ギャラクティカダーク号
やっぱり秘密基地は落ち着くなぁ、東京から帰って来て今日からは平常運転だ。午前中には月と小惑星に資源採掘に出かけているゴッグ船長とテンタ君が帰ってくるはずだ。
朝食を済ませた後、共同研究室内の会議室に清志と今日子を呼びたす。ここを使うときは大抵他の人間にあまり聞かれたくない話をする時だ。
「今日子、清志、お前達なら薄々勘付いているとは思うがギャラクティカダークのメインコンピューターと各プラント、蓄積されたデータに関して違和感がないか?」
「あ、やっぱり真人さんも思ってる? 最初はイーマ様やルーク達が情報技術に疎いだけだと思ってたんだけど、空間跳躍とかネットワークの掌握技術の存在とか知らなかったんだよね」
「俺も船長やテンタとギャラクティカダーク号と新しく作った宇宙船の機能や整備について話をしていると話が噛み合わない事が度々あったな。宇宙船のスペシャリストの彼らでも分からない部分が多い、さらに脳の端末化処理も単に命令で受けただけで理解していなかった」
やっぱりな、脳の端末化はミリオネル王国の為政者や軍関係者が普通にやっているものだと思っていたが、その存在をイーマ様やルーク、軍人であるゴッグ船長やテンタ君も知らない。二人に至ってはメディカルチェックとギャラクティカダーク操縦用の処置の名目で手術された可能性が高い。
ソウルコアやサイコウエーブにしてもそうだ、専門的な事とはいえ為政者や軍人が知らないとなると答えは一つ。
「ギャラクティカダーク号に収められた科学技術はミリオネル王国を始めとするヘルクレス座広域文明にとってもオーバーテクノロジーである可能性が極めて高い」
俺の見解に2人は頷く。
「確信を持ったのはクラーヴィアの宇宙船をハッキングした時だよ、ギャラクティカダークのプログラムや情報機器と比べると数世代遅れているし、地球の技術でも何割かは解析可能だったからね。それとイーマ様やルーク達の私物の電子機器と比べてもこの船の物は高度すぎるんだよ」
「同じくだ、クラーヴィアの船は地球の技術ではとても作れないが俺たちの基準だとかなりのローテクだ。5000年の差があるとはいえ彼らの基準だと大した年月ではない。そもそも技術士官ではエリートのテンタにも理解出来ない技術が多過ぎる」
もうすぐ船長とテンタ君が帰って来る、二人を出迎え採掘した資源の回収と宇宙船のメンテナンスプログラムを起動させてから三人でギャラクティカダーク及びメインコンピュータの再調査を行うことにした。
「ただ今戻りました」
「久しぶりの宇宙はヤッパリいいなぁ。船乗りの居場所はやっぱり星の海だ」
テンタ君に続いてゴッグ船長が降りて来る、まずは採掘した資源を保管庫に収納してから宇宙船をドックに上げてメンテナンスプログラムを走らせる。
報告が終わると幸四郎さんが二人に今後の予定を告げる。
「ゴッグ船長とテンタには二週間の休暇を与える。細胞変換装置の使用許可と日本国内で滞在可能な書類許可証関係、現金とクレジットカードを用意してあるので休暇を楽しんでくれ。カードは限度額まで使っても構わん」
そう言って二人に身分証関係とクレジットカード、紙で束ねた一万円札の束を渡して話しを続ける。
「休暇が終わった後は申し訳ないが木星に飛んでもらう。木星の大気に含まれている物資が必要なんだ。物資のリストは用意しておく、大量にいるから二往復してもらわねばならないな」
「構わんよ、狭い秘密基地にいるよりもずっといい」
「そんなに大量の物資を何に使うんですか?」
その件に関しては俺と清志の口から説明した方が良いだろう。
俺達はゴッグ船長とテンタ君に、ロシア連邦のオムスムルグ共和国の塩湖にクラーヴィアの宇宙船が沈んでいること、その宇宙船の中では惑星クラヴィーアから逃げ延びたクラヴィーア人三種族がコールドスリープで眠っていること、空間跳躍で救出するために木星の大気に含まれる物質が必要な事を掻い摘んで話した。
「なんということだ! 同邦の生き残りがいたなんて! 幸四郎さん、休暇などいりません! 宇宙船のメンテナンスと補給を済ませたらすぐにでも木星に飛びます!」
珍しく興奮しているテンタ君を幸四郎さんが宥める。もう会えないと思っていた同邦、同族が生き残っているとなれば普段温厚で思慮深いテンタ君も取り乱すんだな。
「まあ待てテンタ、物資の確保だけでなく色々問題があってな、クラーヴィアの宇宙船はロシアに目を付けられていて作戦決行までに準備が必要だ。かっての力は無いとはいえ軍事力と他国への影響力に関してはまだまだ侮れないからな」
テンタ君は暫く触手を絡ませて考えていたが納得したようだ。
「分かりました、慌てて事を起こして同邦に危険があってはいけませんからね。休暇を取って英気を養い必要物資を確保する任務に就きます。救出作戦には是非私も参加させて下さい」
「もちろんだ、救出作戦は総力を挙げて挑むから頼むぞテンタ」
「はい!」
それから昼食を食べ、今日子と清志と共に基地の最深部にあるギャラクティカダーク号に向かう。外装はほとんど修理が終わっているしメインエンジンと電子機器、生命維持装置や生活に必要な設備も可動状態にある、いつでも恒星間航行が可能な状態だ。
「機体と設備は全て使用可能だ、その意味では修理は100%終わっている。しかし判明していない部分、ブラックボックスが多数あって使用出来る機能という点では全体の90%程度だな」
「プログラムとデータに関しても20%は解析不能だよ、セキュリティーの突破は何度も試みたけど僕でもお手上げ状態だったよ」
清志と今日子もブラックボックスの存在は知っているし、解析は現段階では進んでいないようだ。そして今回は別のアプローチでギャラクティカダークの謎に迫ろうと思う。
「今日子、王族関係の情報から口伝や伝承について当たってくれ。清志は王城の建築、工事、改修の記録を調べてくれ。あれだけ巨大な人工物を造ったんだ、何か記録に残っているはずだ」
俺はバイオスキャナーを使ってメインコンピューターの生体部分にアクセスを試みる。俺の中枢神経を生体部分に直結してギャラクティカダークのソウルコアに接触することが目的だ。
「真人さん、危険は無いの?」
「大丈夫だとは思うが念のために強制離脱の処置を頼むよ」
一応、今日子に保険をかけておく。
メインコンピューターの中心部、生体コンピューターと電子機器が融合した中枢部分に行きバイオスキャナーで解析を開始する。
ドクンッ! ドクンッ! 全身の血管が音をたてそうな勢いで脈打つ……何だ⁉︎
俺の脳に膨大な情報が送り込まれて来る! これはミリオネル王国の科学史か⁉︎ 増設、強化した脳機能と意識を集中して情報を処理していく。これは……レベル4まで改造して無ければ間違いなく発狂していたな。
やはりミリオネル王国の科学文明は広域文明圏の中でも頭一つ飛び抜けている。そしてその理由は王城の地下にあったギャラクティカダーク号のメインコンピューターが定期的に、時の国王に科学技術や文明を伝えていたからだ。
俺の脳、神経、血管が悲鳴を上げる。
そして……ギャラクティカダーク号はミリオネル王国建国王であるマクシマス一世が何者かに譲られたものだった。惑星ミリオネルに着陸した後、地下に封印されその上に王都と王城が建設されたようだ。
マクシマス一世にギャラクティカダークを譲った者は誰なんだ?
「今見せられるのはここまでだよハーリー」
その声と共に俺は意識を失った。
目を覚ますと共同研究室のソファーに横たわっていた、なんでも今日子と清志が調査を開始して間もなくシステムが強制シャットダウンされ、メインコンピュータの中心部に行くと俺が倒れていたという。
「真人、大丈夫か?」
「ああ、心配ない。メインコンピューターと中枢神経を直結して情報を集めたんだが負荷に耐えられず気絶したようだな」
「でも良かったよ、十分そこそこで目を覚ましてくれて。本当に心配したんだよ」
二人には心配かけたみたいだな、システムは俺が目覚める前に復旧して特に問題は無いらしい。俺は二人にギャラクティカダーク号とミリオネル王国について知った事を全て話した。
「やはりオーバーテクノロジーだったんだな。ミリオネル王国が広域文明圏のなかで最も古い国家ならば、それ以前の超文明の遺産である可能性が高いな」
「じゃあギャラクティカダーク号のことは王だけに伝わる秘伝だったんだね。緊急脱出したイーマ様には伝えられなかった可能性が高いな……一応王家のデータベース調べてみるよ」
それから情報を整理していると視界が赤くなったので引き上げたが今日子と清志はまだ大丈夫そうだ。やはりあの現象は中枢神経にかなり負担がかかったようだな夕食にはまだ早いのでとりあえず風呂に入る。
風呂には俺一人だけだから気分を落ち着けるには丁度いい。
ギャラクティカダーク号に関しては現時点でこれ以上の情報を得ることは出来ないだろう。これからしばらくは、ゼロとクラヴィーアの船の事に集中しよう。
「俺をハーリーと呼ぶお前はだれだ?」
天井に向かって問いかける俺の呟きに答えるモノは無かった。
次回はハルちゃんのターンです。




