ゼロと幸四郎さん
今回会話がメインになってしまった。
梅津女子学園の寮を襲撃した賊は、ロシアのスパイだった。対外組織のSVRが二人と連邦内が管轄のFSBが三人、易々と日本に侵入して堂々と活動してるなんてこの国の対スパイのセキュリティーはザルなのか?
目的はロシア連邦に属するオルスムルグ共和国首長の娘であるウリアーナ アダモヴィッチの身柄を拘束すること。どうやら彼女が身に付けているアクセサリーに何か秘密があるようだ。
後、彼女の兄であるダニール アダモヴィッチが独立運動の首謀者である事も無関係では無いだろうな。
そちらの問題はサイバー攻撃とスパイの記憶を一週間分消去して返す事で問題ないだろう。ただスパイの持っていたアクセサリーの写真を見たルークとスカーレットが気になる事があると言う。
深く濃い青のクリスタルのような材質と刻まれたシンボルマークが1万年前に近隣諸国の紛争に巻き込まれて母星を失ったクラヴィーア共和国の特産品とシンボルマークにそっくりだと言うのだ。
調査の必要がありそうなので機材の用意をしてから後日、俺と清志と今日子、そしてルークとスカーレットで東京に行こうと思う。
その件は日付が決まり次第、幸四郎さんがヒバリにウリアーナを同席させるように伝えてくれるらしい。
食堂と繋がっている共有スペースのリビングでバイクのカタログを見ているといつのまにか今日子と清志が覗きこんでいた。イーマ様も興味深かそうに見ている。
「真人さんがバイクって意外だと思ったけど本当に好きなんだ」
「恩田技研か、俺の周りはワカサキ派が多かったな」
「地球の乗り物? 楽しそうだね」
「真人、バイクを買うのか? 休日を楽しむには良い趣味だな」
コーヒーを片手に入って来た幸四郎さんの肩にはターチをオウム大にしたような形状の紫色をしたミニドラゴンが乗っている。
ターチの兄であるゼロの意識を移した俺と清志と今日子が造った小型のロボットだ。
ゼロという名は幸四郎さんが名付けた、試作品という意味とやはり昔に乗っいた戦闘機の名だから愛着のある名前なんだろうな。
「みなさんはここで休憩をとられているのですね。しかし、ここのみなさんは仲が良くてとてもいいですね。私も仲間に入りたいです」
「ゼロ、お前はすでに俺たちの仲間だ。作戦決行の日までみんなと一緒に過ごして良い思い出を作ろうじゃないか」
「ゼロのご飯はどうしますか?」
マイが幸四郎さんを見上げて質問する。彼女たちメイドロボ3人娘はギャラクティカダークの衣食住の世話をすべて賄っている。
「私は食事を必要としません。ですがみなさんが美味しそうに食事を取る姿を見るのは大好きなんです」
「わたし達みたいにお菓子とかご飯を食べられるようにしてあげられないんですか?」
マイの質問に幸四郎さんは閉口してしまった。マイは俺に振り返り無邪気に言う。
「博士、ゼロも私達みたいにお菓子やご飯を食べられるようにしてあげて下さい。一緒に食べられたらもっと仲良しになれると思います」
「そうだな、明日にでもやっておくよ」
「ぜひお願いしますね!」
マイは嬉しそうにツインテールの髪を揺らしながら厨房に帰って行った。
ゼロは幸四郎さんの肩を離れイーマ様とオセロをして遊んでいる。
「真人……いいのか? ゼロはあと三カ月でいなくなるんだぞ」
幸四郎さんが戸惑いながら言うが俺はあっさりと答える。
「エネルギーが電力から食べ物に代わるだけの話で何の問題もないですよ。作戦決行までいい思い出を作るって言ってたのは幸四郎さんでしょう? 一緒にメシを食うのもいい思い出になると思うんですけどね」
「それもそうだな……そうしてやってくれ」
「幸四郎さん、なんかゼロに凄く優しいね」
「ターチの試作品とはいえ自我を持っているんだ、物心付いて間もなく死期を悟り最後に華々しく散りたいって……なんか昔の戦友達を思い出してな」
しばらく遊んで疲れるとイーマ様は自室に帰り幸四郎さんとゼロも食堂から帰って行った。メイドロボ達も後片付けをしているので食堂にはいつもの三人組だけが残っている。
「真人、俺たちには隠し事は無しだ。何を企んでいる?」
「真人さんって見るからに何か企んでるんだよねぇ、僕たちにも一枚かませてよ」
まあこの二人にはそろそろ話そうかなと思っていたところだしな。
「なあ、生物と無生物の違いって何だと思う?」
「それって答えの出ない問答だよね」
「堂々めぐりになる議論の定番商品だよな、お前がそんなネタ持ち出すなんて珍しいな」
「清志は今でもまだ相対性理論を信じているのか?」
「ミリオネル王国の科学では解き明かされているのか?」
「ここから先は他に聞かれたくないな」
「じゃあ明日の共同研究の時間だね」
解散して風呂に行く、今は誰も入っていないので1人で湯船に入り静かに思考を巡らせる。みんなといるのも悪くは無いが、やっぱり1人で考える時間は欲しいな。
明日、あの2人にはアノ事もついでに話しておこうかな。たぶん気付いているとは思うんだが……認識は共有したほうが良いだろう。
翌朝、集合するとゼロに人口消化器官とエネルギー変換装置を取り付ける。部品もプログラムもメイドロボの流用で間に合うので小一時間ほどで作業が終わった。
「博士、ありがとうございました」
ゼロは嬉しそうに礼を言うと、幸四郎さんの肩に乗って行った。もうすっかり定位置になっているな。
「なあ真人、昨日の話なんだがもしかしてソウルコアか?」
「そうだ、ソウルコアの有無が生物と無生物の徹底的な違いだ」
「魂が有るか無いかだね。なるほどなぁ魂の存在が立証されているんだったらそうなるよね」
「それじゃあアイ、マイ、ミイは生物だという事になるのか。身体は人工物だけどソウルコアがあるから生物ってことだな」
「そうだ、そしてゼロにはソウルコアが無かったから生物とは言えなかった。だがメインコンピュータとのリンクが開き脳が活性化、もしくは他の要因によりソウルコアが生まれたんだ」
「じゃあ、アイ達みたいに別の身体に……それこそ今の状態でいれば大丈夫なんじゃないの?」
「あれは精神波を使った遠隔操作だから直接ソウルコアを入れたらいけるんじゃないか?」
「それがゼロのソウルコアは微弱で肉体から移すと、たちまち劣化してしまうんだ。メイドロボは元々生きていたし死後もオレと同化していたから安定していてコアブロックに入れる事が出来たんだ」
「ソウルコアを強くする方法は無いの?」
「今やってるよ」
「「え⁉︎」」
「ゼロに人と関わらせて色々と経験を積ませるんだ。この2二、三日でゼロのソウルコアはかなり活性化して来ている。このペースだと三ヶ月後にはコアブロックに移すことが出来るだろうな」
「それなら中東に行かなくても良くないか?」
「いや、やっぱり目標が無いと活性化は進まない。それに他の人間に知られると意識してしまって、活性化が阻害される可能性が高いからな。やり切って満足してから移したほうがソウルコアが安定する可能性が高い」
「じゃあ真人さん、ゼロの体を考えなきゃね。ちびドラゴンも良いけどアイ達に合わせて執事とかも良くない?」
「戦闘アンドロイドってのも良く無いか?」
「別に人型にこだわる必要は無いからな」
「「メカ龍も捨て難い!」」
なんか三人で盛り上がっていたらもう昼だな、今日子の腹がグルルッキュルルルとえらい音で鳴り出した。
食堂に行って昼食にする、俺は肉団子の甘酢あんかけ定食で飯は丼で味噌汁もオカズも大盛りだ、さらにモツ煮込みが付いている。
俺は出された分しか食べないからカロリー不足だったので幸四郎さんの指示で食事量を増やされている。
中枢神経の改造をレベル4まで進めた俺たち三人はカロリー消費が常人の三倍で大量の睡眠時間が必要なので体調管理は必須だ。俺は食事量、今日子は睡眠時間が足りなかったので幸四郎さんに管理されている。
まあ今日子は今でも夜更かしをして毎日のように幸四郎さんに怒られているんだが。
「あっ!いいなモツ煮込み、ミー俺の分は無いか?」
「お父様の好物なのでちゃんと用意していますニャ」
清志はメイドロボに自分の事を「お父様」と呼ばせている。間違いでは無いから別にいいけど。
俺たちが食事をしている横で幸四郎さんがゼロと食事をしている。
幸四郎さんはメバルの煮付け定食をゼロは向かいでテーブルの上に座りクッキーとミルクを食べている。本当にゼロは幸四郎さんに懐いているなあ。
「幸四郎さん、私は最後の時は自分の翼で思いっきり空を飛びたいのです」
「空はいいなぁ、俺も今は偵察機しか乗ってないが零戦は爽快だったよ、まあ敵機に撃墜されてしまったけどな」
幸四郎さんが楽しそうに笑いゼロも楽しそうに笑う。
「幸四郎さんと共に空を飛べたらいいんですけどねぇ」
「叶う事ならそうしたいもんだな」
清志と今日子の顔を見ると、たぶん俺と同じ事を考えているみたいだな。
まずはゼロのソウルコアを活性化させることが最優先だ。
午後からは東京に行く準備をしないとな。
次回は梅津女子学園に戻りハルちゃん目線になります。




