ギャラクティカダーク 中東に爪跡を残す
ゼロが口を大きく開けて咆哮する。その声はみるみる高く大きくなり耳で捉えられる周波数を超えて、物理的な破壊力となる。
ゼロの必殺技「バスターボイス」広範囲に響く高周波で周囲の生物は失神し、口から発する超音波は物理的な破壊力を持って範囲内の物質を粉砕する。
あちこちで破壊活動や略奪をしている武装組織の本拠地だから遠慮なくぶっ放してもらったが……あきらかにオーバーキルだな。建造物は塵と化し倉庫に貯蔵していたと見られる爆発物や燃料が盛大に爆発発火して轟々と燃えている。消火活動や逃げ惑う人間もいないから高周波で脳がやられて絶命したんだろう。
「音波兵器は指向性が無くて戦略的に扱い難いな」
俺が呟くと幸四郎さんが頷く。
「大量破壊兵器としては良いだろうが俺たちの理想、戦略には合わないな。封印した方が良いだろう」
「音量と周波数を調整すれば敵を失神させて殺さずに制圧するのに使えそうだよ」
今日子の提案に俺と幸四郎さんは振り向く。確かにそれが出来るならば戦略的に利用価値は高いな。幸四郎さんは今日子に最適な周波数を計算するように指示を出している。ゼロがいなくてもその周波数を出す装置を作ればよいからだ。
計算が終わると今日子はゼロに発声練習のようなやり方で咆哮の周波数の調整をさせている。まるでボイストレーニングをしているみたいだ。
「あっ! ちょうど良いのが来たな」
シリアの軍用ヘリコプターが3機飛んで来る、ここは国境近くだし武装集団の活動が活発な地域だ。あれだけの大音量の方向と破壊力だったから、その後の爆発と広範囲の火災を含め調査に来るのは当然だな。
「じゃあゼロ、さっき練習した周波数の一番低いところから少しずつ高くしていって」
「はい、今日子さん」
「そんでキヨピーはセンサーで、真人さんはバイオスキャナーでヘリのパイロットの様子を観察しといて」
「「了解だ」」
俺も清志も結構乗り気だ、実践的な実験は楽しいしバイオスキャナーがあるので超音波が人体、脳に与える影響をリアルタイムで見ることが出来る。清志も超音波発生装置の開発には前向きだ。
「前々から害虫、害獣の駆除などには利用されているが殺傷能力や気絶による敵の無力化、物理的破壊力のある音波発生装置は調整が難しいからな。今日子、こっちにもリアルタイムで周波数のデータ送っといてくれ」
「OKキヨピー、真人さんも何か要望ある?」
「いや、特に無いな。ゼロ、じゃあ頼んだぞ」
「お任せください! ではいきます!」
俺はヘリのパイロットと他の乗組員の状態をバイオスキャナーで遠隔から観察すると自分自身の異変に気付いた。
あれっ? ヘリの乗員の生態情報や脳波だけじゃなくソウルコアの状態までもが見える。レベルアップ的なやつか? それともマインのソウルコアを診断したことによって無意識にコツを掴んだのかもしれない。どちらにせよ得られる情報が多いのは研究者としては好ましい事だ。
「この波長は……全員酷く動揺しているな。半数は強い恐怖を感じている、まだ咆哮を上げていないというのに何があった?」
俺の疑問に対してみんなは呆れたような、信じられないといったような顔をして俺を見ている。
「なあ真人、俺たちは見慣れてるけど知らない奴から見たらゼロって空飛ぶ大怪獣だぞ。現実にあんなのみたら普通の人間は悪夢だと思うぞ」
「キヨピー、僕らも全然人のこと言えないよ。でも真人さんって完全に一般人の感覚無くしてるよね、今の状態って完全に「ワンダバダバダバ」のBGM鳴っている場面だよ」
確かにもともと世間との関係性は稀薄だったが、今の俺の感覚は一般レベルからは完全に逸脱しているな、だが……。
「軍人ともあろう者が情けないな、怪獣や宇宙人と戦わなくてはいけない時だってあるだろう。これからは俺たちが本格的に動くんだ、常識なんかぶっ壊さなくてどうする」
みんなしばらく黙っていたが俺の意見に納得したようだ。
「まさに今その状況だな」
「そうだよねえ、言われてみれば非常識側の僕らが一般の感覚で物を考えるなんておかしいよね」
「確かに世界に変革を起こすことが俺たちの当面の目的だったな」
そう、これからの地球は俺たちが超科学で起こす事象や異星人との付き合いで大きく変わるんだ、怪獣くらいで腰を抜かすようではついて来れない。
「よし! それじゃいってみよ……」
「ちょっと待ってぇぇぇぇぇ!!」
今日子がゼロに作戦開始の号令をかけようとしたその時、ハルが慌てて制止の声をあげる。
「あのヘリコプター3機とも毒ガス積んでるよ! たぶん細菌兵器も混ざってる!」
ただの偵察じゃないな、ゼロが暴れた混乱に乗じて何か良からぬ事をする気なんだろう、シリアの外務官僚だったロトゥフ氏が自らの見解を話す。
「アシュラフ大統領の事だからテロ組織や武装集団の壊滅に便乗して反対勢力を一掃する気なんだろう、イランに対する牽制もあるかもしれないな」
「そのイランなんだけどミサイルの発射準備してるみたい、あと戦闘機もこっちに向かっているよ、まさしくワンダバだね」
今日子がイランの軍事情報をハッキングして報告すると幸四郎さんが肩をすくめた。
「まあ、国境付近とはいえ自国内で大怪獣が暴れてたらそのくらいはして当然だな」
イーマ様が席から立ち上がり全員に指示を出す、もちろん帝王モードだ。
「とりあえずヘリを安全に拘束しよう。ゼロ、ターチ、コントロールを失ったヘリを安全に下ろすことは出来る?」
「「出来ます!」」
「ならば取りあえずゼロの咆哮でヘリの乗員を気絶させてから安全に着陸させて、速やかに戦闘機とミサイルの迎撃態勢を取る。真人、化学兵器と細菌兵器の処理は任せた」
幸四郎さんが指揮をとり出すとイーマ様はターチの背中に乗った。
「幸四郎とルークに指揮は任せる、僕はターチと前線に出るよ」
みんなが何か言おうとしたその時ハルが口を開く。
「あの……私が状況をベストな状態で打開するならイーマ様とターチさんが出るのが一番だって言ったんです……ごめんなさい」
ハルの目は瞳孔が開き淡く光っている、サイコウエーブ発動時に見られる現象だ。ハルのサイコウエーブに関しては全員に周知されているので誰にも依存は無い。
ヘリの制圧はゼロが超音波で乗員を気絶させたところを速やかに二匹の龍で確保して安全な所に移した。化学兵器と細菌兵器の無毒化は手持ちの薬品で簡単に出来たので問題無い。
捕虜の尋問はルークに頼んで、あとは戦闘機とミサイルの対処だ。戦闘機はゼロの羽ばたきと超音波の咆哮でどうにかなるだろう。あとはミサイルか……と思っていたらサイコウエーブを発動させたハルが叫び声を上げた。
「うそ!? 今、発射台に乗せられてるミサイル……核弾頭だ!」
おいおい、砂漠とはいえ自国に核兵器使うなんて大丈夫か? イラン政府。ついでにテロ組織や反対勢力、国境侵犯しているシリア軍も片付けたいんだろうけど無茶苦茶だな。
「幸四郎、真人、ミサイル発射基地の場所と、ここからの所要時間は分かる?あと発射までに間に合うかな?」
イーマ様からの通信が入る、ターチの速度だと20分くらいか。ミサイルの発射準備が整うまでに十分間に合うな。
「大丈夫ですね。それにフォトンブレスなら核弾頭を無力化出来ます、発射基地の位置はターチの脳に送っておきますね」
「ありがとう、 核兵器ってよく分からないけど危ない物なんだよね。無力化出来るなら行ってくる」
「目標を捕捉しました。全速力で目的地に向かいます」
ターチがミサイル発射基地に向かって飛び立つのとほぼ同時にイラク軍の戦闘機が三機飛んで来た。怪獣相手だからか問答無用だな、ゼロはすでにロックオンされている。
羽ばたきの風圧で戦闘機から発射されたミサイルを叩き落とすと、今度は計器類を狂わせる超音波を浴びせる。3機共コントロールを失い墜落したがパラシュートが出ているのでパイロットは無事に脱出することが出来たようだ。
「真人さん、基地上空に到達しました。核ミサイルも目視しています、対空戦力は先に無力化しました」
「よし、フォトンブレスで核ミサイルを消滅させろターチ!」
「はい!」
イーマ様がターチの角を握りサイコウエーブを流す事によりセーフティーが解除される。4枚の翼を大きく開きエネルギーをチャージ、照準をイーマ様が合わせると翼に溜めたエネルギーがターチの口に集約し一気に放出されると核弾頭は消滅! 基地に貯蔵されていた燃料や科学物質が引火し基地は大爆発を起こした。
「たっまや〜♪」
今日子は楽しそうだな、花火にしては物騒だが景気良く爆発する様はやっぱり見ていて気持ちいいな。次々に引火して火の海に飲まれていく基地を遠目に見ていると、ロトゥフ氏が怯えた様子で質問してきた。
「あんたら……やろうと思えば世界を征服出来るんじゃ……」
「良い状態でやろうと思ったら難しいもんだよ、今はその方法を探しているところなんだ、武力や恐怖による支配を我々は望まない!」
ビシッと決める幸四郎さんにロトゥフ氏は恐る恐る、燃えさかる基地を指差してツッコミを入れる。
「あれで!? 軍隊やテロ組織をアッサリと蹴散らして一日でこの戦果で!?」
真っ青な顔で狼狽るロトゥフ氏とは対照的にウリアーナが落ち着いた様子で質問する。
「軽くやってあの戦果なら本気で武力や超科学を使えば、どれくらいで地球を征服出来るのかしら?」
「各国を屈服させるなら一カ月かな?」
「生物を死滅させるか文明を崩壊させるならニ週間?」
「地球そのものを破壊するなら一瞬だな」
俺達三人の言葉にギャラクティカダークの面々は大爆笑だったがゲスト達はドン引きだった。
次回はハルちゃん目線で中東編エピローグです。




