塩湖の底に眠るもの
起動キーの解析によりクラヴィーア共和国の宇宙船の現状、そしてロシアの目的があっさりと判明した。
「さっきのウリアーナの話なんだけど少し補足があるんだ、ヴェロニカと出会ったのはシーロズ族の技師であるチャック。クラヴィーア共和国の人間? で大気中で活動出来るのはシーロズ族だけなんだ。チャックは何とか生命を維持出来る塩湖を教えてくれた事と、いつか海につれて行ってくれると約束したヴェロニカに感謝して彼女に科学知識と当時としては高度な数学を教えたんだ。そしていつか海に辿り着ける日を夢見て仲間と共にコールドスリープに入ったんだ」
「シーロズ族ってテンタさん? テンタさんってクラヴィーア出身なの?」
今日子の話にヒバリが質問する。
「うん、クラヴィーアでもシーロズ族は陸上での活動が出来るから他の星で生き残れたんだけど他の知的生命は深海でしか生きられないんだよ。惑星クラヴィーアは陸地面積が全体の2%の水の惑星で水深も7割が800m以上の深海なんだ」
今日子に続き俺がクラヴィーアの知的生命体について解説するか、シーロズ族については俺達はテンタくんを知っているからウリアーナと晴美に向けて説明する。
「シーロズ族は地球のイソギンチャクに似た容姿で八個の目と十本の触手、そして副脳を持つ器用で思慮深い知的生命体だ。基本エラ呼吸だが体内に水を溜める器官があり二、三日に一度水を交換すれば陸上での活動が可能でクラヴィーア人の約二割を占めている」
テンタの動画を見せると二人は各々の感想を持ったようだ。
「あら? 我が家の廊下にある絵にそっくり。創作だと思っていたら肖像画だったのね」
「えっ⁉︎ これって触手モンスター⁉︎ 女の子にエロいことしたりとか……」
「ハルちゃん! ダメだよ! テンタさんは地球人がそんな目でシーロズ族を見ていたら嫌だなーって凄く気にしてるんだから!」
「女子高生までもがこの認識か⁉︎ やはり邪悪な漫画を描く輩は我が友テンタと健全な青少年を護るために成敗せねばならん!」
晴美の感想に対しヒバリと清志が激しく反応する。まあテンタくんは良い奴だしチャックも紳士的な感じだからエロマンガやアニメ、ゲームでそんな扱いをされていると知ったら激怒するだろうな。
「ヒィィィィ! ごめんなさい! 漫研のミツコちゃんが持ってた同人誌に描いてあったんですぅぅぅ!」
話題が逸れそうだから話を戻そう。
「クラヴィーア人は他二種族の知的生命体で構成されていて後は四割ずつだ、地球のタコに似た風貌のチューカイナ族、カニが人類に進化したようなジョイロード族だ。この2種族は深海に適応し過ぎている為水圧、気圧を調整しないと地上では身体に負担がかかり過ぎて死に至るんだ」
「なるほどな、それで生命維持装置のある宇宙船で眠って時を待っている訳か……もしかしてウリアーナが狙われているのはロシア中央政府が宇宙船の存在に気付いたからなのか?」
幸四郎さんの洞察力は確かだな正解だ。
「近年、塩湖の水位が下がり上空から宇宙船が見えるようになったのです。数年前からロシア政府が宇宙船を調査するためにオムス塩湖に調査団を派遣するようになりました」
ウリアーナが口を開き事情を話してくれる。
「もちろん宇宙船に近づく者は高熱を出して死亡しますし、無人調査機やドローンまでもたどり着くまでに故障します、そして直接調べる事が出来ないならばとロシア政府はオムスムルグ王国時代の文献を調べ出したのです」
なるほどな、ウリアーナが日本に留学に来たのはロシア政府からアクアディープと持ち主である彼女を護るためか。宇宙船本体はマイクロウエーブによるセキュリティーが張り巡らされてるから地球の技術では太刀打ち出来ないだろう。
「オムスムルグは高度な数学を持ち、科学技術、学問に於いてロシア帝国、ソビエト連邦時代からロシア政府に貢献してきたので優遇されていたのですがペツーア大統領が就任して以来、各共和国に対する中央政府の圧力が強くなったのです」
「ご両親と兄上は無事なのか?」
幸四郎さんの説明にウリアーナは辛そうに首を横に振るが、今日子がニカっと笑い明るく答える。
「ウリアーナの父さんと母さんだったら昨日、ノルウェーに無事に亡命出来たよ」
みんなビックリした顔で俺達三人を見る、まあその辺は俺達の独断でやった事だからな。
「この間の、襲撃犯を調べたらロシア政府がオムスムルグに強権を発動する気満々だったからな、オムスムルグ内の反ロシア派に首長の亡命を持ちかけたらヤル気満々で快く協力してくれたよ」
「僕の電脳人間にかかればロシアのセキュリティーなんて紙装甲だからね。ウィルスと偽情報で、とことんおちょくってあげたよ」
「ウリアーナの兄貴にも亡命を持ちかけたんだが、反ロシア派のリーダー的存在でな。ロシアによる主権の侵害に対して地下組織を作って対抗するんだと」
あっけらかんと言う俺達三人をみんな様々な表情で見ている、ギャラクティカダークの面々は苦笑いだ。涙ぐむウリアーナと驚愕する晴美がとても新鮮だ。
「さてと、宇宙船の現状だが全てのエネルギーをコールドスリープとセキュリティーに回しているが後100年保てばいいところだな。あとロシアはセキュリティに使われているマイクロウエーブの技術と、船体から確認出来るメーザー砲が目当てのようだ」
「ウリアーナの兄さんダーニルにはインターネットを通して支援しているよ。ロシアの情報は筒抜けだし闇ルートで物資も流してるからね」
「そういうわけでオムスムルグは当面放っておいても大丈夫だが問題はこっちだな。アクアディープとウリアーナが鍵だと分かってるみたいだからきっとまたチョッカイ出してくるぞ」
「大丈夫! まぁぁぁぁかせて! 私の目が黒いうちはウリアーナには指一本触れさせないよ!」
ヒバリが変なポーズをとって威勢よく言う、女子高生の間で流行ってるいるんだろうか?
「いや、大事をとってツバメとツグミを東京に派遣する」
幸四郎さんの提案にヒバリがピョコンと跳び上がって喜ぶ。
「ツバメ姉さんと、ツグミ姉さんが来るの⁉︎ ウリアーナ安心して! 姉さん達が来たら百人力、ロシアのスパイ……んにゃ軍隊が来たって平気だよ!」
「大袈裟に言い過ぎじゃないかしら? でもヒバリさんの強さを見たあとだと少し安心かも」
「お姉さん二人もヒバリちゃんみたいなグラップラーなの?」
「二人はヒバリの従姉妹でなツバメは射撃の、ツグミはトラップのスペシャリストだ。事前に戦力分析と準備をしておけば中隊規模の陸戦部隊なら秒で全滅させることも可能だと思うぞ」
「中隊規模って……歩兵部隊だと200人くらいですよね」
「流石に話し盛って……無さそう」
幸四郎さんの説明にウリアーナと晴美は顔を引きつらせる。
「じゃあ、しばらくアダモヴィッチ家の面々は大丈夫だな?ならばクラヴィーア人の救出作戦に移ろうか」
「お前ら! そんな事まで話し進めてたのか⁉︎ どんだけ手を回してんだよ」
「出来る事なら助けてやってくれ、他人事とは思え無いからな」
「私からもお願いします」
清志が救出作戦を切り出すと真司は驚愕し、ルークとスカーレットは救出作戦に賛同した。
「やり方は極めて簡単だよクラヴィーアの宇宙船を時空フィールドで包んで空間転移させるんだ。ただ時空フィールド発生装置の作成に必要な資源の確保にゴック船長とテンタには三、四回は地球と木星を往復してもらわないといけねえな」
「了解だ清志、だが木星での作業を入れて考えると準備に時間がかかるな、ゴック船長とテンタに休暇を与える必要もあるから作戦決行は早くても来年だな。ところで真人、クラヴィーア人の移住先の候補は決まっているのか?」
「環境的にも利便性的にも俺達のホームであるS湾がベストだな。秘密基地の海底トンネル付近が集落を作りやすい」
「了解だ、コールドスリープしているクラヴィーア人の内分けは?」
「シーロズ族が18名、チューカイナ族が38人、ジョイロード族が40名だ。男女比は各種族4対6で女性の方が多い、種の保存を重視したんだな。あ、一応チューカイナ族とジョイロード族の容姿を見せておくか」
モニターにに種族の映像を映し出すと、各々の感想が出る。
「あら? タコとカニって聞いてグロテスクなの想像してたけど意外とファンシー?」
「回転寿司の絵皿かビーチボールや浮き輪のデザインみたい」
「ロングセラーのパチンコのキャラにも見えるな」
「これなら友達になれそう」
嫌悪感を持たれない容姿のようで良かった。さて、東京で「銀河バイオ」の仕事を済ませたら秘密基地に戻ってゼロの事や救出作戦の準備で忙しくなるな。
面倒な事はとっとと済ませて秘密基地に帰るとしよう。
次回秘密基地に戻ります。




