伝承
秘密基地の海底入り口付近に整備したクラヴィーア人集落予定地に宇宙船を停泊させた俺達は二日間休暇を取った後、コールドスリープの解除と各種作業をするように幸四郎さんから指示を受けた。
休暇と言っても特にやる事もないので基地内で過ごしていて、今は幸四郎さんとテンタ君、チャック兄弟と共にコーヒーを飲みながら雑談をしているところだ。
「そうなんですか……惑星クラヴィーアだけでなくヘルクレス座文明圏そのものが無くなってしまったんですね……」
「僕らが逃げてから五千年以上が経つんだ、今あの星系がどうなっているかは分からない。ただ……かつての繁栄を取り戻しているという事はまず無いだろうね」
ションボリと力無く触手を垂らすチャックに対し兄のテンタ君が少し達観した様子で冷静に答えていると、空気を読む気が0の今日子が話に割って入って来た。
「ところでテンタ君は何でクラヴィーアじゃ無くてミリオネル王国で技術士官になってたの? やっぱり出稼ぎ?」
「シーロズ族は器用な触手と副脳を活かして優秀なエンジニアになれる素質があるのですが、ほとんどの文明圏ではヒューマノイドから遠い容姿になればなるほど差別対象になってしまうのです……ですから私はあらゆる差別が犯罪とされるミリオネル王国の技術士官学校に猛勉強して入学し、王国軍退役後は軍で広げた人脈と身に付けた技術を故郷のために活かそうと思っていたのですが……」
「全部無くなっちゃったね」
今日子の不謹慎極まりない言動に触手を垂らしてションボリとする兄弟。すると幸四郎さんの強烈なデコピンがいい音をたてて今日子の眉間にヒットする。
「痛ぁぁぁぁぁい!」
「不謹慎だぞ今日子!」
涙目で額を押さえているが今のは今日子が悪いな。しかし事実は事実なので彼らも受け入れてこれからの事を考えなければならない。
「確かに今日子の言動にデリカシーが無いのは事実だがヘルクレス座球状星団広域文明が無くなってしまった事も事実だ。だがここにはミリオネル王国の後継者であるイーマブルグ様とその文明を記憶したギャラクティカダーク号がある」
「それにクラヴィーアの人達だって村を作れるくらい生き残ってるじゃない、これから地球で楽しくやって行こうよ」
復活した今日子が俺の言葉に続くとテンタ君とチャックは垂らしていた触手をウネウネと動かしだした。
「そうですね! 僕達は生きているんだから前を見ないといけませんね!」
チャックが触手を三つ編みのようにして上にあげる。地球人のガッツポーズにあたる物らしい。その後も雑談を続けた後に自分の部屋に向かうとイーマ様がターチに乗り部屋の前で待っていた。
「真人、話があるから一緒にギャラクティカダーク号まで来てくれないかな」
「分かりました」
イーマ様は帝王モードでは無いが真剣な表情をしている。ギャラクティカダークの入り口まで来るとターチに指示を出してその背中から降り立った。
「ターチ、僕達が出て来るまで誰もここに入れないようにして欲しい」
「かしこまりました」
一礼をするターチに見送られギャラクティカダークの船内に入るとイーマ様はかつて御前会議と言うか決起集会を行った大会議室に真っ直ぐに向かっていく。
「ねえ真人、ロシアの作戦が終わった後、みんなのソウルコアのエネルギーが上がっているって言ってたよね」
ハルとヒバリの上がり幅が極端に大きいが中枢神経の改造手術をしている人間はほぼ全員ソウルコアから出ているエネルギー量が上がっている。
「もちろん僕のエネルギー量も上がっているはずだよね」
俺はバイオスキャナーでイーマ様のソウルコアを見てみる……ハルと同等の上昇率だ。考えてみればイーマ様もハルと同様生まれながらのサイコウエーブ持ちで改造により二個目を取得している。その辺の因果関係も今後の研究課題だな。
「かなり高い上昇率で上がっています」
「やっぱりね……実はその影響だと思うんだけど僕が着けているこのサークレットが本来の機能を取り戻したみたいなんだ」
「ただのアクセサリーでは無かったんですか?」
「作動して初めて分かったんだけど、コレにはミリオネル王国建国の歴史が記憶されていて王位継承者が即位の儀式で授かり、聖なる宝玉から放たれる知恵の光を受け取ることによって直接脳に伝承されるんだ」
知らないものからすれば単なる即位の儀式だろうだがこれは……。
「おそらくソウルコアのエネルギーとサイコウエーブの波動を使用したシステムですね。資料が少ないので確証はありませんがミリオネル王家は代々強いソウルコアとサイコウエーブを持っている家系なのだと思われます」
「家系か……じゃあ僕達ミリオネル王家の人間が遺伝子レベルで中枢神経の改造を受けているとしたら?」
なっ!? 確かに御前会議の時に発動されたミリオール37世の遺言に込められたサイコウエーブはイーマ様の超カリスマと同質のモノだった。
そしてその他の要因を合わせて考えると全ての根本はミリオネル王家とギャラクティカダーク号との関係にあると考えるのが自然だ。
「この場所で見たミリオール閣下のメッセージと圧縮加工されたサイコウエーブ……当時のミリオネル王国の技術では不可能な技術です。ならば王家はギャラクティカダーク号と共存するように作られた? 今の所の調査ではミリオネル王国を初めとする星間文明のほとんどの科学、文明はこの船から伝えられている事が分かっていますが」
「流石だね、そこまで解っているんだ。じゃあこれからサークレットに記録されていた伝承を掻い摘んで話すよ」
ミリオネル王国建国王マクシマス一世は孤児であった。当時はマックスという名前で同じような天涯孤独の子供達と共に廃墟で暮らし、倉庫と思われる建物に残された保存食を探し当て、みんなで分け合ってなんとか命を継なぐ日々を送っていた。
かつてはみんな家族の元で暮らしていたがその人達は全て居なくなってしまった。何が起きたかは分からない「黒い何か」に飲み込まれてみんな消えてしまった。誰もいない町、全てのインフラが機能を停止した世界を彷徨い歩き少しずつ生き残りを見つけては共に糧を求めて旅を続けた。
マックスはまだ子供だったが絶望しか無い廃墟で何とか生きようと踠いていた。仲間は自分よりも小さい子供ばかり、まだ歯も生えていない赤ん坊も含めて八人だ。
この街、いやこの世界から誰もいなくなってから何日が過ぎたのか分からない、もしかしたら何年も経ったかも知れない。ある日地下の備蓄倉庫から水と食糧を手に入れ地上に戻ると出入り口に一人の老人が立っていた。かなりの高齢だが眼光が鋭く背筋はキレイに伸びていて威圧感を感じる人物だ。
マックスは老人を警戒したが彼はこの世界で生き残っている人間を探して旅をしており、三十年かけてやっと見つけたのがマックス達だと言う。
なぜみんな居なくなってしまったのかとマックスが聞くと老人はただ「全てが闇に呑まれた」とだけ答えてマックス達を黒い巨大な宇宙船に連れて行った。
自分達は三十年も彷徨っていたのかと老人に尋ねると「それだとお前達は大人になっているだろう」と笑う。亜空間移動とか空間伸縮とか難しい説明をされたがマックス達には理解出来なかった。「まあ、儂が宇宙を彷徨っていた三十年はお前達の時間では約4ヶ月程だという事だ」と老人が話すがやっぱり分からなかった。
老人の名はハーキュリオス、かってはある星の王族であったが科学者となり真理を求めて宇宙の星々を旅していたという。長い旅路の果てに宇宙と全生命の危機を知り、仲間達と共にそれに立ち向かったのだが防ぐ事が出来なかったと言って涙を流していた。
唯一生き残ったマックス達を乗せてハーキュリオスの宇宙船は飛び立つ、知的生命体と居住可能な星系を探し求める当ての無い旅だ。
宇宙船には意思があり自分の事をギャラクティカダークと呼ぶように言う。ハーキュリオスとギャラクティカダークはマックス達に色々な事を教えてくれた。そしてマックス達に寿命を延ばす処置と中枢神経の改造手術を施して新たな文明の担い手として育てていったのだ。
知的生命が文明を築きつつあるヘルクレス座球状星団に辿り着いたその時にはハーキュリオスの寿命は尽き果てていた。
マックス達は高度な文明を悪用される事を警戒してギャラクティカダークを自分達が作る国の地下に封印する。
そしてマックスの直系の血筋のみにその秘密を伝える事にした。それがミリオネル王国王族に伝わる伝承である。
「ザックリと言うとこんな感じだよ。詳しく話すとスターウォーズ全シリーズを一気に見るくらいの時間がかかっちゃうからね」
「何故、俺にその話をしてくれたんですか? これは王位継承者にしか伝えてはいけない物なのでは……」
俺の質問を耳にしてイーマ様の顔つきと口調が緊張感に包まれたものに変わり、帝王モードとは違う圧が俺にかかる。
「ソウルコアとサイコウエーブ他にも色々あるでしょ?」
イーマ様が言ったキーワードで俺は全てを理解した。
「なるほどマックス……マクシマス一世達に伝えられていなかった秘密をギャラクティカダークは俺に伝えた」
「他の科学技術やギャラクティカダークのブラックボックスも今日子と真人がここに来てから封印が解かれている。だから僕は真人には伝えておきたかったんだ」
「何故この場所で?」
「ここが始まりの場所だから……少なくとも僕にとってはね」
イーマ様と分かれて自室に戻る。明後日からはクラヴィーア人を目覚めさせないといけないから休まないとな。
それにしてもハーキュリオスか……どう考えても愛称はハーリーだよな。
次回よりターニングポイントである第三部スタートです。
一応この物語は五部構成で考えていますのでちょうど真ん中にあたりになります。
いままで読んで下さった方々に感謝しながら、ノベプラ版で多かったミスや誤字を修正しつつ物語を失速させないよう頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。




