プロローグ 戦慄する大国
第二章の序章です。
アメリカ視点(エージェントセネガータ中心)になります。
この数ヶ月、自衛隊のFー15戦闘機のスクランブル発進が毎日のように行われている。中国、ロシアからの領空侵犯が頻繁にあるからだ。北朝鮮から飛翔体もひっきりなしに飛んで来る、日本領海を飛び越えハワイ諸島周辺に着水した物も少なくない。
日本の排他的経済水域に中露の艦艇が侵入するのも日常茶飯事で、海上保安庁と航空、海上自衛隊は多忙を極めている。
在日米軍基地の軍備増強に加え、日・米両国の国防予算の大幅な増額、米政府高官の日本常駐など見ようによっては中露北への圧力と見られてもおかしくはない動き……むしろそう見るのが普通だろう。
だが日・米が連携する真の理由が異星人の暗躍だと公表するのはまだ早い。彼らの目的も組織の規模も、何一つ分かってはおらず下手に手を出すことは危険だからだ。
MSSのエージェント数名、プロの産業スパイ数名がフロント企業である「ギンガバイオ」に侵入したが全員が行方不明だ。
探りを入れたアメリカ国防総省のエージェントとMI6のエージェントも記憶を操作されて帰された。
サイバー攻撃に対する防御も完璧だ、仕掛けた者は返り討ちに会いデータ破壊や情報拡散という報復を受けている。
現時点で分かっている事は地球の文明では彼らに太刀打ち出来ないということだけだ。
S県の県庁所在地であるS市の中心部にあるオフィスビル14階「銀河バイオ」のオフィスに一人の白人男性が訪れた。本社はS湾に浮かぶ人工島なのだが交通の便が悪いのでビジネスの窓口は交通の便の良いS市内に置いてある。
「カリフォルニアアグリカルチャのテリー バートン様ですね、担当者が案内しますのでおかけになってお待ち下さい」
通された商談室は清潔で簡素でありソファの座り心地も良く照明や空調も心地よい。それほど待つこともなくドアがノックされ長身の白人女性と黒人男性が入室する。
「初めましてバートン様、私営業担当のスカーレット オバマと申します。本日はクリーナーパンジー及びクリーナー睡蓮の商談でよろしいですね」
「技術担当のテンタ ルクスと申します不明な点があれば説明しますので遠慮なくお願います」
商談は滞りなく進みクリーナーパンジーとクリーナー睡蓮の売買契約は成立してお互いに握手を交わす。
「カリフォルニアアグリカルチャが実在の会社である事は確認済みですが貴方との契約は有効なのかしらエージェントセネガータ」
目の前の女性の顔が道化師のメイクのような模様に変わる。肌の質感から考えてこちらが素顔なのだろう。
隣の黒人男性はイソギンチャクのような形状の生物に変身する。触手をウネウネて動かす怪物が、後ずさるセネガータに話かける。
「驚かせてしまい申し訳ありません、エージェント セネガータ。貴方が偽名を使いこちらの調査に来られる事は事前に察知しておりました。地球人スタッフに任せる案もあったのですが異星人とのコンタクトに慣れていただく事も含めて、我々が対応する事となりましたのでよろしくお願いいたします」
「え⁉︎ いや! こちらこそよろしく……お願いします」
セネガータは完全に虚を突かれてしまった。抵抗は無駄だろう、この場合は相手の出方に任せる以外に対処法は無い。とりあえずスカーレットの質問に答えておく。
「私はCIAのエージェントですがカリフォルニアアグリカルチャの委託を受けていますので契約は有効です。どうやら我々の動きはあなた方に筒抜けのようですね」
「はい、隠す必要も無いので言わせていただきますがホワイトハウスやペンタゴンの動きも掌握しておりますわ」
「ビジネスマンのテリー バートンとして信頼関係を築きながら情報収集をするつもりだったのですが無意味でしたね」
スカーレットが窓のブラインドを上げると目の前は水槽? いや! 海中なのか⁉︎
「場所は明かせませんが此処は深海にある我々の本拠地です、部屋ごと転移させました。もちろんGPSを始めとする位置情報、電子機器等は使用出来ません」
セネガータはソファに深々と沈み込み覚悟した。作戦は失敗、記憶操作をされて帰されるかそのまま消されるか……。
「何やら覚悟を決められているようですが商談は成立していますので無事に帰っていただきますよ」
「へっ⁉︎」
ドアがノックされ猫のような耳と尻尾を着けメイド服を来た女児がティーセットを持って入って来た。
「失礼いたしますニャ、紅茶とフィナンシェをお持ちしたニャ」
子供にしか見えないが成人なのかもしれない、耳と尻尾はアクセサリーではなさそうだ。
「どうぞお召し上がりになって下さい、この子の紅茶と焼き菓子は絶品ですよ」
触手モンスターのテンタがティーカップを触手で掴み、頭頂部にある口に流し込みフィナンシェを放り込む。実にシュールな光景だ。
「私を記憶操作無しで帰すと言うことは何か目的があるのですか?」
紅茶をひと口飲むと確かに美味い。
「貴方にはメッセンジャーになっていただきます。支障のない範囲であれば質問に答えますよ」
「あなた方は様々な異文明や種族の連合なのですか?」
セネガータの問いにスカーレットが微笑みながら答える。
「我々は同邦人です、あなた方の国も白人、黒人、黄色人種等、様々な人種が暮らしているでしょう? それと同じですよ」
その後も様々な質問をしたが、核心にせまる情報を得る事は出来なかった。そして窓の外が淡く光ると窓の景色はS市内のものになっていた。
「では大統領によろしくお願いいたします」
「またいつか会える日を楽しみにしていますよ」
白人女性と黒人男性の姿に戻った? いや擬態した二人に見送られセネガータはアメリカ本国に、彼らからのメッセージを伝えに戻るのであった。
本国に帰還したセネガータは身体検査にたっぷりと時間をかけられ、二週間ほど軟禁状態となる。
メッセージの内容は、東アジアにおいてはフロント企業である「ギンガバイオ」の業務以外は当面活動はしないので過度な対応は地域の緊張を高めるだけであるという忠告。中東地域、中央アジア周辺で実験的な活動をするので、もしかしたらアメリカに影響があるかもしれないというザックリとしものだった。
アメリカ軍部及び情報部は日本にエージェント、ツポーコンとセネガータを残し、その他の米軍、政府高官は全て本国に撤収させる。
変わって中東地域の監視体制を強化、兵力の増員をするがこちらは予定にあったので問題無い。イスラエルには異星人の干渉の可能性を伝えCIAとモサドの協力体制を確立した。
それからおよそ二年後、アメリカ政府は世界情勢の急激な変容に四苦八苦していた……。
中東地域に巨大なモンスターが出現したことを発端に次々と想定外の事態が連続して起きたのだ。
ムスリム神国を始めとした複数の国際テロ組織の壊滅、中東地域全体の内戦、紛争の終結。ロシア連邦に属する共和国の相次ぐ独立。
EUが解体し事前に離反していたイギリスと中東の一部の国々、ロシアから独立した共和国を含む新生EUであるNEUが誕生した。
NEUは宗教的不可侵条約と数々の通商条約をもとに相互協力体制を確立し、中国資本からの撤退、アメリカとの軍事同盟からの離脱を表明する。
NEUに属する核保有国は核兵器の完全放棄を宣言、さらに全加盟国の脱原発を公約した。
早すぎる変化の波に大国であるアメリカ、中国は翻弄されて混乱の極みだ。ロシア連邦は共和国の相次ぐ独立と長期政権を築いていたペツーア大統領の失脚により解体され民主化、NEU加盟の方向に動いている。
世界の経済、軍事バランスの急激な変化、大国の影響力の急激な低下。世界中の国家が混乱しているというのに各国の市民生活は比較的安定し、紛争や内乱も影を潜めているという矛盾。
全てが謎だらけの状態だが確実に分かっていることが一つだけある。それは裏で謎の組織が暗躍しているという事だ。
今回から火、木、土曜日の更新になります。
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