ことしのなつやすみ
夏休みもあと一週間で終わりだなあと寮の部屋に戻って来てしみじみと思う。今年の夏休みは……何て言ったら良いのか全く分からない。
成り行きで秘密結社ギャラクティカダークの中東遠征を見学に行くという普通の人間じゃまず体験出来ないイベントに参加したんだ。この体験は私の人生観を根本から覆すことになった。
何というかハリウッド映画真っ青の大スペクタクルだったよ。忍者やハイテクマシンでテロリストや軍隊を制圧するわ、ドラゴンが暴れまわってテロ組織の根城や軍事基地を破壊するわ、戦闘機や核ミサイルを蹴散らすわで、もう頭の痛い中二病がネットに上げる「僕の考えた最強のお話し」レベルの無茶苦茶な事が現実に繰り広げられたのだ。
でもやり方は無茶苦茶だったけど、正直に言ってあの人達やうと思えばいつでも地球滅ぼせるんだよね、それなのに……えっとよく分かんないや。
寮の自室のベッドに寝っ転がると同室のヒバリちゃんが私の顔を覗き込む。明るくて素直で可愛い女の子なんだけどギャラクティカダークの構成員というか戦闘員でステゴロで完全武装のテロリストや軍隊を殴り倒せる人間兵器だ。
彼女は風牙一族という忍者の末裔で、漫画や映画のような忍術を使って第二次世界大戦までは時の政権の隠密や暗殺者として活躍していたそうだ。戦後はGHQにより闇に葬られ隠れ里で細々と技と血統を絶やさないようにしていたらしい。
二年ほど前にギャラクティカダークのダンディーなオジ様である田島 幸四郎さんが一族の長老を訪ねた事をキッカケに里の若者である四人がギャラクティカダークにレンタル移籍し、そのまま正式に所属することになったという事らしい。
「ハルちゃんどうしたの? 寮に戻ってから元気無いね」
ヒバリちゃんは本当に心配そうな顔をしている。物心つく前から忍者としての訓練を受けているので戦闘能力は高いのだがそれ以外は普通の女の子……ごめん、やっぱり普通じゃないや。高校に入学するまでは隠れ里と地球人の常識からは程遠い思想のギャラクティカダークしか知らないんだった。
「寮に帰って現実に戻ったらなんだか頭の中がクシャクシャしちゃって色々な事が分かんなくなっちゃったんだ。しばらく静かにして頭の中を整理しないと……」
「うん、分かった。幸四郎さんがいっぱいお小遣いくれたしウリアーナと一緒に話題のパフェでも食べに行くね!」
ベッドから机に移動してスマホを見ると中東で撮影した画像が結構入っていた。みんなで楽しく記念撮影してるけど結構エグい体験だったんですけど。
元シリアの外交官のロトゥフさんは終始青い顔をしていたけど、それが普通の地球人の感覚なんだろう。私もかなりのショックを受けたけど
ヒバリちゃんやウリアーナと出会って、ギャラクティカダークの人達と知り合ってから少し耐性がついたようだ。
ウリアーナは物心ついた時から暗殺者に狙われたり謀略に巻き込まれるのが日常茶飯事だったので、元から感覚がぶっ壊れているから参考にならない。
一人になってゆっくりと考えていたら自分が何にショックを受けているのかが少し分かってきた。
私が見て生きてる世界ってこの宇宙、いや地球から見てもごく一部どころか小さな一点なんだ……そして広い広い世界のその、ほんの一部が私の許容範囲を超えまくっているんだ。
深いため息を一つ吐くと中東での出来事を頭の中で整理する。ゼロとターチがシリア軍を蹴散らしてイランの核施設をぶっ潰してからもギャラクティカダークは中東で大暴れしていた。化学兵器や核などの大量破壊兵器を無力化したり、難民に村をつくってあげたり、テロリストや武装集団を蹴散らしたり、国家や軍にちょっかいを出したりと中東を引っ掻き回して弱き人々を助けていた。
何故か不思議な事に「サイコウエーブ」だっけ? 私の能力もここぞという時に発動して彼らの活動の大きな戦力になっていたらしい、あんまり自覚は無いんだけどね。
ギャラクティカダークの作戦はゼロの肉体の崩壊と共に終了した。ゼロとは涙のお別れかと思ったらイケメン科学者がカプセルみたいな物を取り出してゼロから出た青い光を収納した。
青い光はゼロの魂らしい。不幸な身の上で幼い命を落としたマインちゃんも同じくその装置に魂を収納されていて、日本に帰ったらギャラクティカダークの本拠地で機械の身体を造るそうだ。
ちなみに猫耳メイドも同じような境遇らしいが、魂を装置に入れて復活するのは色々と条件が厳しいらしく適合者は滅多に現れないらしい。
中東を後にしたギャラクティカダークは輸送機に乗って日本に帰ったが忍者四人と私とウリアーナは慰安旅行だと言われ、マレーシアで降ろされて五日間も高級リゾートホテルで豪遊させてくれた。帰りの飛行機もファーストクラスだ、ギャラクティカダークどんだけ金持ちなんだよ。
そして日本に帰って来た私はこうして脳味噌をオーバーヒートさせているわけだ。だけど何だか落ち着いて来ると常識や今までの価値観がぶっ壊れたことが楽しいような気がしてくる。
「ハルちゃん、だだいま! 頭の中は落ち着いた? お土産にフルーツタルト買って来たから一緒に食べよ」
ヒバリちゃんは帰って来るなり明るい声で私に話かけてくる。普通じゃなくても明るく元気な私の親友、それでいいや。
「ミックスベリーとシトラススペシャルどっちがいい?」
一人、1ホールずつなんだ……普通の人がヒバリちゃんの基準で食べると体型と健康診断の結果がえらいことになるよね。
「えっと、八分の一に切り分けて一切れずつもらおうかな」
「そんだけでいいの!? じゃあ残り全部食べるね」
フルーツタルトを両手で掴んでワシワシと食べるヒバリちゃんを見ていると何だか小さな事に捉われることが馬鹿馬鹿しくなってきた。
そうだ! ギャラクティカダークのメンバーみんなはあんなに凄い事をしながら、世界の暗部を見ながらも人生を楽しんで生きている。私もあんな風に生きられないだろうか。
「ねえヒバリちゃん」
「なーに?」
「私、ギャラクティカダークに入ってもやって行けるかな?」
「何いってんの! 大活躍だったじゃない! 即戦力だよ! ん? ハルちゃんうちに来る決心ついたの!? 大歓迎だよ!」
「え!? まだ私、学生だしすぐって訳には……」
「あっ! その辺はちゃんと配慮してくれるから大丈夫、幸四郎さんに連絡しとくね」
何だかスッキリしたな……今年の夏休みは私の人生のターニングポイントになった。これからは普通じゃない、そして誰にも体験できない人生を送る事になるだろう。
そういえばルークさんが「ウチは成果主義でな、ハルは良く働いてくれたから正式な構成員では無いが報酬を支払おう。帰国に間に合うように振り込んでおく」って言ってたな。
スマホを開いてオンライン口座を見てみる。両親が生活費やお小遣いを振り込んでくれるので銀行口座は持ってるんだ。
マレーシアでの豪遊だけで十分ご褒美なんだけど、もらえる物はもらっておこう。りんごマークのスマホの最新版くらい買えたらいいな。
口座を見て目が飛び出しそうになったよ……中型二輪免許取って新車のバイクが買えちゃう。
りんごマークのノートPCと最新スマホ、お洋服を買って後は残しておこうかな。
次回は第三者視点で中東編の顛末を書きたいと思います。




