想定外だらけ
ハルとヒバリがケロメア共和国のロシア軍基地を完膚なきまでに叩き潰して基地に帰還すると、すぐにサニーをメンテナンスカプセルに入れソウルポゼッションを解除してハルの意識を本体に戻す。
幸四郎さんや政治交渉担当は作戦室で引き続きケロメア共和国の鷹丸と解放軍リーダーであるカルノフに連絡を取り会い首都奪還とロシアの軍、政府関係者の身柄を拘束する作戦に取り掛かっている。
あちらの作戦は幸四郎さん達に任せて、俺たちはビューティーサニーとバトルラークの戦闘データ解析、そしてハルとヒバリのメディカルチェックに取りかかる。
特にサニーの方はブラストバスターを撃った後に機能不全を起こしたのでオーバーホールの必要がある。
クモのような作業用ロボがサニーを解体している間、清志はバトルラークの点検、今日子は戦闘データの解析、俺はハルとヒバリのメディカルチェックを行う。バイオスキャナーで2人の生態情報を解析してみると驚いた事にソウルコアから流れるエネルギーの動きまで掌握出来るようになっていた。中東でマインやゼロにソウルコアの解析を行なって以来、俺のサイコウエーブであるバイオスキャナーの能力は飛躍的にレベルアップしている。
今日子と清志のコアも見てみるが、ハルとヒバリよりもソウルコアから発するエネルギーの量がかなり多い。やはり中枢神経の改造レベルとソウルコアの強さ、サイコウエーブの威力は比例するようだ。特にハルのエネルギー量はレベル3手術をしてから目に見えて増大している、何か要因があるはずなんだが検証は日本に帰って落ち着いてからだな。
「とりあえず2人とも心身共に異常なしだ。ソウルコアの活性化によってサイコウエーブのエネルギー量が増加している事が若干気になるが、それについては後日検証しようか」
「真人さんちょっと待って、それって結構重要な部分かも。キヨピーも資料を送るから一回手を止めて聞いてくれない?」
データ解析をしていた今日子が一旦手を止めて俺と清志の端末にビューティーサニーとバトルラークの解析資料を送る。珍しく真剣な研究者の顔をして資料を元に解説をする。
「まずはバトルラークから、ヒバリちゃんのハイスピードセンスを最大限に活かす為のバイク兼パワードスーツなんだけど駆動系統の負荷が予想数値より5.8%強くかかっているんだよね、キヨピーバトルラークの点検で何か気付いた?」
「動力系、駆動系の耐久性はかなり余裕を持たせて設計してあるから問題無いんだが消費エネルギーが想定の8%くらい多いな。真人、生態系部品はどうだ?」
「ソウルコアエネルギーを変換して動力のアシストをするアダプターが少し劣化しているな、ヒバリのソウルコアが成長している事は間違い無いだろう」
「分析の結果、総合的に見てバトルラークはスピード、パワー、機動性において想定の7%増しの性能を発揮してるんだよね」
「誤差の域を超えているな、要はヒバリのソウルコアとサイコウエーブの力がバトルラークの性能を引き上げたって事でいいのか?」
「そうとしか思えん、今さっきヒバリとハルのソウルコアを見たんだが明らかに成長している。特にハルのほうが元からサイコウエーブを持っていたせいなのか伸び率か大きい。ビューティーサニーの機能不全の原因はハルのソウルコアの強さに機体が耐え切れなかったと考えるのが自然だろう」
俺たちが意見を交わしているとファストフード店でフライドポテトが揚った時のようなメロディーが流れる。
「お! サニーの解体が終わったみたいだな」
選曲は清志か、今日子もだが変なところで凝り性だからな。さっそくビューティーサニーの状態を見てみたが……酷いもんだな。ソウルコアブロックから中枢部、動力部につながる配線やコネクターが焼き切れていて損傷の激しい所になると生体部品は炭化し、金属部品が融解している。
「駆動系にはかなりの負荷がかかっているが許容範囲内だから問題無いのだが、モーターと冷却装置が完全にダメになっている。瞬間的なエネルギーの増加に耐久力が全く追いついてないし、ブラストバスターの発射口なんか完全に融解してグニャグニャだ。残念だがこの機体はLOSTということで後の作戦は予備の機体を使おう」
清志がお手上げだっというゼスチャーで言うと中枢部からデータを吸い出していた今日子が不意に質問をする。
「真人さん、キヨピー、ちょっと聞きたいんだけど最近研究や作業がやたらと順調に進んでいたり、視界の赤色化が前よりも速くなったりしてない?」
「言われてみれば確かに……単に体調や気分の問題だと思ってたんだが」
バイオセンサーで確認したいところだがソウルコアのエネルギーを感知出来るようになったのはつい最近の事なので今現在と以前の状況を比較する事は出来ない。しかし俺に関して言えば能力の幅が広がっている事と研究の効率が上がっているのは間違いないし視界の赤色化も以前より早くなっている。
「サイコウエーブが発現している者だけではなく中枢神経の強化をしている人間は定期的にソウルコアのチェックをする必要があるな」
「僕もそう思うよ。あっ! 話を戻すけどブラストバスターの出力なんだけど想定の187%でコネクターや配線の破損が無ければ最低でも倍以上の破壊力を発揮出来たんじゃないかな」
「あれよりも破壊力を上げるのか? それよりも威力を絞って連射可能にしたほうが実用的だと思うんだが。生体部品に関しては培養液と表面素材の耐熱処理で対応可能だ」
「メカに関してはソウルコアブロックの周辺部品とブラストバスターの素材を見直した方がいいな、宇宙船の対消滅エンジンの内壁に使っている素材なら大丈夫だろう」
その辺の調査研究と対応処置は日本に帰ってからだな。俺たちの作業が一通り終了したのでケロメア共和国解放作戦の経過を見に作戦室に行くと鷹丸とミスティが帰って来ていて、ミーにコーヒーを煎れてもらっていた。
「そっちは終わったのか? ケロメア共和国の奪還も今終わったところだ。もちろん双方の犠牲者はゼロでルークとヒョエが残って交渉をしているが、もう戦闘の心配は無いようなので鷹丸とミスティーとスカーレットは引き上げさせたんだ」
幸四郎さんが肩を解しながら言っているがまだ日は高いぞ!? こっちも朝の散歩気分でロシア軍の基地を壊滅させたが半日で首都を制圧するってどうやったんだ? 俺に気付いた鷹丸がコーヒーを飲み干して近づいてくる。
「真人さん! やりましたよ! ハルとヒバリに続いて俺たちも完全不殺で任務を果たしました!」
「それは聞いたんだが、一体どうやって?」
「それは私のハルシネイションと鷹丸の認識阻害を合わせる事により広範囲で兵士、護衛に幻覚を見せその間に要人を拉致したからだ」
答えたのはミスティだが彼女のサイコウエーブ「ハルシネイション」は幻覚を見せる能力なんだが対象者は1人のはずだ。それが鷹丸の認識阻害と合わせると広範囲になるのか……。
「なぜそのような現象が起きるのか興味があるな。理屈で言えば鷹丸の認識阻害で目の前の鷹丸が認識されない部分に幻覚を埋め込んだということだとは思うが……後で詳しく状況を聞きたいな」
「真人さん、野暮なことは聞くもんじゃ無いよ。毎日のように合体しているうちに合体忍法を編み出したんじゃないか」
今日子がいやらしい顔でセクハラ発言をすると鷹丸は真っ赤になりミスティは涼しい顔であっけらかんと答える。
「だいたいそんな感じだぞ。鷹丸とまぐわっている時に不思議な感じがしてな、何というか魂が混じり合うような感覚だ。それからサイコウエーブを発動する時に意思を合わせると、広範囲の幻覚を見せたり物の認識をあやふやにする事が出来るようになったんだ」
詳しく研究したいところだがセクハラ案件になりかねんな。だがサイコウエーブ持ち同士のカップルは今のところ鷹丸とミスティだけだからまた今度、話くらいは聞いても良いだろう。
一通り現場についての報告会が落ち着くと今まで静かに話を聞いていたイーマ様が帝王モードで口を開く。
「ロシアの大統領と直接話がしたいからルーク達が戻ったら交渉ルートを探してくれないか」
イーマ様の発言は今日一番の想定外だった。
次回はロシア大統領とイーマ様の対談です。




