その名は飛龍零
今日は完成した幸四郎さん専用戦闘機のテスト飛行だ、秘密基地にいる人間は全員埋立地の空き地に集まっている。
今日は日曜日なので銀河バイオの敷地内には俺達以外は誰もいない。銀河バイオは土日祝は完全休業で埋立地に渡る橋の門も閉まっている。周囲の海域は特殊なフィールドで覆ってあり周辺からは会社が休みで人気のない埋立地にしか見えていない。
「今日は銀河建設も慰安旅行にしているから工場の増設工事もストップだ。それにしても幸四郎さん専用戦闘機のお披露目かぁ、まあお前らが作ってるんだからとんでもない性能なんだろうな」
秀樹がワンボックスカーから発泡スチロールの容器を下ろしながら言う。早朝から近くの漁港直営の生鮮市場に買い出しに行って新鮮な魚介を仕入れて来たようだ。実家が魚河岸の仲卸で小さい頃こら親父に仕込まれている秀樹の目利きは確かだ。
「ああ、モニターを五台用意してあらゆる角度から映像と情報が見れるようにしてあるぞ。予定では領空侵犯しまくって各国の空軍をおちょくってから最高速度マッハ200で月を周回するコースを考えている」
今日は中東組も呼び戻しているし東京からヒバリ、ハル、ウリアーナも連れて来ている。昨日の夕方に資源採掘から帰ってきたばかりのゴッグ船長とテンタ君も参加だ。
「マッハ200っていったい時速何kmなんだよ?」
真司がバーベキューコンロの用意をしながら聞いてくる。今日は戦闘機のお披露目兼バーベキューパーティーだ、秋晴れで外にいるのが気持ちいい。
「時速にすれば244800kmだ、月までの距離が役38万kmだから往復で約3時間半で戻って来れるはずだ、ただ大気圏内では衝撃波緩和フィールドを展開してマッハ40が限界だな」
「それでも一時間もかけずに地球を一周か、もう常識がどうとか言うレベルを遥かに超えてるな。最近はそれを楽しめるようになってきた自分が怖いよ」
最近ようやく俺達の感覚について来れるようになった浩二がテーブルセットを用意しながら言うと整備士みたいなツナギ服を着た清志が腕を組み仁王立ちで得意げに説明する。
「動力部は超小型の対消滅エンジンを使用しているからスペック的には亜光速飛行も可能なんだが操縦系統と制御系統、パイロットの感覚が追いつかない為その速度に設定してある。だがエンジンの推進力に回すエネルギーが制限される分をバリアーや慣性制御、耐衝撃、騒音軽減、高性能生命維持装置、快適な空調、ハイスペックなオーディオとエンターテイメントシステムに廻す事ができた為に戦闘機とは思えない抜群な居住性と快適性を実現出来た! さらに武装に関しても小型戦闘機でありながら単機で宇宙戦艦の艦隊を壊滅できるレベルの……」
「止まりそうに無いから飲み物の用意しようか」
「そーだねえキヨピー、スイッチ入っちゃったから気が済むまで語り尽くすと思うよ。コーちゃん、シンちゃん最後まで付き合ってあげてね」
和美と今日子がそそくさと清志の独演会から退場する、逃げ損なった秀樹と真司と浩二の三人には申し訳ないがもう逃げられん。以前メイドロボ達のデザインとメカニズムについて語り出した時は視界が赤くなったとギブアップするまで解放してもらえなかった。
「地球に帰って来たら色々と計画が進んでいてビックリしましたよ、紛争地域を事実上二週間で制圧したなんて驚きです。ゼロ君も生き延びれたしマインちゃんも仲間になっていてビックリしましたね」
「そうだな……地球の兵器、文明に比べて真人達の技術が高度過ぎる事が要因だとは思うが圧倒的だな。地球人の協力者も出来たみたいだし地球文明への介入は上々な滑り出しだと言っていいだろう」
今日は完璧に埋立地を閉鎖しているのでテンタ君とゴッグ船長は擬態せずに外に出ている。普段外出する時は細胞変換装置で地球人に擬態しているから、ありのままの姿で外に出るのは気持ち良さそうだ。他のミリオネル王国勢も角を隠したり皮膚、髪、瞳の色を変えなくていいので伸び伸びとしている。
「今日は天気も良くて気持ちいいね、幸四郎の専用機と外でのパーティーが楽しみだよ」
イーマ様は日本に帰ってから帝王モードから年相応の日常モードに切り替わっている。やる時はやる、遊ぶ時は遊ぶは俺達秘密結社ギャラクティカダークのモットーで、組織のトップであるイーマ様がそれを一番体現しているからな。
野外バーベキューパーティーのセッティングが出来た頃、幸四郎さんとゼロがやって来た。幸四郎さんは紫の厳つい意匠を加えたパイロットスーツ姿だ、間違いなく清志と今日子のデザインだろう。
「この戦闘服、軽いし丈夫で快適なんだがデザインが派手過ぎじゃないか?」
ヘルメットもドラゴンをモチーフにしているので結構厳ついデザインになっている。もちろんスーツには超薄型の生命維持装置が取り付けてあり、小型だが宇宙空間や深海でも1週間は生存可能だし当然、耐圧性、気密性、対放射線防御も完璧だ。
「いやいや戦闘機のデザインに合わしたんだよ。みんなー! 幸四郎さんに似合ってるよねー!」
今日子が振り返ってみんなに聞くと一斉に拍手と歓声が巻き起こる。
一部、場の雰囲気で清志の独演会から解放された三人からは安堵の溜息が漏れていたが。肩に乗っていたゼロも幸四郎さんの周りをパタパタと飛び回り嬉しそうにしている。
「とっても似合ってますし、私とおそろいみたいで嬉しいです」
中東から戻って来ているルークも何だか嬉しそうに幸四郎さんの両肩を叩く。
「良かったな幸四郎。今まで斥候として指揮官として頑張ってくれていたが、やはりお前にはパイロットスーツがよく似合う。本職である戦闘機パイロットの腕を見せてくれ」
「ありがとうルーク、ブランクが長いから上手く扱えるか分からんがやってみるよ」
「じゃあ、お披露目いっくよぉぉぉぉ! ポチッとな」
今日子がレトロな形のリモコンのボタンを押すと地面が開き地下から戦闘機が迫り上がってくる。以前の俺なら無駄だと思っただろうが、清志と今日子の影響なのか最近は楽しくなってきた。戦闘機は紫色で竜をモチーフにしたデザインでサイズはFー15戦闘機よりも一回り小さい。
「じゃんじゃじゃ〜ん! これが幸四郎さん専用の戦闘機だよ、機体制御及びサポート役としてゼロが融合しまーす」
「ドラゴンフュージョン!」
ゼロが叫ぶと戦闘機の機首にある口のような部分が開きゼロが回転しながら吸い込まれていく。口が閉じると目のような部分が光を放ち、ゼロの声で話す。
「融合完了です。では幸四郎さん搭乗光線を出しますよ」
機首の口が開くとピンク色の光線が放たれて幸四郎さんが吸い込まれて行く。コクピットに設置してあるカメラの映像を見るとピンク色の光に包まれて幸四郎さんがシートに収まった姿勢で現れた。
「やった! 成功だ!」
「やっぱり、秘密兵器の搭乗はこうじゃないとね!」
清志と今日子がガッツポーズで喜んでいる。俺も思わず拳を握りしめて笑っているから段々とこいつらに染まってきているな。
「ところでこの機体の名前は何ですか?」
テンタ君の何気ない質問に俺達三人は固まってしまった。そう言えば性能や機能、細かい演出にこだわり過ぎて名前とか考えていなかった。開発中は幸四郎さんの戦闘機で通ってたからなぁ……」
「飛龍零だ」
俺達三人が固まっていると幸四郎さんがそう言った。
「名前が決まっていないなら飛龍零でいいか? 俺が所属していた航空母艦飛龍と慣れ親しんだ零戦から取った名前だがこの形状とゼロが融合している事を考えるとピッタリだろう?」
誰も反対するはずが無く、戦闘機の名前は「飛龍零」に決定した。




