化け物
今回は真人の弟である秀人目線です
兄さんから連絡を受けた時は正直言って驚いた、向こう側から連絡が来ることはまず無いだろうと思っていたからだ。用件は兄から弟としてでは無く「銀河バイオ株式会社」を表の顔とする秘密結社の幹部として外務大臣の秘書である僕に大臣と面会する為のアポイントメントを取りたいという要請だ。
真人兄さんが表向きはベンチャー企業の研究員として、裏では得体の知れない秘密結社の幹部として活動していることは分かっている。そして用件は普通ならば一蹴されてもおかしくない……いや、まともに相手にされない内容だ。
中東地域における外交、軍事、支援についての話をしたい。尚「銀河バイオ」は中東にて環境改善の事業を展開する用意がありシリア暫定政権のロトゥフ代表とイランの新政府との太いパイプがあるので中東地域と日本政府との外交の橋渡しをしても良い。そして今回の中東情勢の激変は分かっているとは思うが俺が所属する秘密結社が絡んでいる。
普通に考えれば悪戯か狂人の戯言だが真人兄さんの言うことはどちらでも無く真実だと断言出来る。数ヶ月前、仙台の実家で出会った真人兄さんは以前と全く変わっていなかったからだ。
僕はすぐに父である阿久 桜馬外務大臣のスケジュールを確認し、叔母である大川 ゆかり防衛大臣にも連絡を取ると、すぐにでも真人さんに会いたいからスケジュールはどうにかすると即答で返事が来た。
まあ、親父は完全に俺任せだからどうにでもなるけど防衛大臣である、ゆかり叔母さんの反応の速さは少し気になる。おそらく中東情勢に兄さんの組織が絡んでいる情報をアメリカ政府か米軍から提供されているんだろう。
政治家の密会と言えば高級料亭だ、あちら側からも兄さんを含めて三人出席するから六人予約を取らないとな。従業員の口が硬くマスコミやスパイに対するセキュリティーもしっかりしている日本政府高官御用達の料亭だけど、その辺の対策は兄さんのところの足元にも及ばないだろうな。
密会の当日、兄さんと共に現れた二人は思いのほか若かくて僕とそんなに年の変わらない男女だった。男はスーツに身を包み髪型と身なり共に模範的だ、なんとなく官僚の臭いがするな。女の方は童顔で化粧っ気が無く眼鏡をかけている服装もTシャツに七分丈のデニムにスニーカーのラフなものだ。
「木下君!?」
ゆかり叔母さんがスーツの男を見て驚きの声を上げる。
「大川大臣、私の事を覚えていてくれたんですね」
「北梨前外務大臣の不正と犯罪の証拠を手にした事で反社会勢力に処分された筈だけど生きていたなんて……でも遺体も見つかって葬儀も行われたのにどうして?」
「コーちゃん知り合いなの?」
「ああ、自己紹介を兼ねて説明するよ。私は元外務省職員の木下 浩二と申します。北梨全大臣の反社会勢力との癒着、闇ビジネスや不正行為の証拠を掴んだところ関係者に狙われましてね。消されてかけたところを組織に拾われたんですよ」
「彼は北梨前大臣を含む外務省の腐敗をなんとかしようとしていたの。
当時私は大臣襲名前だったけど政治腐敗を正す活動をしていたから木下君の相談に乗って……ごめんなさい私の力が及ばないばかりに」
「結果的には官僚でいるよりも、こっちに拾われたほうが良かったんで気にしないでください」
ゆかり叔母さんと木下君が話を終えると真人兄さんが口を開いた。
「俺たちの組織の構成員は数名を除いて死んだ事になっている、クローンで死体を作っているから偽装も完璧にしてあるしな。因みにこの三人の中で真っ当な戸籍、国籍を持っているのは俺だけだ」
「法律上生きているのが兄さんだけなら、そちらの彼女も死んだ事になってるのかい?」
俺の質問に彼女はあっけらかんと答える。
「そだよー、そう言えば真人さんのパパと叔母さんって外務大臣と防衛大臣なんだよね? アメリカ国防総省かCIAから出門 今日子って名前、聞いたこと無い?」
彼女の答えに僕とゆかり叔母さんの表情が凍りつく。親父にも話はしてあるし書類にも目を通している筈だが、全く覚えていないようだ。
「世界を揺るがした大規模サイバーテロ事件の最重要容疑者……」
「CIAの情報だと死亡が確認されたはず……まさか! あのサイバーテロもあなた達の仕業なの?」
叔母さんの質問に出門 今日子は手をパタパタ振りながら世間話のように話す。
「いやいや、アレは確かに僕がやったんだけど、この組織に入る前の話だよ。ぶっちゃけて言うと情報処理システム「ミス・トゥデイ」は僕が大学二回生の時に作ったヤツなんだけどね、それを含めて横島教授が僕の作品を横取りして儲けたあげくにセクハラ、パワハラのオンパレードでさあ。仕返しにウイルスばら撒いてやったら世界的にどエライ事になっちゃったんだ」
テヘッと笑い舌を出す彼女に強烈なデコピンでツッコミを入れながら真人兄さんが捕捉の説明をする。
「テヘペロで片付けるな! そんでCIAに捕まりそうになったところをウチの幹部に保護されてそのままスカウトされたわけだ」
「戸籍が残ってるのもだけど、危ない目に遭って助けてもらった縁以外の理由でウチに入ったのもこの中じゃ真人だけだな」
「俺は学会を追放された直後に普通にスカウトされたな。まあ試験みたいなモノはあったが」
ちょっと待て! 三人共普通に日常会話みたいに話しているけれどあのサイバーテロを一人でやっただと!? 大規模なテロ組織や国家規模の団体が絡んでいると思われていた、世界中の情報管理システムが麻痺したあの大事件がハラスメントの腹いせ!?
親父も叔母さんも驚愕の表情を浮かべて硬直しているけど無理もないな、今世紀最大のサイバーテロの真相が常識の斜め上過ぎる。僕は反対に可笑しくなってきて気が付いたら声を出して笑っていた。
「そっかー、兄さんが前に話していた信頼できる研究パートナーって今日子さんの事なんだね。なるほどなー、兄さんが気楽に素を出して話せるわけだ」
笑いながら話す僕をみんながそれぞれの表情で見ている。でも笑っちゃうよ、組織の全容は見えてないし目的も不明だけど一つだけハッキリと分かった事がある。それは絶対に敵に回してはいけないということだ。
そして、出門 今日子。彼女は兄さんと同じ化け物だ。
次回も秀人目線です。長くなってしまった。




