彼等の掌の上
CIA長官であるノームは連日のように公開されていくロシアの機密資料を前にに頭を抱えていた。
「情報統制はもう不可能ですね……ご存知の通りペツーア大統領の失脚及び失踪以来、ロシアの機密情報がダダ漏れになっています」
エージェントポーツンコが漏洩したロシア機密情報の中から緊急性の高いものを選別して資料として手渡す。中東情勢の激変とロシア連邦の崩壊によりCIAとペンタゴンは多忙極まりない。
「この二年間の世界情勢の激変は凄まじいですね、数年前の日本で労働者の過労死が社会問題になっていましたけど我々が過労死してしまいそうです」
各国で諜報活動をしているエージェントからの報告を整理しながら愚痴を言うが、冗談では済まないレベルで忙しい。
「明日は予定通り国防省のバンメラク長官とミスカトニック大学のクランボ博士と政府高官の中で信用の出来る者で秘密裏に会議を行うからな、今日中に資料をまとめておいてくれ」
「大統領は出席されないのですか?」
「あいつはもう駄目だな……」
ノームの呟きにポーツンコとセネガータは苦笑いを浮かべる。
「大統領直属の組織の長官が唯一の上官をあいつ呼ばわりですか?」
「確かに寵免されるのは時間の問題ですよね」
漏洩したロシアの機密情報の中には現職のアメリカ合衆国大統領であるカーネル タロットに関するものが少なからず存在した。
当選当初からアメリカ大統領選挙にロシアの介入が疑われていたが決定的証拠が発見されたのだ。その他にもペツーア大統領との密約の件や中東情勢での裏取引等がインターネットを通じて全世界に発信されてしまったのだ。
先日、下院での過半数の賛成により上院での弾劾裁判の開催が決定した。大方の予想では上院でも三分の二以上の同意は間違いなく、カーネル タロット大統領はアメリカ合衆国初の弾劾裁判により寵免される大統領になるだろうと言われている。
「ノーム長官、秘密会議では彼等の事はどの程度公表するのですか? 」
「全面的にだ! この二年間の世界情勢の激変は間違いなく彼等の関与によるものだ。合衆国としては異星人の組織に対して対策を立てねばならない!」
「今のところ彼等には合衆国に対して直接的な関与をする意思は無いようですね。ホワイトハウス上空にスモークで描かれた彼等のメッセージは本心と見て間違い無いでしょう」
「我々に危害を加える意思は無いというあれか…… セネガータ君この報告書についてなんだが、確かな分析なのかね!?」
「ええ、ホワイトハウス上空にメッセージを残した機体とロシアのICBMを空中でキャッチしクレムリンに落とした機体、ソマリア沖を航行中の原子力ミサイル巡洋艦ピョートルの原子炉を停止させた未確認飛行物体は同一のものです」
「中東とロシアの件で彼等の軍事力の一端が垣間見れたわけだが……核兵器や原子炉を無力化出来る技術があるのならば我々に勝ち目は無いな……その他にも兵器等に関する情報があるならば今回の会議に使う資料にまとめておいてくれ」
ため息を吐くノームにセネガータは明るい声で話しかける。
「長官、彼等の組織は地球の文明に変革をもたらす事が目的であることは間違い無いようです。そして我々CIAは早い段階で彼等の情報を収集し対策を検討していました」
「だが各国も謎の組織の存在に気づき情報収集を開始している……ん? セネガータ君、その顔は何か有益な情報があるのかね?」
「はい、いずれ彼等が地球文明への介入を本格化した場合、彼等の存在を世界各国に知られた場合を前提としたものですが間接的に合衆国が彼等との関係に於いて他国よりも優位に立てる情報があります
「そうか! ならば会議での報告を楽しみにしておこう」
翌日、アメリカ合衆国政府高官と異星人の組織について知っている関係者だけを集めての秘密会議が行われた参加メンバーには次期大統領の有力候補も含まれている。
「まずは中東情勢の変化による各国と我が国への影響について……」
「続いて欧州の動きについて……」
「そして世界経済の動向ですが……」
「軍事バランスの崩壊どころではない……」
ペンタゴンの地下会議室では二日間昼夜を問わず世界情勢、経済、軍事等のあらゆる分野で緻密な情報分析と激しい議論が繰り広げられたがどの分野においても謎の組織の関与を外す事が出来ない。そして三日目に会議の総括と合衆国の今後の方針についての話し合いを行った。
「では現在の情勢ですがロシア連邦の崩壊により各共和国が独立、ペツーア本大統領の行方は未だに不明となっております。新政権は民主化を謳っておりアレクセイ=バラノフスキー大統領の元、周辺国との関係改善と経済の再建を行なっております」
「機密情報の漏洩はクーデターによる政権交代の混乱によって起こった事故でありバラノフスキー大統領から我が国に対して謝罪の文章が届いております。いずれ大統領に対して正式な謝罪を行いたいとの声明を出しております」
しばらくの沈黙の後、この中で一番年長者であるコネリー上院議員が口を開く。
「表向きはバラノフスキー氏によるクーデターとオムスムルグを筆頭とする反ロシアの共和国による独立戦争となっているが彼等の仕業なのだろう?」
「ええ、シリアとイラクと同様にロシアと独立した共和国も事実上、彼等の傀儡政権と見て間違い無いでしょう」
「EUの解体と核保有国の相次ぐ核放棄ですが調査の結果謎の交渉人の暗躍が発覚しております。白人の男女とアジア人男性の三人。そのうちの一人アジア人男性ですが三年前にムスリム神国に拉致され処刑された日本国籍の社会心理学者ヒョウエ シムラである可能性が極めて高い」
「キョウコ デモンの時やシンジ ホリエの件と同様に処刑寸前のところを彼等に救われスカウトされたようだな……」
「欧州と中東のほとんどの国家、旧ロシアから独立した共和国はNEUとして団結。合衆国の同盟国は経済的な関係は継続するようですが駐在米軍の縮小及び撤退を求めており安全保障における関係を見直すように要求しております」
「NEU各国は中国資本からの撤退も進めております。そして……旧ロシアの共和国、中東諸国には「ギンガバイオ」を筆頭に日本企業が進出しインフラ整備と経済活動を支援。政治的混乱がある中でも国民生活は安定しています」
「全世界における合衆国の影響力は経済、軍事に於いて著しく低下しています」
「中国の方が深刻なようですよ中東の日本企業進出によって工業製品製造のシェアが情勢が安定した中東に移動しつつあります。さらに台湾及び香港の独立運動が活性化、共産党執行部も内乱状態にあり内部分裂の可能性が高まっています」
「やはり彼等か?」
「確認出来てはいませんが可能性は極めて高いかと」
「うわ!?」
突然エージェントポーツンコが悲鳴を上げる。何事かと全員が彼の方を見ると突然全員の端末の画面が切り替わり若い東洋人女性が映し出された。
「お邪魔しまぁ〜す! 大事な会議中にごっめんねぇ〜! とりあえず面識のあるポンコツさんに軽く挨拶してから顔出したんだけどビックリしたぁ〜?」
「きっ、貴様はキョウコ デモン!」
「ハァ〜イ! CIAの親分! 今日はちょっとだけ挨拶しに来ましたぁ〜!」
全員が驚愕して反パニックの中ただ一人、エージェントセネガータは冷静だった。以前銀河バイオにビジネスマンとして接触を試みてスカーレットとテンタに警告を受けた事により少し耐性がついたようだ。
「なるほど……こちらの動きは全て筒抜けだということか」
「うん! アメリカさんには大サービスでちょっとだけ情報をあげるねぇ〜。とりあえず銀河バイオが僕達のフロントカンパニーって事は知ってるよね。中東やオムスムルグとその他に進出してるけどちゃんと日本政府を通じてやってるからねぇ〜。それと僕達の組織の名前は秘密結社ギャラクティカダークだよ、覚えておいてねえ〜」
「それ以上の情報は開示してもらえないのか?」
「おっ!? 流石はCIAの親分、たいした精神力だねぇ〜」
「じゃあ、チョットだけだよ! NEUと中東に関してはチョコチョコ政治的、経済的に動いてるけど基本的に過干渉はしないつもりだよ。旧EU先進国は僕達に敵わないと見て、敵対は避ける方針みたい。アメリカさんといっしょだね!」
「合衆国大統領のスキャンダルは……」
「その件に関してはごめんね! 無差別に機密情報ばら撒いたらそっちに迷惑かけちゃった、テヘペロ……あと中国やアジア地域に関してはウチはノータッチだから内政のゴタゴタとNEUの対外政策のとばっちりだよ」
「我が国に対しての干渉は……」
「今のところはする気無いよぉ〜。三日間の会議お疲れ様でしたぁ〜じゃあねぇ〜」
モニターから今日子の姿が消えると全員が脱力して机に突っ伏したり椅子が倒れんばかりに背もたれに体を預ける、全員が疲労困憊のなかエージェントセネガータは背筋を伸ばして立っている。
「どうやら合衆国だけではなく世界中が彼等の掌の上で転がされているようですね……」
「セネガータ君、やけに落ち着いているが……そう言えば有益な情報を持っていると言っていたね」
ノーム長官が言うと全員がセネガータに注目する。
「彼等の組織……秘密結社ギャラクティカダークの構成員のなかには数名ですが法律上も生きた人間として活動している者がいます」
「主にギンガバイオの幹部だな……それで?」
「彼等はギンガバイオの社員、経営者として日本政府を通じ、各国に進出しています」
「彼等の本拠地が日本だからではないのかね?」
「ギンガバイオ研究所長兼、筆頭研究者であるマヒト アクという人物についてです。彼はギャラクティカダーク内でも幹部クラスであると推測されます」
突然、コネリー上院議員が大きな音を立てて立ち上がる。
「マヒト アク……アクだと!? もしかして……」
「その通りです彼は日本の外務大臣であるオウマ アクの長男であり、防衛大臣ユカリ オオカワの甥でもあります。日本政府に圧力をかけることに関しては皆さんお得意ですよね」
会議は解散し、アメリカ合衆国は外交筋を通してNEUの先進国との連携を強化、近く先進国を招集し日本政府にギャラクティカダークとの関係について糾弾する方針だ。
ギャラクティカダークには手は出せないが日本政府ならどうにでもなる。アメリカと先進国は着々と準備を進めるのであった。




