく優秀な地球人をスカウトして活動しているようです。あっ! 今日子さんが起こしたサイバーテロはギャラクティカダークとは関係ありません。テロ対象になったミストゥデイは元々今日子さんが大学時代に作った物を横島教授が度重なるセクハラ、パワハラをした上で横取りした物なんですよ」
若干事実とは異なる部分があっても大筋が伝わればそれでいい、主導権はこちらにあるからね。
「まあ自分が作ったシステムで甘い汁を吸われた事に逆上した八つ当たりがあのサイバーテロだったわけです」
「バカな!? あのシステムの制作とサイバーテロが一人の学生の手によって行われただと……」
「ギャラクティカダークの地球人スタッフはそのレベルの人間ばかりですよ。兄さんなんて普通にしてたらノーベル賞取れるよねっ、て聞いたらなんと言ったと思います? 爆弾成金の賞になんか興味は無いって鼻で笑ってたんですよ」
しばらくの間、沈黙が続いたがクライトン外相が重い口調で呟く。
「異文明のオーバーテクノロジーとそれを扱う天才集団……」
それからは僕の独演会だ。こちらの切り札になりそうなカードだけを残して多少のフェイクを交えながら情報を公開していくと、全員の目が僕に釘付けになる。もちろん誰も野次など飛ばさないし雑談や居眠りをする外相などは一人もいない。
「それでは質疑応答を受け付けますので、ご意見のある方は挙手して下さい」
様々な質問に対して無難な回答をしていく。欧州、中東の外相からは謎の交渉人についての質問が多かったが、それについては僕自身もよく知らないので答えようが無い。
「CIAの調査によるとロシア軍がほとんど死者を出さずに制圧されたとの事だが、事実であるならばどのような手段をつかったのだ?」
「特定周波数の超音波を用いた兵器です。範囲内の人間の中枢神経に作用して失神させる事が可能です」
レグイザモ国務長官は軍事力が気になるようだからあの話でもしようかな。
「ギャラクティカダークの戦力について知りたいようですね」
「もちろんだ!」
「兄から聞いたのですが世界を武力で制圧するだけなら一ヶ月で十分だそうです」
再び沈黙する一同だがクライトン外相が口を開いた。
「そもそも彼等の目的は何ですか? それだけの力を持ちながら直接介入したのは中東とロシアだけなんて……」
「中東に関しては実験の意味が強いようですね、詳しくは教えてもらえませんでしたが」
「ロシアは?」
「ロシア連邦のオムスムルグ共和国、その領内にある塩湖に400年前に地球に不時着した宇宙船が沈んでいたからです。彼等は事故でコールドスリープのまま目覚める事の出来ない同邦を救出するためにオムスムルグに向かった所、宇宙船のオーバーテクノロジーを狙うロシアと交戦、そのついでに反ロシアの共和国を独立させたようですね」
「ついで……あれだけの事がついでだと?」
「彼等の目的は正直言って私にもハッキリとは分かりませんが行動を見ると、世界を良くしようとしているみたいですね」
「我々は彼等に太刀打ち出来ない事だけは分かった」
「そうですね……直接介入するつもりも無いようですし」
その後も質疑応答を続けた後に会談が終了し、各国の外相が帰国の準備のために退室すると会議室には僕とゆかり叔母さんの二人だけが残る。
「ギャラクティカダークに関しての情報を開示する事で日本への圧力を上手くはぐらかしたわね」
「事前に兄さんと今日子さんが情報をくれたんで助かりましたよ」
「衆議院解散は時間の問題よ、解散総選挙の後でギャラクティカダークの構成員であるあなたが衆議院議員になったら日本はどうなるのかしら?」
「叔母さん、僕はギャラクティカダークとのパイプはあるけど構成員にはなりませんよ」
「えっ!?」
「正直言って僕は常識人ですからね、非常識な天才や異能者、異星人の中でやっていける力は有りません」
「さっきの外相相手のやり取りや根回しを見る限り、あなたも十分に普通じゃ無い能力の持ち主なんだけど……」
「僕はただ優秀なだけです」
「不思議ね、謙遜に聞こえるわ」
「まあ僕の器だと内閣総理大臣くらいが精一杯ですね、四十歳までになる事を目標にしておこうかな」
その辺が僕の分相応かな。会場の後片付けを始めた僕を見るゆかり叔母さんの表情は引きつっていた。
次回はメインヒロインの今日子さんです。




