帰省
第一章最終話です。
やっぱり死んだ事にしておくべきだったな……新幹線のホームに降り立ち、改札に向かう足取りはとてつもなく重い。駅前のロータリーに行くと約束通りに迎えの車が来ている、ヨコタの高級車ブランド、レスサクの最上級車だ。見覚えのある顔の運転手が俺に深々とお辞儀をする。
「お久しぶりです真人さん」
「老けたなあ吉井さん。実家の運転手に定年はないのか?」
「今年で67になりますが、お父上の恩情により雇っていただいております。どうぞ、皆様がお待ちかねですよ」
気が進まないまま後部座席に座る。最高級車だけあって快適なんだろうが正直に言うと、清志が魔改造したコンパクトカーのほうが乗り心地が良い。あのサイズに慣性制御装置を組み込めるのは清志くらいだろう。
東北だからまだ雪が多いだろうとみんなに言われたが太平洋側のS市ではそれほど積もらない、路肩に少し残っている程度だ。
ヒバリの梅津女子学園高等部合格が決まった日、銀河バイオに実家から連絡があった。十年以上顔を出していないから一度実家に来るようにと言われたが、本当の目的はバレバレだ。
M県S市中心部から少し離れ閑静な住宅地の奥にある無駄に大きな屋敷が俺の生家だ。二度と来る事は無いと思っていたが今回は仕方ない、阿久家の長男として最後の帰省になるだろうからな。
大層な門をくぐり車を降りると、クソ親父の秘書や家政婦一同が俺を出迎える。相変わらずこの家は何もかもが大嫌いだ。
上客用の応接室に案内される。案内役は親父の秘書であり俺の弟でもある秀人だ。そのうちクソ親父の地盤を継いで立候補するんだろうな。
「兄さん、父さんとの話が終わったら久しぶりに話がしたいんだけどいいかな?」
内心は「面倒くさい、やなこった」なんだが秀人とは別に確執も無いから少しくらいならいいだろう。
「最終の新幹線のチケット取ってあるから手短にな」
無駄に豪華な応接室に案内されると俺の父親である現外務大臣、阿久 桜馬 と母方の叔母で現防衛大臣、大川 ゆかりの2人が俺を出迎えた。
「久しぶりだな真人、盆も正月も顔を出さずにもう何年になる?」
「真人さん、学会を追放されたって聞いたけど良い就職先が見つかったみたいね」
面倒だからサッサと本題に入ってもらおうかな。
「ここににるのは久しぶりに顔を合わせた親族じゃなくて、外務大臣と防衛大臣そして謎の組織の構成員だろ? 茶番は時間の無駄だから省略してくれないか……あっ! それと「儂に恥をかかせた」とか「阿久家の面汚しめ」とかの定形文もいらないから」
「単刀直入に聞くがお前は真人なのか?」
「正真正銘の阿久 真人本人だ。洗脳もされて無いし何かが乗り移っているわけでも化けてるわけでも無い。残念ながらあんたの愚息、阿久 真人だよ」
クソ親父は何か諦めような顔をしている。
「お前は神童だった、単純な成績だけでなく新しい発想、優れた洞察力、鋭い直感。人並み外れた能力を持ちながらなぜ要領よく立ち回らない? それが出来れば政治の世界でも、学術の世界でも頂点に立つ事が出来たはずだ」
「そんなつまらん物に興味が無いからだと何度言えば分かるんだ? 俺は科学者だ、科学を出世や金儲けの道具としか思っていない豚とは違う! 俺は真理を追究する者だ。もっともあんたら政治家という肩書きを持った利権ブローカーには一生分からんだろうがな」
「茶番はいらないと言っといてずいぶん感情的ね、真人さん」
感情的になりかけた俺たちを止めたのはゆかり叔母さんだった、彼女は感情的なバカ親父と違い防衛大臣の顔をしている。
「正直に言うと私達……いえ、日本政府はあなたの所属団体については異星人が運営する組織であること「銀河バイオ株式会社」がフロントカンパニーである事くらいしか分かっていないわ」
「後はアメリカ合衆国のカーネル タロット大統領直々に様々な要請が日本政府対してに出されたという事実だけだ」
「銀河バイオに関する監視、調査の依頼とアメリカ政府高官の常駐、在日米軍の増員、CIAを始めとする諜報機関への協力要請ってところだな。後は銀河バイオに対して深入りしないように……そんなところかな」
「日・米両政府の動きや情報はそちらに筒抜けのようね、それが分かっただけでもこちらには収穫よ」
やっぱり血筋と立ち回りだけで生きてるボケ親父とは違って、元敏腕弁護士の叔母さんはしっかりしているな。
「あなたのバックの目的は何? と聞いても答えてはくれないのでしょうね」
「地球文明への長期的な介入とくらいは言っても支障は無いな。とりあえず、あんたらはアメリカさんの言う事を聞いとくのが最善だと思うぜ。こっちに対しての対応は適切だしな、流石は大国だよ」
少し忠告しといててやるか。
「アホ親父、北梨大臣が失踪して良かったな、後釜になれて。あんたの事を性根の腐ったクズだと思ってたけど、あのブタに比べたら可愛いらしいもんだったよ。あんたも消されないように注意しといたほうがいいぜ」
「あの古狸が自らの悪事を暴露したのは……もう聞くのが怖い。帰る前に秀人に会ってやれ、あいつと沙羅 は今でもお前の事を慕っている」
応接室を出ると秀人が待っていた。自らが運転する車で駅まで送ってくれるようだ、予約した新幹線の時間まで食事に付き合う事になった。
S市内の老舗寿司店の個室に通されると親方のお任せのコースを予約注文されていた。秀人の奴、絶対に前もって予約していたな。
「兄さんにはずっと会いたかったんだ。父さんや叔父さん達と顔を合わすのが嫌だったから絶縁状態なのは分かるけど僕と沙羅には連絡してほしかったな」
「お前達二人とはよく会ってたと思うんだが」
「僕達が東京の大学に入るまではね、兄さん家からは離れたけど大学が近かったからアパートに押しかけた僕達の勉強をいつも見てくれたよね」
そういえばそうだったな塾や家庭教師なんか無駄だと思って二人の勉強は俺が見てやってたな。
「二人とも第一志望合格出来たからよかったよ。万一不合格だったらゴミ親父に俺の教え方が悪いってネチネチ言い続られるところだったからな」
弟と話すのも不思議と悪くはないな。順番に運ばれてくる寿司も美味い、こんど今日子に頼んでメイドロボに寿司の握り方をプログラミングしてもらおうかな。
「兄さん、笑ってるね」
「職場の同僚を思い出してな、色気のない女だけど憎めない奴なんだ」
秀人が心底驚いた顔をしている。
「兄さん付き合ってる女性 いるの!?」
「いや、そんなんじゃない! 気が合っていて、一緒にいて邪魔じゃないだけだ! えっと……いや信頼出来る研究パートナーっていう感じだ」
「アハハッこんなに取り乱す兄さんなんて初めて見たよ、そっかあ兄さん表情豊かになったなあって思ってたんだ」
ちなみに俺は研究バカだが結構モテてたからDTでは無い、まあ長続きした女はいないが。
「兄さんが心を開く人間がいるって事がビックリだよ、家族にさえ余所余所しいのに」
それからは秀人と昔の話に花を咲かせた、子供時代と学生時代は知略を使って色々やったからなあ。いじめっ子を論破して被害者に土下座させたことだとか、罠を張って暴走族と不良グループをいくつも壊滅させた事とか、ついたアダ名は死神博士だったな。
「もう少し早ければ沙羅にも会わしてあげれたのに残念だな」
「そういえば居ないな、そろそろ大学卒業だったか?」
「そうだよ、梅津女子学園の教員に採用されて準備に大忙しさ。先週東京に出たところだよ」
ヒバリの通う所じゃないか、世の中狭いな。それから秀人とSNSの交換をして帰路に着く。秀人が土産を沢山用意してくれた。
「兄さんはこれからも自分の道をいくんだね、羨ましいよ」
「やろうと思えばレールから外れる事なんて簡単だぞ」
「兄さんくらいに強い人間は少数派だよ、僕はせいぜい兄さんの嫌う利権ブローカーにならないように政治屋くらいで頑張るよ」
「政治家にはならないのか?」
「兄さん言う政治家なんて議員一族に生まれたけど一度も見た事ないからね」
「じゃあ新幹線の時間だから、またな」
「沙羅に兄さんのアドレス教えてもいい?」
「頼むからやめてくれ」
笑顔で言う秀人に俺は苦笑いで返した。あいつに知られたら五分毎に通知が来かねない。
登り新幹線に乗り俺のおそらく最期の帰省は終了した。
「おかえりなさい! 真人さん。何その大量の紙袋、お土産?」
基地に帰り着くと今日子が出迎えてくれた。秀人が変なこと言うから少しドキッとしてしまった。
「おっ! 萩の月、くるみゆべし、ずんだもち、笹かまぼこに真空パックの牛タンまで! 太っ腹だねー」
「弟が持たせてくれたんだよ」
「みんな呼んでくるから食堂で待っててよ、和菓子がメインだからアイ達に日本茶頼んどくね」
最期の帰省か……もう俺の帰る場所は実家じゃなくてここだよな。
次回第二章プロローグ、アメリカ目線です。
第二章から火、木、土の更新になります。




