阿久先生の頼みごと
(注)劇中に登場するオルスムルグは架空の国家です。ググらないで下さい。今回もヒバリ目線です。
私は今、学生寮にいる。同室のハルちゃんは部活であと一時間は帰って来ないから今のうちに通信を開いてギャラクティカダークに報告しよう。
入学時に持たされたスマホは市販の物と見た目は同じだが中身は全く違う、組織専用の機能が満載だ。イヤホンをセットして通信を開くと画面に触れずとも脳直結で操作及び通話が可能だ。
ギャラクティカダークにはこの時間に報告をするとちゃんと事前連絡を入れてある。作戦司令室に回線をつなぐと幸四郎さん、真人さん、今日子さん、浩二さんと真司さんが映った。
「ヒバリ、学校には慣れたか?」
「成績はもちろんトップだよな、俺たちが教えたんだから」
「ヒバリちゃん、友達できたぁ?」
「ここは常識とはかけ離れてるからね、普通の学校に通って困った事は無いか?」
「一応、俺が保護者だから何でも相談してくれよ」
なんか普通に子供の安否確認みたいな感じがするんだけど……いやいやっ! ここは組織の一員として失敗を報告せねば! 私は学校で非常に目立つ存在になってしまった事を正直に報告した。
「「「ふーん」」」
えっ⁉︎ みんなして「ふーん」って任務失敗だよ! と思ってたら真人さんが深い溜め息を吐く。
「お前の言う任務って何だ?」
「えっ⁉︎ そりゃあ人脈作りと情報収集……」
「忍者の悪い癖だぞ! 隠密行動にこだわり過ぎだ!」
怒られたけど、なんか思ってたのと違う。
「いいか! よく考えてみろ、今のお前は文武両道の優秀な人間であるだけでなく、クズを懲らしめて舎弟にした弱きを助ける存在だ」
あっ! 目立たない事に拘ってたけど本来の目的を考えたら……。
「そうだ! 今の私ってみんなから尊敬されていて、すっごく興味もたれてるんだ」
真人さんがニヤリと笑う。言ったら悪いけど、すごく悪そうな笑顔だ。
「ようやく分かったか、お前は一年生の実質的なボスなんだよ。隠れてコソコソやるよりも堂々としといた方がよっぽど良い人脈が作れるし情報も手に入るぞ」
「ヒバリちゃん、あまり任務とかに拘らないで楽しくいこうよ。僕等だってイーマ様や仲間のためには頑張るけど基本は好きなように生きてるんだから」
「そもそもお前がそこに居る理由はルークのサイコウエーブ「ベストフィット」で東京の高校に通うことがギャラクティカダークにとって有益と出たからだ」
幸四郎さんの言う通りルークさんの適材適所を判断する特殊能力で私はここにいる。細かいところまでは分からないから志望校とかは学者さんと文官で決めたんだけどね。
「だからあまり任務とかよりも高校生活を楽しんだらいい。ただルークの能力で組織に有益となってるから小さな事でも気付いたらすぐに報告するように」
「近いうちに、東京で銀河バイオのプレゼンするから一度真人と一緒に顔を出すよ」
浩二さんと真司さんは保護者として応援してくれてる。よし! 失敗じゃないんだ明日から自分らしくやってやろう。
「そろそろ同室のハルちゃんが帰って来るから切るね。私、頑張るから」
ガッツポーズするとみんなが手を振ってくれた。隠れ里から離れてギャラクティカダークの一員になって本当に良かったと思う。
ハルちゃんが帰ってきたので一緒に食堂に向かう、寮の食事は結構美味しいけどアイ、マイ、ミイの作るご飯にはちょっとだけ負けてるなぁ。
次の日からとりあえず学生生活を満喫する事にした、真人さんにお前がボスだって言われたけど特に何もしない。気になることがあれば報告するくらいかな。
クラスのみんなとも仲良くやってるし、高校生も悪く無いな〜って思ってたら放課後、副担任の阿久先生に話があるって呼び出された。いったい何だろう?
阿久先生は今年教師になったばかりの新人さんだけど、すっごく落ち着いている。ストレートの長い緑の黒髪、白い肌、切れ長の目をした美人さんだ。
「風間さんの活躍は職員室でも評判よ、文武両道なのに謙虚でとっても良い生徒だって。しかも先生方が問題視しながら手を出せなかった小根川さんのグループを改心させるなんて凄いわ!」
う〜ん……ほとんど私が睨み効かせてるからなだけで、改心した訳では無いと思うんだよね。あの子達、性根が腐ってるからなぁ。
「いやあ、それ程でもないですよ。なんとなくって言うか成り行きでそうなっただけなんで」
「フフッ、学力優秀で不良を改心させるなんて、私の兄さんみたい」
「先生、お兄さんがいるんですね。どんな人なんですか?」
何気ないやり取りだったが私はその質問をした事を深く後悔することになった。
「聞きたい? 聞きたいよね! 私のお兄さんはねえ、とおぉぉってもカッコ良くてしかも頭脳明晰で……あっ! 勉強が出来るだけじゃないのよ! 新しい発想と鋭い直感、溢れるイマジネーションで兄さんの理論はいつも完璧なの! 今は科学者なんだけど出世と金にしか興味の無い頭の腐り果てた年寄りにハメられて、学会を追放されたんだけど不死鳥のように蘇り……」
先生の兄自慢は下校時間を告げる音楽とアナウンスが放送されるまで続いた。私はもう思考停止状態だ、里や組織でもこんなのに耐える訓練は受けて無い。
「あら⁉︎ ごめんなさい! 兄さんの話をしだしたらつい……」
根こそぎ持っていかれた気力の残りを掻き集めて先生に質問する。
「話ってお兄さんの自慢だったんですか?」
「違うの! ごめんなさい! 兄さんの事を話し出したら止まらなくなっちゃって……私、2時間も喋ってた⁉︎ 長いこと会ってないから深刻な兄不足で……」
「本題は何ですか?」
「えっとね……英語が堪能で人気者のあなたにお願いがあるの、えっと兄の話で疲弊させたみたいだからファミレスに行きましょう! 何でも奢るわよ、寮には連絡しとくわね」
どうやらお詫びも兼ねて奢ってくれるらしい、ファミレスって初めてだからちょっと楽しみ。
「まあ、予算はたっぷりあるからいいけど凄いわね……勉強もスポーツも万能で、音楽も一流でコミュニケーション能力も高い。その上フードファイターまで目指せそうね」
「えっ! ごめんなさい初めてのファミレスでテンション上がり過ぎてつい! お金あるから自分で払います!」
「いいのよ、実家金持ちだし、父親が要らないって言っても毎月沢山の仕送り送って来るから」
テーブルの上にはミックスピザ、ゴロゴロお肉のミートソースパスタ、ふわとろ玉子のオムライス、ミックスグリル、BLTサンド、シーザーサラダ、山盛りフライドポテトが所狭しと置かれていたが、美味しかったのであっと言う間に平らげた。
ギャラクティカダークのご飯のほうが美味しいとは思うけど、外食ってテンション上がるわぁ。
「そんなに食べて太らないなんて……世の中不公平だわ」
冷や汗をかく先生の前でデザートのミックスベリーパフェを食べながら質問する。
「ところで頼みって何ですか?」
「ウリアーナ アダモヴィッチさんの事なんだけど……あの子と友達に、無理なら話し相手になってあげてほしいの」
なんでもアダモヴィッチさんはロシア連邦に属するオムスムルグ共和国の首長の娘だそうだが国がゴタゴタしているらしくて日本に留学という名の避難をしているらしい。
「祖国が大変で慣れない異国の地でしょ、教室でも寮でも孤立してるのよね」
イーマ様達も地球にたどり着いてギャラクティカダークの組織が出来るまでは寂しかっただろうなぁ、と思うと何とかしてあげたい気持ちになってきた。
「先生! 私に任せて! どこまで出来るか分からないけどやってみる」
「ありがとう! お願いするわ、風間さん」
よし! じゃあさっそく明日、ウリアーナさんに話しかけてみよう。
ギャラクティカダークは下の名前で呼び合うフランクな組織なのでヒバリは真人の苗字を知りません、あと一回ヒバリ目線です(思った以上に長くなった)。




